ep8.精霊の国編 魔法大国
創夜が扉に触れると、扉に刻まれた古代の文様が鈍い緑色に光り、音もなく開いた。その奥には、透き通るような青い光を放つ巨大な魔法陣が描かれた空間が広がっている。
「これだ!スーの大陸へ繋がるワープポイント!」
アレルが喜びの声を上げた。
リリィが光の粒から現れ、創夜の耳元で囁く。
「創夜、スー様からの緊急のメッセージ!このワープポイントの先にある精霊樹の村で、あなたたちを待っているって!」
「精霊樹の村、か。ちょうどスーの大陸の入り口にある村だったな」
シオンがうなずいた。
創夜は無言で魔法陣に足を踏み入れた。青い光が三人と妖精を包み込み、次の瞬間、周囲の景色が一変した。
彼らがワープポイントを抜けると、そこは光に満ちた広場だった。視界の先には、天を貫くように立つ巨大な精霊樹がそびえ立っている。ここは、スーの大陸の入り口にある精霊樹の村だった。
村の中央、精霊樹の根元にある広場に、目的の人物はいた。
紫色の長い髪が、精霊樹から漏れる木漏れ日を浴びて艶めいている。
しかし、その姿は彼らが知る厳かなローブ姿とはかけ離れていた。
「遅かったわね。勇者たち」
スーは、純白でハイレグの、精霊の模様がピンクで入った可愛らしいレオタードに身を包んでいた。腰は細く、白い生地が肉体に密着しているため、その美しい肢体が惜しげもなく露わになっている。
そして、その手には、一本のムチを携えていた。
「す、スーさん!その格好は一体!?」
アレルが声を裏返らせる。
創夜は、その光景をいつもの無表情で一瞥し、シオンは双剣を握る手がわずかに震えていた。
「仕方なかったのよ!魔法の力が、一時的に封印されてしまって!この身を守るために、仕方なくこの装備を選んだの!あんた達も叩いて上げようか?」
スーが持っていたムチを持ち直す
スーの目付きは鋭かった。
「この『精霊のレオタード』は、確かに回避率と魅力が格段に跳ね上がるけど、恥ずかしすぎて!魔法が使えない間、どうにか身体能力で誤魔化すために、仕方なく……!」
スーはムチを床に打ち付け、『キィィィ!』と、切れながら声を上げた。
「くっ……!しかし、回避率と魅力上昇か……俺たちの世界じゃ、この手の防具は最強と相場が決まってんだ!」
アレルは、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
彼の視線は、スーのハイレグの布地のきわどい部分を捉えていた。
「アレル、落ち着け。エロ視線は勇者としては当然だが、相手は大賢者だ」
シオンはそう言いながら、自分もわずかに視線を逸らしていなかった。
「だってよ、シオン!あのスーだぜ?こんなエッチな格好してるなんて、勇者としてテンション上がらないわけがないだろ!」
アレルは興奮を隠せず、思わずスーに向かって声をかけた。
「ス、スーさん!そのレオタード、防具としては本当に優秀なんですか!?ちょっと耐久性を見てみたいというか、その……身を呈して確かめさせていただけませんか!?」
スーはムチの柄をぎゅっと握り、額に青筋を浮かべる。
「馬鹿者!何が耐久性よ!あなたたち勇者の下心は見え透いているわ!誰が見せびらかすために着ていると!大体、知ってるでしょこの装備は、魔物が魅力で見とれて動けなくなるか、たとえ攻撃してくる敵がいたとしても、勝手に避けてしまうのよ!当たらないから防御力もなにもないのよ!いつもローブの下に着て、危なくなったらローブを脱いで戦うつもりではいたけどまさか、魔法がぜーんぶよ、ぜーんぶ使えなくなるなんて思いもしなかったわ!精霊達ムチでひっぱたいてやるんだから!」
スーはムチを振り上げ、広場に『ピシッ!』と鋭い音を響かせた。
「さて、そんなくだらないことはいいわ。あなたたちには、急いで精霊の様子を見てきてほしいの、各属性の精霊が呪文を使えるようにしていたのよ!精霊のせいに決まっているわ!」
スーは、ムチを小脇に抱え直し、不本意なレオタード姿のまま、真面目な顔で一行に問いかけた。
創夜の肩からリリィが飛び出した。
「スー、そんなに怒らないで、ここに来るまでに土魔法とワープの魔法が使えるようになったのよ!それに、ワープポイントが使えなかったから会いに来るのは無理よ!私もアレルの城の鳥かごに閉じ込められてたのよ!」
創夜は、ムチとハイレグのレオタード姿のスーに見とれていた。ものすごい加護の装備だと言うことだ。
アレルとシオンは慌てスーに助言する。
「スー、もうローブを着ても大丈夫だぞ、土魔法が使えるんだ。」
「お前の土魔法にはいつも助けられたからな。敵が多いときには持って来いだからな。」
スーの目付きが柔らかくなる。
「土魔法ね、空の敵には無意味だわ。やっぱり暫くこの格好でいるしかないわね。」
創夜が勇者たちの久々の会話に口を挟み、創夜が食事を用意し、今までの敬意を話した。
スーはやはり、ここに来るまでに魔物の大群に襲われ、急いでレオタードに着替え、ムチで魔物達を叩きまくったらしい。だから、既にこの周辺は安全だろう。創夜がアイテムボックスから出した料理道具でスーたちは何日ぶりかの火が通った料理を美味しそうに食べた。何日も炎魔法がつかえないから料理には苦労したそうだ。
昼食を食べ終わり、次の場所は、三人には見当がついているようだった。
スーが背中に杖を装備し、レオタードで駆け寄ってくる。
「ローブはまだ着れないけど、準備ができたわ!精霊樹の上の神殿へ行きましょう。恐らく風の精霊がいるはずよ。土魔法で風の精霊をどうしろって言うのよ!ムチで叩いてやるわ!」
その言葉を合図に、一行は精霊樹の根元にある広場から、天を突く巨木を登るための道へと足を踏み出した。
創夜は、未だにムチを携え、少し不機嫌そうな顔をしながらも、彼らを先導するスーの華奢な背中を見つめた。
(...ムチを持った大賢者、『精霊のレオタード』の勇者パーティーか。面白くなってきた。)
創夜の無表情な顔に、わずかな笑みが浮かぶ。
勇者、魔法使い、剣士、そして最強装備に身を包んだ大賢者。
風の精霊が待つ神殿へ、彼らの新たな冒険が始まろうとしていた。




