ep9. 精霊の国編 精霊樹の頂上
一行はついに、巨大な精霊樹の頂上にある神殿の広場へとたどり着いた。
しかし、その広場の中央で彼らを待っていたのは、神樹の頂上の清浄な空気とはかけ離れた、黒く染まった超巨大な竜巻だった。
それは、土埃と邪悪な紫色の稲妻を巻き込みながら、天を衝く巨木の上で禍々しく唸りを上げている。まさに、ディザスター・ゼファー(厄災の微風)そのものだ。
「あれが、邪悪に染まった風の精霊……!」
アレルが息を呑む。
シオンは双剣を抜き、額に汗を浮かべた。
「これほどの邪悪な渦、ただの風じゃない。周囲の空間そのものが歪んでいる」
そして、レオタード姿で彼らを先導していたスーの顔が鋭くなる。ムチを握る手が、強くなるのがわかる。
「あれね、覚悟しなさい!」
「スーさん怖っ!」アレルとシオンが目の前の敵ではなく、スーに怯えている。
その時、ディザスター・ゼファーが唸りを上げた。
『キヒヒヒヒ……清浄な精霊の力など、もはや我が腹を満たす塵芥!お前たちの命も、その身を構成する愚かな土塊も、全て虚無に帰してくれるわ!』
竜巻の核から、邪悪な風の波動が放たれた。
「来るぞ!」
「チィッ!」シオンが素早く一歩踏み出し、双剣を十字に構えて風を受け止める。
アレルも全身に気を漲らせ、防御態勢に入るが、その一撃は大地を削り取るほどの威力だ。
このままでは、広場が完全に破壊される。
「アレル、シオン!二人で風の進路を限定して私が決めるわ!」
「はいよ!」
「任せろ!」
三人は即座に動き出した。
アレルとシオンは両サイドから勇者剣術・メガスラッシュとダブル・クロスの攻撃を仕掛けるのにスーが合わせた。三人はトライアングル型に陣取りをしている。勇者一向の流石の連携だ。
「いくわよ!、あんたを倒さないと風魔法がつかえないのよ!覚悟しなさい」
ムチが描く神聖な黄金の軌跡は、巨大な土龍となり竜巻に襲いかかった。
勇者鞭術・ガイア・ドラグーン
ムチの軌跡に沿って地面が隆起し、巨大な土の龍の頭部が顕現する!
「グラビティ・ケージ(重力の檻)!」
土の龍から放たれた絶対的な重圧が、竜巻の側面を押し潰そうと襲いかかる。
しかし、風の精霊は笑う。『無駄な質量だ!我が身は虚無!』
「もういっちょ!」
アレルが二人に合図をする。
アレルの大剣の渾身の一撃が竜巻へ向けて放たれる。
シオンは双剣を一つの流れとし、竜巻の回転軸に沿って真空を生むような高速の斬撃を打ち込み、風の勢いをわずかに殺した。
そこに、スーのムチから先ほどの土龍が三体出現し竜巻の回りを回るように竜巻を攻撃した。
三人の連携、トライデント・グラビティ・マギスにより、超巨大な竜巻は一瞬、重力の檻の中に閉じ込められ、その動きを極限まで鈍らせた。
「三人とも、そのまま動かないでくれ!」
創夜が三人の連携を邪魔しないように様子を見ていたが相手の動きが止まったところで攻撃に入る。
創夜の無表情な顔に、わずかな変化が生じた。瞳の奥で、静かな集中力が発火する。
「竜巻を斬る技、か……」
ぽつりと呟いた瞬間、彼の手元で『夜の剣』が形を崩した。影が編み直されるかのような一瞬の変幻。次の刹那、彼が握りしめていたのは、一振りの刀だった。
創夜は腰に携えた刀を、ゆっくりと、しかし確実に握りしめた。
創夜は刀を鞘から抜きかけた。その動作は、まるで時間が止まったかのように静謐だ。
創夜が刀を完全に抜き放った。
それは、一閃にして広場全体を包み込むほどの、絶対的な無の衝撃波だった。
――抜刀術奥義:絶空・震天裂破
次の瞬間、彼の周りの世界から音が消えた。
凄まじい閃光が、トライデント・グラビティ・マギスで動きを止められたディザスター・ゼファーの竜巻の核を、上下に真っ二つに切り裂いた。
創夜が刀を鞘に納める『納刀』の動作が終わった瞬間、すべての時間が動き出す。
ドッ!!
絶空の衝撃が神樹全体を揺らし、二つに断ち切られた竜巻は、邪悪な力を維持できずに、ただの黒い土埃となって広場に降り注いだ。
広場の破壊は最小限に抑えられ、三人の勇者の周囲にだけ、清浄な風が吹き抜けた。
「……あの超巨大な竜巻を、一刀で……」
スーは、信じられないものを見るかのように目を剥いた。
創夜は静かに立ち尽くしていた。彼の腰の刀は、相変わらず静かに鞘に収まっている。
邪悪な風の精霊は、完全に沈黙した。
「やったわ……!創夜!あんた、とんでもないものを隠してたのね!」
スーは安堵と興奮で、レオタード姿のまま跳び上がり、創夜に抱きついた。
「これで、風魔法がつかえるわね!」
勇者一行は、神樹の頂上で、邪悪な風の精霊を打ち破った。




