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転生したら無職で追放されたけど、実はチートだったので、とりあえず、魔王というやつをこの目で確めて来ます  作者: 真柴 零
バベルの塔編

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ep16.バベルの塔 四階 風霊自由の試練(ミリィ編)

白銀の風が吹いていた。

地平のない蒼穹の中、無数の雲が島のように漂っている。

ミリィはその中央、足もとに透明な光の足場を感じながら、ゆっくりと瞳を開いた。


「……ここ、は……」


風が彼女の髪を撫で、耳元で囁くように声を響かせる。


『未来を見る者よ。

汝の自由を、ここで見つけよ。』


その瞬間、目の前の空気が歪み、光の波が生まれた。

波は像を結び、やがて“もう一人のミリィ”がそこに立つ。


彼女とまったく同じ顔、同じ声。

だが、瞳は氷のように冷たかった。


「あなたには、未来が見える。

だからこそ、無駄なことはしない。

誰といても、最後が分かってしまうんでしょう?」


ミリィは小さく首を振る。


「ううん……見えるけど、全部じゃない。

 未来は流れるもの。時々、揺れるんだよ。」


「それでも、王に狙われた。

その力のせいで、誰かを救えず、誰かを失った。

あなたの“自由”は、未来という檻に閉じ込められている。」


風が渦を巻き、空に金色の文字が浮かび上がる。

それは無数の“未来”の断片。

戦いの結末、仲間の涙、崩れ落ちる城――

ミリィが一度は見てきた、避けようのない運命の残響。


彼女の小さな肩が震える。


「……そうだね。

 見えるたびに怖くなってた。

 どうせ変わらないんだって、何をしても無駄なんだって……思ってた。」


分身が一歩近づく。風の刃が彼女の頬をかすめる。


「ならば、なぜ抗う?

未来を知る者は、いまを諦めればいい。」


ミリィは目を閉じた。

そして、ゆっくりと微笑んだ。


「でもね――それでも、みんなといる“いま”が楽しいの。」


風が止まった。


「創夜くんが笑って、リンちゃんが元気で、セリアちゃんがからかって……

 その瞬間が、未来なんてどうでもよくなるくらい、キラキラしてるんだ。」


光の波がざわめく。

未来の断片が揺らぎ、ひとつ、またひとつと消えていく。


「私はね、未来が見えるけど、

 “いま”を選ぶのは、私なんだ。

 王に狙われても、運命に縛られても――

 私は、創夜たちと一緒に旅をしたい。」


分身が沈黙した。

その瞳に、一瞬だけ微笑が浮かぶ。


「未来を見ても、いまを愛せる者。

それが、お前の自由か。」


ミリィは頷いた。


「うん。

 未来はたぶん、怖いこともあるけど……

 それでも、“いま”を大切にできるなら、

 私はその先もきっと笑えると思うの。」


風がやわらかく吹き抜け、分身の身体が光に変わってほどけていく。


『未来を見る眼に、いまを映せ。

それこそが、真の自由なり。』


声が消え、風の試練が終わった。


ミリィが目を開けると、そこには創夜たちの姿があった。

セリアが軽く手を振り、リンがにっこりと笑う。


「ミリィ、おかえり!」


ミリィは少し照れくさそうに笑いながら、胸の前で手を合わせた。


「うん……ただいま。

 やっぱり、みんなと一緒がいちばんだね。」


風が彼女の髪を揺らし、柔らかな旋律のように流れていった。

まるで、その答えを祝福するように。

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