ep7.精霊の国編 大地の息吹
翌朝、夜明けを待たずに、創夜、アレル、リリィ、シオンの三人と妖精はフゥの村を出発した。スーの大陸へ繋がるワープポイントがあるという神殿は、この大陸の東端、大地の息吹と呼ばれる地域にある。
シオンが加わったことで、一行の雰囲気は一変した。アレルとは正反対に、シオンは無駄口を叩かず、常に周囲の警戒を怠らない。腰に装備した細い双剣が、時折、朝の光を反射して煌めいた。
急ぎ足で森を抜け、岩肌の道を進むと、巨大な石造りの神殿が見えてきた。しかし、その神殿の入り口は、異様な光景に覆われている。
神殿の正面には、体毛が岩のようにゴツゴツとし、皮膚は硬い土に覆われた巨大なモグラが鎮座していた。その体は普通のモグラの十倍以上はあり、特に腹部は土の塊のように分厚く膨らんでおり、全身からドス黒い瘴気が漏れ出ていた。
「あれが、大地の精霊が闇に落ちた姿……マグナス・モウルだ」
アレルが大剣の柄に手をかけ、低い声で言った。
「でけぇ、そして太ってる……!どう見てもボスだろ!」
アレルが創夜に声をかける。
「創夜!アイツはやめておけ!前の奴は通じないぞ!」
声をかけるのが遅く、創夜は既に巨大モグラの足元でモグラの巨大な腹に、抜刀術をかけようと少し手前に移動し、地面の踏み込みで高威力、広範囲な技を出しに踏み込んだそのとき、大地が揺れた。
不意の揺れにバランスを崩したが、創夜は辛うじて踏みとどまった。
アレルと、シオンは両サイドからニコニコしながら攻撃にはいる。
両サイドから地を蹴った。
双剣の勇者二人が空中で交差した。
「行くぞ、シオン!」アレルが大剣を交差させ、青い光を纏った一撃を放つ。
「勇者剣術・メガスラッシュ!」
「当然だ、アレル!」シオンもそれに呼応し、黒い双剣に闇と緑の光を宿した一撃を重ねる。
「勇者剣術・ダブル・クロス!」
二つの強烈な剣技が、空中で一瞬だけ螺旋を描きながら融合した。
「勇者連携・双覇極光斬‼」
融合した光の斬撃は、神殿全体を照らすほどの閃光を放ち、マグナス・モウルの首と、その岩のような右前足を十字に切り裂いた。
ゴオオオォ!!
巨大モグラは、初めて受けた深刻なダメージに、地を揺るがすような悲鳴を上げる。切り裂かれた部分からは、黒い瘴気が激しく噴き出していた。
「創夜!戻れ!」
創夜は合図を受けるが、相手がモグラだとわかると、夜の剣が大剣に変わり、剣を横に持ち剣を中央に、左手で剣の刀身部分を支えるように構えた。
――反重力!
強力な重力の波動を大剣の中央付近から出し、巨大モグラを空中に持ち上げた。
アレルとシオンは目を丸くする。
「あいつ、きれてんな」
二人が息を揃えて同じ発言をした。
創夜はいつの間にか双剣を手に持ち暗い闇の空に浮いていた。
スキルを発動する。
――ミッドナイト・ステラ・クライシス!
創夜の剣が青い光を放ちながら黒い刀身がはっきりと夜空に浮かび上がる。
夜の帳に隠された星々の軌跡を借り、敵の存在そのものを収束・消滅させる禁断の技だ。
技の発動と共に、使用者は次元の狭間に溶け込み、敵の周囲には真夜中の空を模した青い光の残像が生まれる。その光の一つ一つが星の如き超高速の斬撃であり、命中するたびに敵のライフを奪い、使用者の傷を癒やし、無限の加速を与える。
速度と威力の極限に達した斬撃は、最後に敵の核へ収束し、避けようのない危機として炸裂する。
創夜の二刀流がモグラを空中で誰も見えない速度で、どんどん早く早く!加速し、モグラが飛び交い、それに合わせて創夜が反対側へ移動し一人で球技をするかのような、動きで空中を青い光が消えては現れをものすごい速度でモグラがチリになるまで繰り返した。
アレルとシオンの勇者であってもその動きは見えない。リンやミリィやフィーリアがいたら途中まで見えていたかもしれない。
アレルとシオンが身構えたまま空の青い光を見上げた。
「はやすぎだな」
「何て奴だ」
そういい終わったときに横にとてつもない風圧を纏いながら、創夜があらわれ、鞘に1本の剣をしまう。
「終わった」
アレルとシオンが呆然とした表情で彼を見つめた。神殿の巨大なモグラは、創夜の技を受けた後、音もなく、空中で塵となって消え去っていた。
「...一瞬で、消滅したぞ」
アレルがようやく声を絞り出す。その手には、先ほど放った勇者連携・双覇極光斬の残光がまだ残っている。自分たちの全力をもってしても傷を負わせるのがやっとだったマグナス・モウルが、目の前で跡形もなく消え去った事実は、彼らの勇者としての誇りを根底から揺さぶるに十分だった。
シオンは、無言で腰の双剣に手を滑らせた。それは警戒ではなく、圧倒的な力に対する一種の畏敬の念にも似た仕草だった。
創夜は、そんな二人を気にすることなく、ただ一言。
「入るぞ」
短く言って、神殿の入り口へと歩き出す。巨大なモグラが鎮座していた場所には、硬い土の匂いと、微かな瘴気の残滓が残るのみだった。
残されたアレルとシオンは、暫立ち尽くした後、顔を見合わせた。
「……とんでもない奴を、仲間にしたな」アレルが苦笑する。
シオンも小さく頷いた。
「ああ。少なくとも、俺たちの常識は通用しない『異界の勇者』だ」
それに対し、創夜がつっこみをいれる。
「俺の職は無職だ。よろしくな」
「いや、どの辺が無職なんだ」
大地の精霊の声が響いた。
「闇の呪縛より、我を解放した勇者たちよ。
大地に満ちる真の力を取り戻した証に、大地があなたたちを祝福するでしょう」
土魔法が解放された。
リリィは風圧がすごかったので光となり、創夜の肩に隠れていた。
二人は、重い足取りで創夜の背中を追った。神殿の入り口は、先ほどの激しい戦闘の痕跡も無く、静かに彼らを待ち受けているように見えた。




