ep5.精霊の国編 はじまりの神殿
魔物を撃退した創夜とアレルは、カエデの村の宿屋で昼食をとる。創夜がアイテムボックスから取り出した料理に舌鼓を打ちながら、アレルは二人の残りの仲間、そして彼らが目指すべきワープポイントについて語る。大陸を分断する闇の力に、二人の旅立ちが急かされる。
村での戦闘が終わった後も、空の闇は晴れる気配がない。時間は昼過ぎだが、宿屋の中はランプの光でようやく明るさを保っている状態だ。
創夜とアレルは、宿屋の片隅で昼食をとっていた。村人が出してくれた煮込み料理もそこそこに、創夜は傍らに置いたアイテムボックスから、温かい料理を取り出した。
「これも俺のスキルの一つだ。良かったらアレルも食べてくれ」
創夜が取り出したのは、肉と野菜がふんだんに入ったシチューと、焼き立てのようなふかふかのパンだった。シチューの芳醇な香りが、宿屋に充満する。
「うおお!なんだこれ!すげぇいい匂いだ!アイテムボックスから料理が出てくるなんて初めて見たぞ!」
アレルは目を輝かせ、巨大なスプーンでシチューを掬って口に運んだ。
「う、うまい!美味すぎる!村の料理も悪くないが、これは別次元だ!創夜、あんたは何者なんだ?」
リリィもシチューの香りに誘われて創夜の肩から顔を出す。
「まあ、美味しそう、外の世界にはこんな美味しいものがあるのね」
創夜は照れたように軽く笑い、アレルに本題を促した。
「気に入ってもらえてよかった」
アレルはパンを千切りながら、真剣な顔に戻る。
「そういえば。もう一人の勇者の名は、シオンだ。シオンはな、俺とは全然違う。俺は鈍重な大剣で敵を真っ二つにする脳筋タイプだが、シオンは二刀流だ。しかも、俺よりも遥かに早い。それに、回復魔法、攻撃魔法、補助魔法、どれも一流で、まさに万能な天才だった。まあ、今では剣技しか使えないがな」
創夜は静かに情報を整理する。(二刀流の万能タイプか。)
「アレル、君のパーティには他にも誰かいたのか?」創夜は尋ねた。
「ああ、もちろんだ。俺たち勇者パーティは三人だった。もう一人は、スーという名の女の子で、彼女こそが本物の天才魔術師だ」
アレルは窓の外の闇を見上げた。
「スーは、この世界にある使えない魔法はないと言ってもおかしくない。精霊魔法も、古代魔法も、全てを極めていた。だからこそ、今頃、闇に覆われた精霊の国で、誰よりも苦労しているだろうな……。俺は再び、世界を救う為に三人でこのくらい闇をはらそうと思う」
リリィが悲しそうにアレルを見つめる。
「スーは、精霊の国の中心にある精霊樹の神殿にいたはずよ。アレル、あなたが城に戻った時には、皆が消えていたんでしょう?」
「そうだ。だからこそ、早く合流したいんだが……。この闇のせいで、ワープが使えない今、ここから精霊樹の神殿まで行くのはあまりにも遠すぎる」
アレルは腕を組んでうなった。
創夜は再びワープポイントの話に戻す。
「じゃあ、シオンのいる大陸へ行けば、スーにも会えるかもしれないということか。ワープポイントはどこにあるんだ?」
「いいや、俺の城から行けるのは、シオンのいる大陸だ。スーのところに早く行ってやらないと、魔法大国だからなぁ。魔物の被害が少ないうちに前衛の俺たちが助けに行ってやらないとな。ワープポイントは、ここから南西へ少し離れた森の中に、はじまりの神殿と呼ばれる古代遺跡がある。そこにあるワープポイントを使えば、シオンのいるシオンの国へ飛べるはずだ。昔は安全な移動手段だったんだが、今はどうなっているか……そもそも、大陸が別空間に分離されていなければ、船で行けるんだがな」
アレルが続けた。
「俺が城に戻ったときには城に居たものたちが全員姿を消していてボロボロの城だけが残っていたのを確認した後、俺はシオンの元へ行くために急いでワープポイントへ向かったんだが、創夜に似た白いやつに瞬殺されて、一撃受けただけで真っ二つにされてしまってな。
すぐに出発する。シオンに会えれば何かわかるかもしれないし、スーを助けに行く通り道でもある、それに、スーはこの状況を理解しているだろう。まあ、急いで行かないと後で怖いからな」
創夜はさっと食事を片付けた。
「俺も早く仲間を探さないといけない。全員神々と戦って勝ってしまうほど強いから心配ないが、白いやつがものすごく引っ掛かっている。もしも俺の動きをするやつなら仲間が無事か心配だ」
(よく考えたら、アイツら俺の瞬間移動でも、リンが教えた気を感じられるからな、俺が相手でも何ともないかもしれないが……)
昼過ぎ、創夜とアレル、そしてリリィはカエデの村を出発した。空は相変わらず鉛色に淀んでおり、遠くの森の木々も黒いシルエットとしてしか見えない。
アレルは慣れた道筋を指差し、創夜に説明する。
「神殿はここから一時間も歩けば着く。以前、魔物の襲撃を避けて村人が使っていた秘密の抜け道だ。ただし、周囲の魔物どもは、あの白いやつが現れてから異常に強化されている。気を抜くなよ」
創夜はアレルの前に出た。
「先に行っていいか?俺は空を飛んだ方が早い」
アレルは飛ぼうとする創夜を止める。
「待て、それならリリィをつれていってくれ、リリィの念話で俺と連絡が取れる」
創夜はリリィを連れ地面から飛行術で飛び上がる。
飛行術は、魔法というよりもリンの気に近く、アニメのあの技ではあるのだが、創夜にとっても魔法ではなくスキルだという認識からも飛行できるのだろう。
「アレル、危なくなったら読んでくれ、お前の気を感知してお前のところに瞬間移動する。間違って斬るなよ、危ない時はすぐに駆けつけてやる、いちいちボロボロの城に戻られても困るからな」
二人が森の奥へと足を踏み入れたその時、前方から異様な存在感を放つ巨大な影が見えた。
「あれが……遺跡か」
創夜は目を細める。どう見ても怪しく動く生き物らしき壁を目にした為、あれが普通なのかどうか確かめるためにもアレルの到着を待った。
遺跡の入り口、崩れた石柱の間に、巨大な魔物が仁王立ちしていた。その体は青く透き通り、ところどころが黒い瘴気に染まり、見るからに禍々しい。
「アレル、遅かったな。俺のスキルは仲間には使えるんだが、別の世界のやつに使うとどうなるかわからないからな。リリィは特別みたいだが。勇者という存在が、それを受け付けないのかもしれないな」
アレルはその目の前の光景に反応し、高さはゆうに十メートルを超えているその目の前のものを見て独り言のように呟いた。
「くそっ、あれは……闇に染まったベビードラゴンか! 以前はせいぜい二メートル程度だったはずが、どうなっていやがる。異常なほど巨大化してやがるし……それに、あの腹を見てみろ。太りすぎて、ここからじゃ顔すら拝めねえぞ!」
アレルが剣を構える。
創夜は、アレルが剣を構えるより先に、既に夜の剣を鞘から抜きかけていた抜刀術の構えよりも腰が低い。
「アレル、動くな。俺のスキルで一気に仕留める」
創夜は、アレルを置き去りにし瞬間移動で少し手前に移動後、走り、抜刀の瞬間地面を激しく蹴った。数メートルを一瞬で詰め、その巨大な魔物に対して、文字通り光の軌跡を描くような天を翔る竜殺しの抜刀術を放つ打つ瞬間創夜の剣が日本刀に変わる。
天翔竜殺・閃空斬
夜の剣が放たれた瞬間、巨大な魔物の胴体を、天を翔ける光の竜が腹を上にして駆け上がったかのような閃光の斬撃が走った。それはあまりに速く、一瞬の抜刀によって真空が生まれた。
その直後、魔物の分厚い腹部の切り口に、極小のブラックホールが発生したかのような強烈な空気の渦が生まれ、すべてを吸い込み始めた。
十メートルを超える巨大な魔物は、抵抗する間もなく、自身の質量ごと切り口の渦に引きずり込まれ、一瞬で跡形もなく消滅した。チリ一つ残らなかった。
創夜は斬った瞬間にはアレルがいた場所へ、既に移動していた。夜の剣は、静かに鞘へ納刀されていた。
「え?」
アレルが間抜けな声を出す。
リリィが創夜の肩で呆れたようにツッコミを入れる。
「……控えめって言いながら、全然容赦ないじゃない! アレルが攻撃する間もないわ!」
「ま、また瞬殺かよ! なんであんたは、魔法が使えないのに、そんなに速いんだ!俺たちの勇者の技に似てはいるが、威力と攻撃範囲が段違いだ」
アレルが目を丸くする。
創夜は、涼しい顔で答えた。
「俺のスキルだ勇者に比べれば大したことはない。細かいことは気にするな。それに、俺は勇者じゃない、そんなんだったらうんざりだぜ。
さて、早くワープポイントへ行こう。敵が強化されているなら、道中も油断できない。それに、あんなにでかくてアイツはどう動くんだよ。太りすぎて何もできないだろ。どこかで見たことあるようなボスの見た目をしていた気がするな」
創夜が嫌いなでかいだけで明らかにただのまとでしかなく、瞬殺されても仕方がないといえるだろう。
それに、技の威力は創夜がぶちきれた証拠だろう、どんなアニメでもゲームでもあんな威力の技はない。ゲームバランスが崩壊してしまう。
創夜は、まるで散歩でもするかのように、崩れ落ちた巨大な魔物の残骸を横目に、遺跡の入り口へと足を踏み入れた。




