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転生したら無職で追放されたけど、実はチートだったので、とりあえず、魔王というやつをこの目で確めて来ます  作者: 真柴 零
バベルの塔編

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ep8.バベルの塔 二階への行き方

 「地獄風スタミナシチュー」を平らげ、一同はしばしの休息を取っていた。創夜は満腹感から、壁にもたれて軽くうたた寝をしていた。先ほどの激戦の疲労が、美味な食事と塔の静寂によって一気に押し寄せてきたのだ。


 ミーナが空になった皿をアイテムボックスにしまうと、隣に座っていたセリアが静かに口を開いた。


「創夜、寝たふりはもうお終い。これからが本番でしょ?」


 創夜は目を開け、軽く息を吐く。


「悪い、考え事をしていた……ヘビモスとの戦闘で、一つ確信を得た。この塔、単純なダンジョンじゃない、ここは一階で、ボスを倒したはずだが何も起きずこうして食事をして休憩している異様な状況だ。」


ミリィが突っ込をいれる。


「それは、創夜だからダンジョン内で食事をしていられるのよ。これが普通だったら食事をしていられる状況じゃないわ」


 リンが焚き火に薪をくべながら、創夜を見た。

「あのバケモノ、山一つ分の広さの草原のボスだったアルか?倒したのに、何も出なかったネ」


「ああ。あれだけ強大な魔物が、通路の途中で待ち構えている。そして、アイテムドロップもなかった。ヘビモスは**『階層を管理する機構』の一部だ。そして、俺たちは二階へと続く『階段』や『扉』**を一切見つけていない」


 創夜の言葉に、一同はハッとして周囲を見渡した。山一つ分もある広大な草原と、休息に使った石室。上階へ続く構造物は皆無だ。


 創夜は立ち上がり、ヘビモスが出現した草原の方向を見た。


「二階へ行く道は、この『一階』と呼ばれる次元そのものを突破した先に隠されているはずだ。その鍵が、ヘビモスを倒すことだったはずだ」


 ミーナが急いで周囲の解析結果を再確認する。

「特に変わったところはありません。」


セリアも魔力的に解析を開始する。


「うーん。町の中みたいに敵の反応も何もないわね。」


 創夜は迷うことなく、草原の奥、ヘビモスが消えた場所へ向かって歩き出した。


「魔方陣とか、階段を出現する装置とかなのか!?2階にはどうすれば行けるんだ?」


 一同が草原に戻ると、そこにはまだ熱気が立ち上っていた。


その時、エジスが創夜の前に滑り出た。


「お兄さんちょっと待ってて、この辺に石碑があった気がするんだけど、えーっとあ!これだ。」


エジスが何か地面にあるものを、操作している。


属質の草を吸い寄せながら、ゆっくりと巨大な石碑を形成した。


 石碑は高さ10メートルほどで、金属光沢を帯びた黒曜石のような素材でできている。その表面には、無数の幾何学的な紋様が刻まれ、中央には手のひらを置くための円形の窪みがあった。石碑が完全に立ち上がると、地割れはぴたりと塞がった。


 

 創夜はエジスの真剣な目に気づき、手を引っ込めた。


「エジス……何か分かるのか?」


 エジスは無言で頷き、石碑の中央の窪みに、自分の右手を静かに置いた。


 次の瞬間、石碑の紋様が青白い光を放ち、エジスの体から光が逆流するように石碑へと流れ込んだ。


「解析開始……。言語パターン、魔力回路、『頂上座標設定』。よし、二階への転送プロトコルをアクティベートする」


 エジスが複雑な電子音を発しながら、まるで石碑と対話するように操作を行うと、石碑の背後の空間が歪み始めた。


 空に向かって、巨大な青銅色のパネルが、無数の魔力線に縁取られながら、音もなく浮上してきた。


パネルは鏡のように滑らかで、その質感は一階の異世界感とは全く異なり、未来的な昇降機のようだ。


パネルの周囲の赤黒い夕焼けの空は、パネルに映り込むことで、青と金色に歪んで見えた。


 ミリィが羽を震わせる。


「わあ、これが二階へのエレベーターなのね!」


 セリアが微笑む。

「ふふ、さすがエジスね。こんな複雑な装置をすぐに起動させるなんて」


 創夜はエジスに声をかけた。


「よくやった、エジス。これが二階への移動装置か。昇降機エレベーターのようなものだな」


 エジスは手を石碑から離し、軽く息を吐いた。


「うん。これは、**『次元転移昇降機ディメンション・リフト』**だ。頂上へ向かう塔の法則に則り、次元を貫いて物理的に『昇る』。さあ、時間がない。乗って」


 創夜はためらいなく、光を放つ青銅色のパネルに足を踏み入れた。リンたちが続き、全員がパネルの上に立つと、エジスが最後に石碑を軽く叩いた。


 キィィィィィィン――!



 高周波の駆動音が響き、パネルが急速に加速し始めた。一階の広大な草原が、まるで巨大なパノラマ映像のように、みるみるうちに眼下に遠ざかっていく。


 通常の昇降機ではありえない、凄まじい速度だ。フルオーラで強化されているとはいえ、普通の人間ならGで圧死していただろう。


 そして、パネルが赤黒い空を突き抜け、塔の天井に空いた、青白く脈打つ巨大な穴へと吸い込まれていく。


 一瞬の眩い光と、次元の壁を通過する独特の浮遊感の後――


 全員の足が、固い地面に着地した。


 創夜がゆっくりと目を開ける。


 ――そこは、**一階とは完全に隔絶された、もう一つの『塔の内部世界』**だった。


 空は、薄いプラチナ色の霧に覆われ、地平線には無数の巨大な歯車とパイプが、絡み合いながら天へと伸びている。足元は、継ぎ目のない鏡面仕上げの合金でできており、一歩踏み出すたびに、靴底が静かに電子音を発する。


 周囲の空気は澄んでいるが、微かにオゾンとオイルの匂いが混ざり、耳の奥では、絶えず機械の駆動音が鳴り響いていた。


 セリアが目を丸くし、全身から魔力が抜けたような表情を見せた。


「……何よ、これ。一階のファンタジーな異世界と、まるで違う。これは……SFの世界じゃない!」


 リンは呆然と、手のひらを見つめている。


「地面が……硬いアル。全部、金属ネ」


 ミーナの手帳が、けたたましいアラーム音を鳴らした。


「全パラメータ、オーバーロード! 魔力値、一階の5倍! 物理法則、部分的に変異! 創夜、ここは……別次元のバベルの塔だよ! 『機構階層メカニカル・フロア』!」


 創夜は、眼前に広がる、途方もないスケールの機械仕掛けの世界を無言で見上げた。その瞳に、僅かながら興奮の色が宿る。


「二階は、科学と魔法が融合した世界、というわけか。……面白い」


 創夜は、剣を抜き、目の前の広がる、奇妙で美しい**『二階の世界』**へと、力強く足を進めた。


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