ep.20 バベルの塔 七階 欲望の試練
転移陣の光が静まり、彼らは一瞬、まぶしさに目を細めた。
そこは――金と光に満ちた宮殿だった。
天井には果てのない鏡が連なり、床は黄金の水面のように輝いている。
壁には女神の像が並び、その瞳には宝石がはめ込まれていた。
ミーナが思わず声を漏らす。
「……すごい、こんなに綺麗な場所、見たことない……」
セリアが軽く唇を歪めた。
「でも、綺麗すぎる場所ってのは、たいてい“罠”よ。」
エジスが頷く。
「この層の名は“欲望の試練”。――つまり、心を映す場所です。」
ミリィの未来視の瞳が、鏡の奥を覗く。
その視線の先で、金の海が波打ち、誰かの姿がぼんやりと映りこんでいた。
それは――彼女たち“自身”の姿。
「鏡が……私たちを、見てる……」
静寂を破るように、艶やかな声が響いた。
『――人の子よ。ようこそ、夢幻の宮殿へ。』
黄金の柱の間から現れたのは、
上半身が美しい女で、下半身が巨大な蛇の姿をした存在だった。
長い黒髪、琥珀の瞳、金の装飾で包まれた肢体。
その微笑は、見る者の心をとろかすほどに妖しく、美しい。
『ここでは、欲がすべてを映す。
望むものを見せよう。求めるものを与えよう。
さあ――お前たちの“心の鏡”を覗くがいい。』
次の瞬間、空間が割れた。
鏡が無数に砕け、光の欠片が舞い上がる。
創夜たちは、それぞれ別々の“鏡の世界”へと引きずり込まれた。




