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転生したら無職で追放されたけど、実はチートだったので、とりあえず、魔王というやつをこの目で確めて来ます  作者: 真柴 零
バベルの塔編

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ep13.バベルの塔 四階 風霊自由の試練(創夜編)

眩い光が消えた瞬間、創夜は風に包まれた空間に立っていた。

地平はない。足元すら霞んで見える。

ただ、吹きすさぶ風の音だけが、耳の奥で鳴り響いている。


――ここが、「風霊の試練」か。


どこまでも透き通った空。だがその静けさは、不気味なほどに冷たい。

次の瞬間、風の渦が彼の目の前で形を成した。


現れたのは――創夜自身だった。


同じ髪型、同じ瞳、同じ剣。

ただひとつ違うのは、その瞳が何の感情も宿していないこと。

まるで「もう一人の創夜」が、鏡の中から抜け出したようだった。


「……お前が、俺の試練か。」

創夜が構える。風が剣の周囲を渦巻き、雷光が走った。


だが、影の創夜も全く同じ構えをとる。

まるで一枚の鏡がそのまま動き出したかのように――完璧に。


「雷刃・閃光撃!」


創夜が剣を振り抜くと同時に、鏡の創夜もまったく同じ動作で放つ。

二つの斬撃がぶつかり合い、爆風が弾けた。

空気が裂け、雷が交錯し、双方が吹き飛ぶ――しかし、どちらも傷ひとつない。


「チッ、全部読まれてやがる!」


すぐさま創夜は雷を纏って瞬間移動する。

だが、もう一人の自分もまったく同じ位置に瞬間移動していた。

斬撃を打てば打ち返され、蹴りを出せば同じ足で止められる。


“完全なる対称”。

動きも癖も、呼吸のタイミングすらも一致している。


「……これが俺?」


剣を受け止めながら、創夜は自分の顔を睨みつけた。

その瞳は、まるで過去の自分を映しているようだった。


ふと、耳の奥で囁くような声が響いた。

それは風のように淡く、しかし確かに問いかけてくる。


『お前にとって、自由とは何だ?』


「自由……?」


影の創夜が剣を構えたまま、無言で突進してくる。

その斬撃が顔のすぐ横を掠め、雷光が弾けた。

創夜は剣を交わしながら、苦しげに息を吐く。


『一人でいることが自由か? 誰にも縛られず、誰にも頼らず……それが、お前の望んだ姿じゃないのか?』


「昔は……そうだった。」

創夜は答えた。声が風に飲まれそうになる。


「俺はこの世界に来て、仲間たちと出会うまで、クラスで一人だった。

 一人で、楽しい“世界観”の中に閉じこもってたんだ。

 アニメやゲームの中の勇者になってる気分で、誰にも踏み込ませなかった。」


影の創夜が再び突き出す。剣がぶつかり、火花が散る。


「でも――」

創夜はその剣を押し返し、瞳をまっすぐに見据えた。


「今は違う。今は、頼れる仲間がいる。

 守りたいって、心の底から思える仲間が!」


その瞬間、雷光が爆ぜた。

創夜の剣を包む雷が、これまでと違う軌跡を描き、影の創夜の剣を弾き飛ばす。


影がたじろぐ。

彼の輪郭が、風に溶けていく。


『……仲間が、お前の“自由”か?』


「そうだ。

 一人で風に流されるだけじゃ、自由じゃない。

 自分の意思で、誰かを守るために選ぶ――

 それが、俺の“自由”だ!」


叫びと共に、創夜が剣を振り抜く。

雷が走り、空を割る。


風が逆巻き、影の創夜が光の粒となって空に散った。


静寂。


風だけが優しく彼の頬を撫でる。

その風は、まるで“理解と承認”のように温かかった。


創夜が目を開けると、そこは再び仲間たちのいる空島だった。

息を吐き、剣を下ろす。


「……自由、か。俺、まだちゃんとわかってなかったかもな。」


風が彼の髪を撫で、どこかで微かな笑い声が聞こえた。

――シルフィードが、試練の通過を告げていた。

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