ep10. 精霊の国編 ひとときの休息
風の精霊との戦いから日が暮れ、精霊樹の村には穏やかな夕刻が訪れていた。邪悪な力が去ったことで、村人たちの顔には安堵の笑みが浮かんでいる。
創夜たちは、精霊樹の根元にある村人たちの集会所に集まっていた。勝利を祝いたいところだが、深刻な問題があった。
「やっぱり火が使えないか……」
創夜は、土魔法で即席の石の竈を作ろうとしたが、火属性の精霊がまだ解放されていないせいか、魔法で熱を発生させることができない。村人たちも、料理用の火は焚き火に頼らないといけないのだが、ここは魔法大国だ、そんなものはない。
スーは、短いスカートの綺麗な衣装を着ていた上はローブだろうか、それにしても薄い。ムチは腰にしっかりと装備し、いつ襲われてもいいようなゲームでよくみる格好をしている。
しかし、創夜は平然としていた。
「問題ない。俺の料理道具を使えばいい。夕食は俺が作ろう。村の皆も手伝ってくれ。今日は鍋だ」
創夜は、村人たちが分けてくれた新鮮な森の野菜、精霊樹の村特産の美しい調理済みの素材を大きな土鍋に次々と盛り付けていった。
そこに、創夜が持っていた『特殊な保存食』である、味噌と醤油ベースのタレを絶妙なバランスで注ぎ込む。
村人たちは、久々に味わう暖かい鍋と醤油と味噌の初めての味に驚きながらも、その深い味わいに感動し、次々と鍋をつついた。創夜の鍋は、疲れた体を癒す優しさにあふれていた。
アレルとシオンも、その鍋を口にした。
「う、うまい!創夜、お前最強の料理人だな!」
アレルが歓声を上げた。
料理を食べながら、勇者三人に創夜が次の目的地について確認する。
「火がつかえないのは不便だよな。明日は火の精霊を解放しに向かうか?」
勇者三人が顔を見合わせながら、アレルが答えた。
「ああ。火が使えないのは不便だ。明日の朝一番で行きたいところだが、火は不味いんだよな。まずは水の加護がいる」
シオンは地図を広げた。
「明日は、早朝近くの海の町のバザーに行くか、水着がいるな。風魔法でなんとかなるだろう」
スーが美味しそうに鍋をかわいく食べるながらニコニコと答える
「やっと恥ずかしい格好から解放されるわ!」
創夜は不思議に思った。
(水着は恥ずかしくないのか。なんか不思議だな。)
翌朝、夜明け前の薄闇が空に残るうち、創夜たちは精霊樹の村を急ぎ足で後にした。
「昨日の鍋、本当に美味かったな!あれで一晩ぐっすり眠れたぜ!」
アレルが大きなあくびを噛み殺しながら、機嫌よく先頭を歩く。
シオンは、風魔法で自分たちにかかる空気抵抗を軽減しながら、冷静に地図を広げた。
「この道筋で行けば、日の出から一時間ほどで海の町アークノアに着く。早朝バザーが目当てだ、急ぐぞ」
スーは、口元には期待の色が浮かんでいる。
「ふふん、これでやっと普通の女の子になれるのね!この旅始まって以来の楽しみだわ!」
アレルとシオンは、旅の途中でのスーの妙な言動に時折首を傾げていたが、創夜はたぶんスーは普通の女の子なんだろうな……と自己完結し、特段気にしなかった。
海の町アークノアは、既に活気に満ちていた。海風に乗って魚介の香りが漂い、バザーの露店には色鮮やかな布地や珍しい工芸品が並んでいる。その中でも、一番賑わっているのが、急いで水着の店に入った。
露店には、異世界とは思えないほど多彩なデザインの水着が並んでいる。ワンピース型、フリル付きのビキニ、スポーティなものまである。
アレルは、その光景に気恥ずかしさを覚え、頬を掻いた。
「お、おい、スー。さっさと選べよ。朝飯が先じゃねぇのか?」
「ダメよ、アレル!女の子の水着選びは戦闘なのよ!水の加護が宿る布地、防御力とデザインのバランス、全てを考慮しないと!」
スーは真剣な表情で次々と水着を手に取って試着用の部屋に入っていった。
創夜とアレルとシオンが適当に水着を選ぶ。
スーが中々出てこなかったので、創夜は仲間の女子用の水着をいくつか似合うものを選び買い終わり、三人はスーのロッカーを見つめていた。
アレルが声をかける。
「スー、そろそろ選び終わったか?」
その時、カーテンが開いた。
「これどうかな?」
アレルとシオンの顔がエッチな顔になる。
創夜は相変わらずのポーカーフェイスだがすぐに直視できずに目をそらした。
その水着に三人が指摘した。
「それは、出すものだしすぎだって!」
スーは自慢げにポーズを決める。
「そうよね。この水着戦うと脱げちゃいそうだわ、よーし、やっぱりこっちかな」
カーテンが締まり、気に入った水着を選べたようだ。
「さて、腹が減ったな。酒場に行こう」
アレルとシオンは、酒場潮騒の看板を見つけ、創夜に声をかけた。
「この店にしよう」
酒場潮騒の木製のカウンター席で、創夜たちは朝食を注文した。
「朝から海の町特製の濃厚な魚介スープとライ麦パンが美味いぜ!」
アレルは夢中でパンをスープに浸して食べる。
創夜は、スープの深い味わいに驚きながら、美味しそうに食べながらシオンに問いかけた。
「ワープと土と風の精霊を解放したが俺の飛空艇を解動かすには7つの魔法属性を解放する必要があるんだが、他に何の精霊がいるんだ?」
シオンはライ麦パンを一口食べ、淡々と答えた。
「火と水と雷と光、後は癒しだな」
創夜は疑問に思う。
「癒しか、闇の精霊はいないのか?」
スーがスープをかわいく口に運びながら首を傾げた。
「闇の精霊なんていないはずよ、少なくともこの世界にはね」
(闇がいない。それだと飛空艇を動かせない、これは困ったな。)
創夜が三人に問いかける。
「俺の飛空艇が墜落した謎の闇の空間にここら辺りがあるか?」
アレルが思い当たることがあるような顔をして答えた。
「闇が広がっていて、狭い空間で仲間がバラバラになったとすると、1ヵ所しかないな」
スーが続けた。
「次元の狭間ね」
シオンが思い出したように答える。
「あー、魔王との戦いの前に何回か行ったな。お前の仲間は別の次元にいるだろうなぁ」
創夜がリリィの姿が見当たらないことに気がつく。
「そういえばリリィの姿が見当たらないが?」
スーがパンを口に運びつつ頬を緩ませた。
「リリィは、妖精の国に行ったわよ。妖精の王にお願いをしに行ったみたいよ」
スーは、嬉しそうに朝食を平らげると、創夜に向き直った。
「創夜、これで準備万端よ!水の神殿は海の町の近くの海の神殿の中よ!、水着に着替えて準備しましょう」
創夜は、湯気の立つスープを飲み干し、決意を固めた。
「よし、わかった。水の神殿へ向かおう!」
あとがき
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クラスで一人だった主人公は、異世界で今までの最高の仲間と共に冒険をしてきました。しかし、別の次元までついてきてくれた桁外れの強さの仲間とはぐれてしまいます。会いたくても、精霊を解放しないと飛空艇も、魔法もつかえません。仲間たちは神々からもらったチート武器を持っているので心配ありません。
しかし、ポーカーフェイスのあまり話さない主人公も遊んで戦っていたのにボスを次々と一撃で瞬殺しています。口には出しませんが、焦っているのでしょう。
また、リンの隠れ里の気を使うことができます。感知、強化など、優れたチートの技です。
飛空艇の再起動に必要な七つの精霊のうち、残り4つ。しかし、勇者たちの口から出たのは、飛空艇が墜落した場所の正体、そして、創夜の仲間たちが飛ばされた先……**「次元の狭間」**という衝撃の事実でした。
さあ、守られ続けてきた仲間は今、何をしていると思いますか?
異世界にまで創夜についてきてくれた仲間たち。
これまで、チートな主人公・創夜という絶対的な盾と矛に守られ、ほとんどの困難を乗り越えてきました。彼女たちの攻撃は強力ですが、創夜の隣では「守られる側」だったと言っても過言ではありません。
そんな彼女たちが、今、創夜の守りがない**「別の次元」**という未知の場所にいます。
皆様は、彼女たちが今、そこで何をしていると思いますか?
この先の展開をおたのしみに。




