ep11.バベルの塔編 六層 神々との決闘開幕
虹色の光が収束し、創夜たちは静寂の中に立っていた。
そこは、第六層、限りなく平らな石の大地――まるで巨大な武道場のような空間だった。
天井も壁もない見上げれば、ただ無限の蒼空が広がっている。
リンが鼻を鳴らす。
「……何もないネ。けど、この空気……ただものじゃないアル」
その言葉の通り、空間の中央には――彼らと同じ人数の存在が立っていた。
威圧感すら神聖に感じる。光と闇の加護をまとい、神々は沈黙のまま見つめている。
その中で、ひとりの青年が歩み出た。
「……エジス?どうした!? いや、Aegisギリシャ語で盾、お前ゼウスの盾だよな。もう俺たちの仲間じゃないのか」
エジスがまじめな顔をして答える。
「ごめん、もう一緒にはいられないみたいだ。
何故なら僕は使われるための道具だから。実はね、この塔は二十五層あるんだ、
それぞれ、人から神へ精神と力の試練だったんだけど、全部突破だよ。
この部屋は特別なフロアだ。お兄ちゃんたちと一緒に冒険できたのは楽しかった
よ。僕は手加減しないよ全力で戦おう」
創夜は一歩前へ出て、静かに口を開いた。
「……そうか。なら仕方ないな」
彼の声には、怒りも悲しみもない。ただ、深い感謝だけが滲んでいた。
「ありがとう、エジス。お前がいたから、みんな無事でここまで来られた。どんな攻撃でも、どんな絶望でも――お前が盾になって守ってくれた。お前がいたから、俺は仲間を“信じて前に進む”ことができたんだ」
“エジス”――あえてその名を、これまで通り呼ぶ。
創夜の声が、まっすぐに届いた。
エジスは一瞬、目を見開き、そして小さく笑った。
「……お兄さん、冗談よしなよ。僕以上の防御と回復、ずっと前から持ってるでしょ?見たことはないけど、きっと、誰よりも“仲間を守る”力を」
その笑みが、最後の“人の顔”だった。
エジスの身体が淡く輝き、光の粒が宙に舞う。
輪郭が崩れ、金属の質感が現れる。
声が、雷鳴のような響きに変わる。
「――僕は、“盾”になる」
眩い閃光とともに、エジスの身体が完全に変貌した。純白と黄金の混ざる光、その中心に巨大な盾が浮かび上がる。盾面には雷雲の文様、周囲を走る青白い稲妻。
その瞬間、天が裂けた。
轟音とともに、無数の雷が空から降り注ぎ、
白銀の巨躯が姿を現す――。
「……我が名はゼウス。全能の神にして、天空の支配者」
雷光をまとい、天から降り立った神が笑う。
その瞳は、創夜をまっすぐに射抜いていた。
「我が道具――アイギス(Aegis)。よくぞ我が眠りを破り、ここまで導いた。その褒美に、暇つぶしの相手を連れてきたのだな」
ゼウスが手をかざすと、エジス――いや、神盾アイギスがその背後に浮かび、雷の守護陣を展開した。空気が一瞬で張り詰め、神々が動き出す。
ゼウスは腕を広げると、背後の神々に視線を送った。
「見よ、戦を望む者たちよ。我は退屈しておる。こやつらに、それぞれ“相応しき相手”を与えよう。しかし、フィーリアとか言ったな、お主は戦いを望んでいないようだ。精神は優しくたくましい試練は突破だ、お前はこの戦いを観戦しておくがよい。仲間達が望んだ結果だ」
一人ずつ、神々が一歩ずつ前へ進む。
炎のごとき闘気を纏い、戦斧を担いだ男がわらう。
戦神アレス(Ares)が、重々しい声で吼える。
「我が名はアレス。血と戦を司る者。龍族の娘――その拳、我が斧で砕けるか、試してみよ!」
続いて、漆黒の衣をまとい、月光のごとき瞳を細める女神が進み出る。月と魔術の女神ヘカテー(Hecate)。
「我が名はヘカテー。魔を束ね、月の理を知る者。魔女セリア――あなたの知識、わたくしの術式で霧散させてあげますわ」
その後ろから、三つの影がゆらりと重なりながら進み出る。
運命を紡ぐ三女神モイライ(Moirai)が、三重の声で囁くように告げる。
「我らはモイライ。始まりと終わりを紡ぐ運命の糸。天の剣士ミリィ――お前の未来は、既に我らの手の中にある」
最後に、狂気を孕んだ笑みとともに、ひとりの女が現れる。赤黒いオーラを纏い、血のような瞳が輝く。狂気と激怒の女神リッサ(Lyssa)。
「アハハッ!名はリッサ。狂気と怒りの化身よ!
ねぇ、悪魔の娘――どっちが“理性”を捨てて生き残るか、勝負しようじゃない!」
そして、雷鳴が轟く中――
最後に、全能の神が悠然と歩み出る。
ゼウス(Zeus)がその手を天へ掲げ、雷光をまといながら宣言する。
「我が名はゼウス。天と地、全てを支配する者。人の子、創夜――我が雷を受け、なお立つことができるか試してみよ。――今ここに、神々との決闘を開幕する!」
稲妻が空を裂き、光が大地を貫いた。
次の瞬間、全ての神と人の視線がぶつかり合う。
天地を震わせる、神々の決闘が――幕を開けた。
雷鳴が静まり、ゼウスがゆるやかに視線を巡らせた。
その眼光は、まるで世界そのものを見下ろすように冷ややかで、威厳に満ちていた。
「さて――この中で、戦いを最も望む者は誰だ?」
その言葉に、空気が一瞬で張り詰める。
神々の間に沈黙が走り、次の瞬間――炎が爆ぜた。
「フッ、問うまでもねぇ」
低く唸るような声が響き、赤き闘気が大地を焦がす。一歩、また一歩と前へ進み出るのは、戦神アレス(Ares)。炎のように逆立つ赤髪、燃え盛る瞳、筋骨隆々の身体。
その存在そのものが、戦いの具現。
「血が、沸き立つ。この塔でようやく、拳で語れる相手に出会えたようだな」
アレスは巨大な戦斧を肩に担ぎ、豪快に笑った。
「龍族の娘――リン!貴様の拳、神の武へ届くか、試させてもらうぞッ!!」
リンはにやりと笑い、拳を握る。
足元の石床が、拳圧だけでひび割れた。
「上等アル! 久しぶりに全力で殴れそうアル!」
彼女の体から、金色の龍気が立ち上る。
創夜が微かに息を吐く。
「リン、気をつけろ。アレスの戦気は……神気そのものだ」
リンは振り返らず、軽く手を振る。
「大丈夫アル、創夜。神だろうが関係ない。拳で話せば、わかるアル!」
ゼウスが満足げに笑みを浮かべた。
「よかろう。最初の試練――“力”の決闘、開幕だ」
「私は黙ってみてればいいのね」フィーリアは仁王立ちで手を組みはじめた。
雷光が天を裂き、
龍の咆哮と炎の爆音が重なり――
リンとアレス、二つの咆哮が、神々の舞台で激突した。




