ep4.バベルの塔の石碑
創夜はアイテムボックスに数日分の食料を保管し町で皆準備を整えた。
「よし、準備は整ったな」
創夜は皆を見渡し、軽く頷いた。その全身からは、静かながらも圧倒的な力――フルオーラ――が滲み出ていた。この状態は、以前にも増して彼の身体能力を極限まで引き上げている。
「エジス。俺が身体強化魔法をかけた、素早さ、防御力、力、攻撃力など全て強化している。少しならしてから行こうか?脚力とかも上がってるから力を入れすぎるとバベルの塔の壁まで一瞬で行けるくらい強化してある。急に早くなったら対応できないだろ。ぶつかったりしても防御力強化でなんともないがあたられた方は只じゃすまないから気を付けてくれ。」
創夜の言葉に、エジスはにこにこ笑いながら素早い動きで楽しそうに舞ってみせた。
「ありがとう。こういうのは結構なれるのが早いんだ。ほーら、こんな感じかい。大丈夫そうだな。練習はいらないよ、お兄さん達について行くよ。」
創夜はこういうのになれていたせいか、あたり前に使いこなすやつらがパーティに数多くいたせいでそうか。と言う感覚でしかなかった。
「気にしなくて良さそうだな。じゃあ行こうか!バベルの塔の石碑へ。」
創夜がゆっくりと走りだし、リン、セリア、ミリィ、ミーナも一緒に創夜に続く。
「お兄さん無詠唱でこんな呪文が使えるなんてすごいね!こりゃあ楽しい。回りがスローに見えるよ。はははっ。」
エジスが創夜達より少し前をすごいスピードで跳ね回っていた。
「で、エジス。お前も今日から俺たちの仲間だ。だが、うちのパーティは見た目も能力も規格外の連中ばかりだ。リンは竜族出身で、肉弾戦と破壊力は桁違い。セリアは魔導師だが、その魔力は災害レベル。ミリィは回避や受け流しにおいて右に出るものはいない予知能力がある、ミーナは常に冷静な頭脳で、見ての通り悪魔のかわいい女の子だ。そして、俺自身が色々と規格外だ」
エジスは真剣な表情で頷いた。
「へぇー大体わかったよ、僕は防御と回復には自信があるんだ。兄さん達に負けないように頑張るよ」
「ああ、頼む。お前の防御と回復は、このパーティにはいらないかもしれないがもしもの時にいてくれると助かる。」
創夜はエジスの肩を軽く叩いた。
酒場を出た一行は、バベルの塔の外壁に向かって進んだ。創夜はエジスや皆に配慮し、普段の異常なスピードではなく、人間の最速に近い速度で駆け抜ける。それでも、その移動速度は普通の冒険者から見れば瞬きする間もなく姿が消えるレベルだ。
車でもいいが何があるかわからないからな。警戒はしておいた方がいい。
塔の外壁に到着すると、創夜は立ち止まり、フルオーラを少し緩めた状態で周囲をゆっくりと見渡した。
「ここだ…」
エジスが指差した場所には、確かに二体の巨大な石像が、塔の壁面に寄り添うように立っていた。全身がゴムのような質感で、額には一つ目。その姿は威圧感があるが、微動だにしない。
そして、二体の石像の間に、高さ二メートルほどの古い石碑が立っていた。創夜は、以前の異常なスピードで情報を処理しきれず、完全に視界からこぼれ落ちていたことを理解する。
セリアが優雅に石碑の前に進み出る。
「これは古代の言語ね…えっと。」
セリアはスリットの入ったローブの裾を払い、そのポーズじゃないといけないのか?といわんばかりに胸を張りセクシーなポーズで石碑の文字を読み始めた。
「…『バベルの塔への挑戦者よ、資格を示せ。二体の門番を打ち破り、真実の扉を開け』…と、書いてあるわ」
セリアが読み終えたその瞬間――
ゴ、ゴ、ゴゴゴ……!
大地を揺るがすような重低音と共に、二体の巨大な石像の額にある一つ目が、赤く禍々しい光を放ち始めた。全身のゴムのような質感が微かに波打ち、まるで長い眠りから覚醒したかのように、二体の石像がゆっくりと動き出した。
「来たな、門番!」
創夜は静かに告げ、フルオーラを最大まで高めた。その一挙手一投足から、もはや人間の域を超えた力が放出されていた。




