ep13.海の町
潮風が運ぶ磯の香りと、活気ある人々の声が響く海の町に到着した一行は、まず腹ごしらえだ。
新鮮な海の幸を出す店に入り、刺身の盛り合わせ、磯焼き、潮汁と、海の町の味を堪能する。
ミーナはクッキーを片手に、海の町の魚介も美味しそうに頬張る。「この焼き魚、クッキーの次に美味しいの!」と、最高級の褒め言葉を口にした。
昼食後、創夜たちは水着に着替え、白い砂浜へと繰り出した。
「よし、今日はしっかり鍛えるぞ。リン、今日は皆の師匠だ!一番気について理解しているのはリンだけだからなぁ。……それにしても、みんな、水着似合ってるな」
(軽く咳払い)「と、とにかく、修行だ。海底神殿の前に、もう一段強くなる。」
水着姿で水遊びをするかのように、皆が手を上げた
「おー!!」
ミリィは「最高のスピードと回避で!」と声を上げ、波打ち際を軽やかに駆け巡る。
彼女の動きは、水しぶきが飛び散る一瞬を完全に読み切り、最も安全な場所を瞬時に判断して移動する。
その回避は、まるで舞踏のように優雅でありながらも、攻撃の機会を逃さない鋭さを持っていた。
セリアは海に向かって水魔法の練習を始めたが、まだコントロールが定まらず、小さな水玉がパチンと弾けるばかり。
「くっ、海を相手にするのは手強いわね!この大きな水塊を、イメージ通りに操るなんて!」と悔しがる。
創夜は水遊びの最中も、頭の中ではこれから始まる修行のことを考えていた。彼の能力は、想像した技をイメージすることで具現化できるというもの。
ただし、「自分には無理だ」と想像したもの、イメージが曖昧なものは決して発動しない。
つまり、出来ると思えないものは発動できないのだ。しかし、例外として彼はリンの隠れ里で気を常に寝ているときもはっていることで全身を常に守ることが出来るようになっている。最強だろう。ある一点を除いては。
砂浜で遊んでいると、一行の師匠であるリンが優雅に降り立った。すらりとした体躯に穏やかな目を持つ彼女は、竜族特有の威厳と、誰に対しても気を使う優しさを持っていた。
「みんな、海の恵みを堪能したようですね。では、早速修行を始めましょうか」
リンの言葉に、創夜は居住まいを正した。
「まずは創夜、あなたのイメージ力を試しましょう」
「はい、リン!」
創夜は目を閉じ、全身に集中した。イメージするのは、彼のお気に入りの「風の剣士」が使う究極の剣技。全身の神経を研ぎ澄まし、技の構成要素を完全に脳内で再現する。
「斬空波!」
創夜が強くイメージすると、手のひらから緑色に輝く三日月状のエネルギー波が飛び出し、遠くの岩礁に当たって砕けた。「よし、成功! 想像通りだ」創夜は嬉しそうに叫んだ。
そして、創夜は次に、真空波と斬空波の連携技で真空を切った。
空間が歪み、歪んだところが黒くなっている、
連携技だ。敵に当たったらどんな敵でもひとたまりもないだろう。
次に創夜は、修行を面白くするために、セリアが苦手とする水魔法を披露することにした。
「水龍のトルネード!」
創夜が強くイメージすると、海面が渦を巻き、巨大な水の竜巻が空へと昇った。その威容に、セリアやミリィ、ミーナは目を丸くした。
さらに創夜は砂浜を蹴って飛び上がり、空中から別の技を繰り出した。技の発動は、彼の身体能力ではなく、純粋なイメージによって行われる。
「海割りの剣!」
空中で構えた両手から青いオーラを放つ巨大な剣が現れ、創夜がそれを振り下ろすと、眼下の海が真っ二つに割れ、海底の砂地が露わになった。一瞬の静寂の後、海水が怒涛のように元に戻る。
「すごい! 創夜、あなたのイメージは本当に凄まじいわね!」セリアが感嘆の声を上げた。
「うん、すごい! ソウヤ、クッキー1枚あげる!」ミーナがポケットから取り出したクッキーを差し出す。
「俺のは魔法じゃなくてイメージだよ。ありがとう、ミーナ!」創夜は得意げに笑い、クッキーを受け取った。
触発されたセリアは、今度は沖合に浮かぶ小舟を標的に、集中して水魔法を打ち込む練習を始めた。
「今度こそ、的確に!海の水に、私の魔力を注ぎ込む!」彼女の魔力が込もった水弾は、先ほどより遥かに力強く、正確に小舟の帆に穴を開けた。
「うん、いい調子ですよ、セリア」とリンが頷く。
そして、今度はミリィの番だ。
「ミリィは『気』は使えませんが、その天性の回避力と会心の一撃は、一流の武術家も舌を巻くものです。私と模擬戦をしましょう」
皆には練習していた補助魔法をかけてある。
創夜が全員に最高の色々な補助魔法をかけた火力だけは上げていないが大抵の攻撃には耐えられる。また、素早さも修行にならないので上げていない。
リンが軽い突きを放つ。その突きには、微量の「気」が込められており、わずかに風圧を生み出す。ミリィは、その「気」の放出を肌で感じ取り、完璧な一歩でかわす。そして、リンが次の動作に移る、コンマ数秒の隙を見切って、リンの腕に刀を打ち込んだ。
「グッ…」リンは一瞬呻きを漏らした。
「見事です。相手の動き、気の流れ、そして次に起こる未来を読み、最も効果的な一撃を見切るその才能、気を使えない分、集中力が磨かれていますね」
最後に、リンは一番幼いミーナを呼び寄せた。
魔族であるミーナは、まだ「気」を扱うことができない。彼女はクッキーを食べたい一心で修行に臨む。
「ミーナ。あなたは魔族ですが、私と同じように『気』の使い方が分からない。でも、心配いりません。私に心を合わせてみて」
リンはそっとミーナの手を取り、目を閉じた。リンの体内を流れる、温かく、生命力に満ちた「気」の流れが、ミーナの小さな手に伝わってくる。
リンの気は、周囲の全てを思いやる、気を使う竜族ならではの優しい波動を持っていた。
「これが…リン姉さんの『気』…クッキーみたいに、ほっこりする匂いがするの…」ミーナは真剣な顔でつぶやく。
ミーナは集中し、リンの気の流れを自分の体のイメージに重ねていった。
そして、その波動に、自分の中の秘めた「気」の源を共鳴させた。ミーナの心は、クッキーへの強い愛情と、リンへの信頼というシンプルな感情に満ちていた。その純粋さが、彼女の魔族の血に秘められた潜在能力を呼び覚ます。
すると、ミーナの周りに、薄い緑色のオーラがふわりと広がり始めた。それは、彼女が初めて自力で「気」を発動した瞬間だった。
「すごい! ミーナが気を…!魔族のミーナでも使えるんだ!」創夜が叫ぶ。
「えへへ…なんだか、あったかい。これを使ったら、もっと美味しいクッキーが作れるかな?」ミーナは嬉しそうに笑った。
リンは優しく微笑んだ。「よくできました。気が使えるようになれば、一気につよくなるネ!」
潮風が吹き抜ける中、創夜たちはそれぞれ新たな目標を胸に、修行への決意を新たにしたのだった。創夜は、リンの無意識下の力を完全にイメージし、誰にも頼らない「無我の境地」を自力で掴む日を思い描いていた。
(しかし、無我の境地には、無意識でそれが出来ないといけない。気をはることはイメージできている。アニメでみたことがあり、強くイメージするだけのイメージ力があるからだ。)
創夜には壁があった。
「リン、俺は少し離れた場所で集中する。みんなの指導は頼む。」
「創夜!創夜がその壁を乗り越えられるか、楽しみにしているアル!」リンは創夜の決意を認め、笑顔で応じた。
創夜は砂浜から少し離れた岩場へ移動し、目を閉じた。彼は、意識から「防御」という言葉を消し、ただひたすら**「仲間に絶対的な安心を与える」**という強い衝動だけを、身体と心に染み込ませようとした。意識的なイメージ・スキルに頼らず、反射的な使命感を「無我の境地」の核と定めた。
しばらくすると、彼の身体は微動だにしないが、岩場に積まれた砂が、創夜の周りだけ風もないのに微細に振動し始めた。それは、創夜の無意識の動きに合わせて、極めて微弱な「気」が、自動的に周囲に拡散し、環境そのものに干渉し始めている証拠だった。
(…掴みかけてる。これは、アニメの技じゃない。俺の**『無意識』が作り出した、『絶対的な安心感のひらめき』**だ!)
創夜の顔に、確かな手応えが浮かんだ。
創夜が孤独な修行に没頭する中、リンはセリア、ミリィ、ミーナの指導に集中していた。
まず、セリアの番だ。彼女が目指すのは、広大な海と魔力に満ちた空気を相手に、魔法の精密な**制御と停止**を習得すること。
「セリア、海に向かって最大の魔法を連発するアル!その直後、発動を寸前で止めるイメージを掴むアル!」
水着姿のセリアは、リンの指示に従い、海に向かって容赦なく水魔法を連発した。
「水弾!」「急流!」
連発される水の塊が海面を叩き、強烈な水柱を上げた。セリアの肌には創夜の加護が施されているため、彼女は魔力の暴走を恐れずに済む。そして、次の魔法の塊を放つ直前、セリアは神経を集中させた。
「魔法は出すよりも、止める方が難しいアル。魔力の奔流を、自分の意思の力で一瞬で切断するネ!」リンが鋭く指示を出す。
セリアは、放出寸前の魔力の塊を、脳内イメージで凍結させるように意識した。
ビシッ!
彼女の手のひらに集まっていた水の塊は、音を立てずに霧散した。
「やったわ!この海を相手に、魔力の奔流を瞬時に切断できた…!」セリアの顔に達成感が滲む。
リンは満足げに頷いた。「見事アル。これでセリアは、制御のプロになるアル。創夜の加護があるからこそできる、最高の訓練アルネ!」
ミーナの修行は、引き続き「気の純粋な制御」だ。水着姿の彼女の周りにも創夜の加護が淡く光っている。
リンはミーナに、今度は砂浜に描いた「クッキー」の絵に「気」を流し込む修行をさせた。
「ミーナの『気』は、癒やしと悪魔のエネルギーアル。この絵に、クッキーを焼くときの集中力で、愛情を込めてみるネ!誰かのために焼くイメージを強くするアル!」
ミーナは真剣な顔つきで「気」を流し込む。「…創夜兄ちゃんが、美味しいって言ってくれるクッキー!クッキーになるの!」
ミーナが流した緑色の「気」は、砂絵を温かい光で包み込んだ。
「素晴らしいアル!ミーナは、『気』の温かさを、純粋な愛情と完全に結びつけることに成功したアル!」
最後にミリィだ。彼女は目を閉じて、リンがランダムに放つ微細な「気」の波を避ける修行を続けていた。
「ミリィは、未来を読む回避を極めるアル。創夜の加護があるから、致命傷は負わない。故に、回避する一歩に全ての集中を注ぎ込むアル!」
ミリィは、リンが気の波を放つ**「予兆」を捉え、体が勝手に動いた。彼女は、リンの攻撃の軌道と、自分が回避した後の次の最適な攻撃位置**を、同時に一瞬で判断する。
ヒュッ
回避の瞬間、彼女の身体は一瞬だけ静止したかのように見え、その瞳は未来の行動を見切っていた。
「見事アル!ミリィは、極限の集中を掴んだネ!もはや、ただの回避ではないアル!」
日が傾き、夕焼けが海を赤く染め上げる頃、修行は終わった。
創夜は岩場から、仲間たちのもとへ戻ってきた。彼の身体から発せられるオーラは、以前よりも強く、そして微細な変化を見せていた。
「みんな、お疲れ様!」創夜は笑顔で言った。
「創夜も、お疲れ様アル!」リンは、創夜の周りに漂う無意識の気の変化を察していた。
創夜は言った。「俺は、アニメの技を再現する以上の、無意識に発動する絶対防御の糸口を掴んだよ。あとは、それを完成させるだけだ!」
セリアは誇らしげに胸を張る。「私は、この海の無限の魔力を相手に、魔法の制御と切断を完璧に掴んだわ!」
ミーナは、抱えきれないほどのクッキーの絵を大事そうに抱えていた。「ミーナは、愛の気で、クッキーをもっと美味しくする方法を掴んだの!」
ミリィは、静かに海を見つめながら言った。「私は、予兆を読んで未来を回避する集中力を掴めた」
全員が水着姿で、創夜の加護のもと、夕焼けの海を背に立っている。その瞳には、確かな成長と、次の目標への期待が満ち溢れていた。
リンは、皆の成長を見て、満足げに笑った。
「よし、みんな何かを掴んだようアルネ!この海の町の修行は、ひとまず終わりアル。次は、創夜が言っていた、海底神殿とやらを探しに行くアル!」
彼らの賑やかな冒険の旅は、いよいよ海の底へと向かうのだった。




