ep13.最終決戦 異界の王2
ミリィが選んだ進路は、王城の中でも最も異質な領域、時空の歪む回廊だった。壁も床も光の残像となって震え、一歩進むごとに時間の流れが加速したり、引き延ばされたりする。この回廊こそ、創夜が最も足止めを食らう場所であり、彼女の未来視と加速能力がなければ突破不可能な迷宮だった。
回廊の中央、時間の渦が最も激しい場所に、四天王の一人、未来を喰らう者・ベリトは立っていた。その姿は、光と影が常に変形する不定形で、いくつもの未来の残像を同時に纏っている。
「愚かな人間よ。よくここまで辿り着いた。だが、お前の未来など、私の掌の上だ! 貴様が次に取る行動、次に発する言葉、全ては既に私に知られている。諦めろ!」
ベリトの声は、過去と未来が同時に響き合うように歪んでいた。
ミリィは冷静に、深紅の瞳でベリトの姿を捉える。彼女の心は極限まで集中されていた。
「ふん、あなたの未来は、私の見ている未来と似て非なるものよ。この空間の時空の乱れを読み解けるのは、私だけ。ここで足止めを食らうわけにはいかないわ」
ミリィは一歩踏み出し、愛用の剣を構えた。彼女の未来視は、ベリトが放つ幾千もの未来の可能性の中から、『確定した未来』への道筋を、青い光の線として映し出していた。
ベリトは余裕の笑みのようなものを浮かべ、戦闘を開始する。
「無駄だ! 『時空残響』!」
ベリトの現在の身体、一秒後の未来の身体、そして一秒前の過去の残像が同時にミリィへと襲いかかる。過去の残像は既に発動した攻撃を再現し、未来の身体はミリィが回避するであろう空間を先回りして塞いだ。さらに、あらゆる時空をずらしながら、ミリィの剣が届かない領域を巧みに選び、彼女の未来視を無効化しようと試みる。
通常の戦士であれば、この『確定しない多重時間攻撃』の前には、思考が追いつかず、瞬時に肉体が崩壊するだろう。
だが、ミリィの瞳は揺るがない。彼女が見ているのは、ベリトの攻撃そのものではない。彼女が視ているのは、『時間の流れ』の乱れ、その予兆だった。未来視は、攻撃の軌道が時間軸上で乱れる『一瞬の綻び』を正確に捉える。彼女の体は、加速能力によってその未来の情報に完璧に追従し、最小限の動きへと収束させた。
ミリィは横に一歩、足を滑らせる。それだけで、過去の攻撃が巻き起こす爆風を避け、未来の攻撃が通り過ぎる一線をかいくぐった。ベリトの無数の拳と刃が、ミリィを包囲しながらも、全てが空を切る。
「な……なぜだ!? 貴様の回避は、私の予測を超えている! それは、私の未来には存在しない動きだ!」
ベリトの声に焦りが混ざり始めた。
「あなたの未来は、私にとってどうでもいい。私が求めるのは、創夜が王を討つという確定した未来よ。そのために、あなたという障害は消えてもらうわ」
ミリィは剣を握る手に力を込めた。ベリトの攻撃をかわし続けた数秒の間に、彼女は既に敵の『未来を喰らう能力の核』を見抜いていた。それは、ベリトの存在を時空に固定している、ごくわずかな『時間の静止点』だった。
「あなたの未来は……ここで終わりよ!」
ミリィの動きは、もう最小限という次元を超えていた。呼吸、視線、筋肉の動き、全てが『加速』と『未来視』によって極限まで研ぎ澄まされ、ただ一歩、ただ一閃の動作に凝縮される。
「未来回避の一閃《フラッシュ・ストライク》!」
彼女の剣閃は、時空を滑るようにベリトの時間の静止点へと吸い込まれた。
刹那、ベリトを構成していた過去と未来の残像が全て消え去り、その存在そのものが時間軸から切り離されたかのように、一瞬で停止した。時間の法則が崩壊したことで、ベリトの肉体は光の粒子となって霧散し、回廊から時空の歪みが消え去った。
ミリィは深呼吸し、剣の切っ先を下げた。回廊に静寂が戻る。
「へへっ、倒したわよ、創夜!」
「ミリィ、よくやったな。フィーリアが向かいに行くからアストラルブレイカーに乗ってくれ」
「ミリィ、壁に穴を空けるわ!」
「ええぇっ」ミリィがさっきいた場所まで瓦礫が飛んできていたがミリィはそれを予測し先に安全地帯へと避難し、アストラルブレイカーに飛び乗る。
ミリィが時空の歪みを断ち切った頃、リンは王城の最も深く、心臓部とも呼べる動力炉へと到達していた。そこは異界の魔力を吸収・増幅するための巨大な炉が脈打ち、熱と悪意の波が絶え間なく押し寄せる、最も破壊的なエネルギーに満ちた場所だった。リンが選んだのは、この心臓部の機能を停止させるという、最も直接的な道だった。
動力炉の中央、赤黒く燃える炉の前に立ちはだかっていたのは、四天王の一人、剛力の覇者・ガープ。全身を硬質な黒い装甲で覆い、まるで巨大な岩石そのものが動いているような、圧倒的な質量を誇っていた。
「竜族の小娘が、この程度の魔力制御に頼る場所に来るとはな! 貴様のような華奢な体で、この拳に耐えられるか!」
ガープは豪快に吠え、その巨腕を振り抜いた。それは純粋な筋力によって生み出された衝撃波であり、動力炉の壁を砕き、周囲の魔力管を破裂させながら、リン目掛けて叩きつけられる。その威力は、並の防御魔法や剣術では完全に受け止めきれず、粉砕されるしかない。
リンはしかし、一歩も引かなかった。彼女の全身の筋肉は極限まで緊張し、竜の里の格闘術で培った集中力を全身にみなぎらせる。
「耐えるアルよ!私の技を見せてやるネ!」
彼女は両手の平を合わせ、自身の身体と意識を『竜族の気』へと集中させた。創夜の絶対防御が広域の概念操作であるのに対し、リンの防御は、その無意識の防御の概念を、竜族特有の強靭な『気』を用いて一点に再現するものだった。
「竜気の絶対防御!」
衝撃波がリンの目前に到達した瞬間、彼女の身体の周囲、わずか数ミリの空間に、透明な気の障壁が出現した。それは、広範囲に展開する創夜の防御とは異なり、ガープの衝撃波が持つ『破壊』の概念そのものを、『力の無効化』という別の概念に変換して受け流す、究極の一点集中防御だった。
「な、なぜだ!? 私の剛力が、小娘の目前で力を失っただと!?」
ガープの巨体に動揺が走る。
「剛力には、気の圧縮で応えるアル! 貴様の力はただの破壊。私の力は、破壊すら呑み込む制御アル!」
リンは防御を解除し、一瞬で超速の体勢へと移行した。彼女の狙いは、ガープの装甲の最も厚い部分、すなわち『剛力の源』である心臓部だった。
彼女は、体内の『竜族の気』を、まるで圧縮空気のように右手の拳の一点に集中させる。その気の密度は、鉄を溶かし、ダイヤモンドを砕くほどの硬度と破壊力を秘めていた。
ドゴン――!
リンの小さな拳が、ガープの厚い胸部装甲の中心へと突き刺さった。それは超速が生み出す衝撃であり、圧縮された気が生み出す破壊だった。
衝撃音とともに、ガープの分厚い装甲が内部から亀裂を生じ、木っ端微塵に砕け散る。巨体は呻き声を上げることすらできず、動力炉の壁に激突し、崩れ落ちた。
「剛力を制御してこそ、真の力アル!」
リンは拳を突き出したまま、満足げに笑った。その小さな体からは想像もつかないほどの闘気が、動力炉を満たしていた。四天王の一人、剛力の覇者・ガープは、リンの超速と制御によって、瞬時に敗北したのだ。
「よし、創夜こっちも終わったアル!」
フィーリアがリンを向かいに壁に穴を空け、リンを回収する。
ミーナが辿り着いたのは、城の奥深くにある生命循環路――異界の魔力が脈打ち、無数の管が地面を這う不気味な空間だった。
そこに立つのは、王の最後の四天王。
「混沌の創造主・ザガン」
その姿は黒い粘液と骨が融合した異形で、見る者の心を狂わせるほどの存在感を放っていた。
「……来たか、小悪魔の娘。貴様のその血は、混沌に最も近い。私の器として、悪くない」
ザガンの声は空間全体から響くように歪み、足元の地面が波打つ。
ミーナは、赤黒い魔力を纏う。
「私はもう、誰の器にもならない。
――創夜の仲間、ミーナとして戦うわ!」
ザガンが手を振ると、周囲の肉壁から無数の黒い腕が生え、触れたものを溶かす腐食の瘴気が溢れ出した。
しかしミーナはひるまない。彼女の体から放たれる悪魔のオーラが一瞬でしょうきを弾き飛ばす。
「悪魔の力をなめないで!」
ミーナは瞬間的に姿を消す。
ザガンの目が追いつく前に、ミーナの斬撃が走った。
「――シャドウ・スラッシュ!」
闇を裂くような一撃が、ザガンの外殻を切り裂く。だがその傷口はすぐに再生する。
「無駄だ。私は『混沌』そのもの。破壊など、意味をなさぬ」
ザガンの身体から黒い触手が奔流のように伸び、空間を覆う。
その全てが、ミーナを飲み込もうと迫る。
だが彼女は跳ねるように宙を舞い、魔力の加速で上空へと回避した。
「――インフェルノ・スピン!」
赤黒い炎が剣を包み、回転と共に無数の炎刃が周囲に降り注ぐ。
ザガンの触手が次々と焼き切れ、断末魔のような音が空間に響く。
「この程度……まだ混沌の核には届かん!」
ザガンが怒りと共に咆哮し、生命循環路そのものを歪ませた。
壁も床も裏返り、上下がわからない。
しかしミーナは目を閉じ、集中する。
――創夜の加護が、確かに背中にある。
「落ち着いて……混沌は、中心から崩す!」
ミーナは気配を読む。歪んだ空間の中で、ほんのわずかに乱れた魔力の流れ――そこが核だ。
瞬間、地面を蹴った。
「――ダークレギオン・ブレイク!!」
悪魔の翼のような魔力が背に広がり、彼女は一直線にザガンの胸部を貫く。
赤黒い光が閃き、爆発のような衝撃が空間を飲み込んだ。
「ま、待て……!貴様……その力、いったい何だ……!」
「これは、仲間と共にある力よ」
ザガンの巨体は光の粒となり、崩れ落ちていった。
残されたのは、静寂と、脈動を止めた生命循環路の残骸だけ。
ミーナは深呼吸し、腕を下ろした。
額から汗が滴り、赤い瞳がわずかに揺れる。
「……やった。もう、終わったんだね」
創夜のテレパシーで、リンの声が響く。
『さすがミーナ!最後の四天王、撃破アル!』
セリアの軽やかな声も続く。
『ふふ、やるじゃない。創夜、これで道は開けたわね』
ミーナは微笑み、わずかにしっぽを揺らした。
「うん……これで、皆のところへ行けるわ」
その瞳に、恐れも迷いもなかった。
悪魔の少女は、もう迷子ではない。
四天王を全て撃破した創夜は、ついに異界の王の核へと辿り着いた。
異界の心臓――そこは、生きた肉塊と奔流する光が絡み合い、常識の通用しない空間だった。
――――
赤黒い光が脈打ち、空間そのものがうねる。触手や奔流が生き物のようにうごめき、近づく者を容赦なく引き裂こうとしている。創夜は剣を握り締め、目を細めた。
「よくぞ来たな、転生者よ……だが、もう遅い!」
王の核の咆哮が空間を震わせ、地面が隆起し、空気が粘つくように重く押し潰す。
「ここからが本番だ!」
王の核は、圧倒的な存在感で巨大に膨れ上がり、赤黒い光を渦巻かせる。
「転生者よ……全ては終わる。世界ごと、この私の糧となれ!」
核の一部が飛び出し、触手となって創夜に襲いかかる。
創夜は剣を振るい、触手を断ち切るが、切っても切っても瞬時に再生する。触手は無数に増え、空間を覆うように伸びる。
「……くっ、全力で行くしかない!」
剣を大きく振り下ろすと、光の刃が赤黒い触手を裂き、核の表面に亀裂を入れる。しかし核は形を変え、破壊を許さない。
「創夜!間に合ったアル、左翼から触手が回り込んでくるアル!」
リンの声が響き、創夜は回避しつつ、剣の先端で触手を弾き飛ばす。
触手が炸裂し、赤黒い飛沫が空間に散る。
「よし……ここで仲間たちの力を最大限に!」
創夜は剣を構え、セリアの魔力を吸収し、光の刃に融合させる。
ミリィの未来視で導かれる最適軌道を刃に反映させ、リンの気の波で空間を安定させる。
ミーナの愛の気は刃の威力を極限まで高め、敵の核に集中する。
「行くぞ、王。これが――俺たちの答えだ!みんな合わせてくれぇぇぇぇ!」
アイアンブレードは七色の光を放つ魔法剣へと変化する。光は異界の法則そのものをねじ曲げ、奔流や触手を寄せ付けない。全員の手が光りはじめ、創夜に合わせて手をかざした。
「世界破断剣!」
光の刃が王の核を貫く瞬間、赤黒い奔流と触手が激しく抵抗する。空間が裂け、異界の中心部が大きく揺れた。
核は巨大な波動を放ち、光と闇の奔流を撒き散らす。創夜は膝をつき、剣を支えにして耐える。
セリアの魔力が奔流を吸収し、刃に変換してさらに核へと突き刺さる。
ミリィは未来視で残存する攻撃を瞬時に予測し、最小の動きで刃を核の中心に導く。
リンは気の波で触手を抑え、ミーナの愛の気で結界を強化する。
王は絶叫した。
「な、何だ……この力は……! 我が核を……破壊するとは……!」
触手や奔流が必死に刃に絡もうとするが、光の刃は動じず、全てを切り裂き続ける。
そして、王の核が完全に砕け散った瞬間、空間は轟音と共に崩壊し始める。赤黒い光が消え、奔流が空中で爆ぜる。異界の心臓は崩れ、触手や肉塊は粉々になって地面へ落下する。
創夜は剣を支えに膝をつき、重く息をついた。
「……終わったか」
静寂が空間を包み込み、崩壊の波動が徐々に穏やかになっていった。
仲間たちの思念が創夜へ流れ込む。
リン『創夜……やったアル!』
セリア『無事ね、創夜。道は開けたわ』
ミリィ『……未来、見えないけど、確かに勝ったわね』
ミーナ『創夜、やったね!』
創夜は静かに頷き、剣を背に立ち上がる。
空間の残骸を踏みしめながら、仲間の顔を一人ずつ見渡す。
誰もが傷だらけだが、確かに生きている。
――そして、彼らの前に残されたのは、静寂の中でゆっくりと消えていく異界の残骸だけだった。しかし、創夜たちが全員城から脱出し、外に出ている状態だったが、創夜が追い打ちをかける。
「念のためだ。国中をだまし、こんな次元まで移動してくる奴だからな」
―――メルト・アビス
城全体をマグマのような炎魔法で包み込む
「強烈に温めたあと、一気に冷やす」
―――絶対零度
次に、城全体を氷で包み込んだ。急激に冷やされた物体は溶けるように割れる。
城全体にひびが入る。
―――アビス・ハリケーン
風魔法で城全体を包み込む。
―――プラズマ・カタストロフ
竜巻を雷魔法で包み込み、強烈な竜巻の中に雷が生まれる。
―――ポセイドン・カタストロフ
雷を強化すべく、水魔法が竜巻の全体を包み込み、更に、稲妻が強化される
―――ガイア・フラグメント
土魔法が竜巻と水龍の中に紛れ込み、粉々に城を砕き始めた。
「締めだ!」
―――ルミナス・グラビティ・ゼロ
創夜の漆黒の闇の重力魔法と光魔法で星の輝きとともにブラックホールが城ごと飲み込んだ。
異界の王の城は跡形もなく消えていた。
仲間全員が目の前のさっきまでいた城が目の前から消える光景を目に、何も言えずに驚いた顔をしていた。
「フィーリア、急いで次元の裂け目へ行けぇぇぇぇぇ!飲み込まれるぞ!」
――そして。
(創夜、もう限界アル! 脱出するヨ!!)
(全員、シートに固定! ミリィ、転送航路を!)
(了解――目標:現界、首都上空座標!)
飛空艇の魔導エンジンが唸りを上げ、七色の光が船体を包み込む。
背後で次元の破裂音が響き、まるで世界そのものが悲鳴を上げるようだった。
(みんな……ここまで、ありがとう。行くぞ!)
(「了解!」)
飛空艇が加速する。
異界の裂け目を突き抜け、光の奔流の中を駆け抜ける。
視界が白に染まり――そして、青い空が広がった
まぶしい太陽。
清らかな風。
懐かしい世界の匂い。
「……帰ってきた」
創夜が呟くと、リンが嬉しそうに跳ねた。
(やったネ! これで本当に終わりアル!!)
セリアは深呼吸をして、空を見上げた。
(この空……最高ね。異界の空気とは大違い。)
ミリィは無言で未来視装置を閉じる。
(……未来は、もう自分たちで作れるわ。)
ミーナは剣を胸に抱きしめ、穏やかな思念を放つ。
(創夜、本当に……ありがとう。)
創夜は静かに頷き、仲間たちの心を一人ひとり感じ取る。
誰もが傷だらけだが、確かに生きている。
(……いや、ありがとうは俺の方だ。
お前たちがいたから、俺は王を倒せた。
この世界を、救えた。)
一瞬の沈黙。
そして次の瞬間――
(ちょ、ちょっと落ち着けって!)
(落ち着けるかアルかー!! 死ぬかと思ったアル!!)
セリアとミーナが思念で笑い、ミリィも小さく吹き出す。
(……ふふ、ほんと。最高のチームね。)
飛空艇はゆっくりと首都上空を旋回し、朝の光の中を進む。
崩壊した異界の裂け目が完全に閉じ、空にはただ静かな青だけが残った。
創夜は目を閉じ、心で仲間たちに語りかける。
(……なあ、みんな。)
(ん? どうしたネ?)
(これからも、一緒に――旅をしよう。)
少しの沈黙。
そして温かな思念が返ってくる。
(当然よ。)
(賛成。)
(もちろんアル!)
(……はい。)
(一応言っとくけど私はあなた達を見張っているのよ。)
飛空艇は昇る朝日に向かって進む。
その光の中で、仲間たちの思念が重なり、ひとつに溶け合った。
――こうして、異界の王との最終決戦は幕を下ろした。
だが彼らの旅路は、まだ終わらない。
救った世界の果てに、また新しい冒険が待っている。
それが、創夜たちの物語だ。
異界の王を打ち破り、世界を救った創夜たちは、すべての騒動が収まったあと、故郷の海の町へと帰ってきていた。
王の悪行はすべて公表され、世界は混乱から立ち直りつつある。
人々は「創造主・創夜」への感謝を胸に、新しい時代を迎えていた。
その夜――。
彼らは海の町で一番の高級レストランを貸し切り、静かな祝宴を開いていた。
テーブルには豪華な海鮮料理と極上のワインが並び、仲間たちは思い思いの正装で席に着いている。
セリアは深紅のイブニングドレスに身を包み、グラスを手に優雅に微笑む。
リンは相変わらずの武道着姿で、珍しく静かに杯を傾けていた。
ミーナはクッキーを片手に、いつものように幸せそうな笑みを浮かべている。
ミリィは静かに魚料理を味わいながら、満ち足りた表情で一行を見つめていた。
「ふぅ……やっぱり、最終決戦のあとに食うメシは格別だな」
創夜はステーキを切りながら、心からの笑みを浮かべる。
リンがグラスを掲げた。
「あの王との戦い、思い出すだけでゾクゾクするアル! 創夜の城を粉砕した魔法、本当にすごかったネ!」
セリアは艶やかに肩をすくめる。
「あの時のあなたの防御、まるで神の加護だったわ。私も、自分の魔力制御を極められて満足よ。このドレスも、私の勝利を祝っているの」
ミーナはクッキーをかじりながら、にこにこと言う。
「ミーナの愛情クッキーで、王様の憎しみも優しさに変えられたらよかったのにね! でも、世界が平和になったから、もっとおいしいクッキーを作れるわ!」
ミリィが小さく笑った。
「修行の成果が報われた瞬間だったわ。王の未来予測も、私の一撃の前では通じなかった」
創夜はそんな仲間たちを見渡し、穏やかに言った。
「ああ……結局、俺のジョブは『空白』のままだったけどな。でも、わかったよ。『空白』ってのは、何にも縛られずに、想像したすべてを形にできる――最強の自由のことなんだ」
リンが笑いながらうなずく。
「その通りアル! 創夜は『無職』という名の、世界の創造主アルネ!」
会場に笑いが広がった。
そして、セリアがワイングラスをくるくると回しながら、ふと問いかけた。
「あの王、誰かに命じられたとか言ってたわよね」
「そういえば、そうだった……聞くのを忘れていた」
「答えるわけないでしょ」
「当たり前アル」
「戦いの後のクッキーは最高よ!」
彼はグラスを掲げた。
「最高の自由と、終わらない物語に――乾杯!」
「乾杯!」
グラスが鳴り響き、笑顔が広がる。
王を倒した達成感と、新しい冒険への期待が、彼らの胸を満たしていた。
セリアが腕を組み、微笑みながら言った。
「でも、創夜。アイアンブレードだけじゃ、ちょっと心もとないんじゃない?」
創夜は剣を軽くトントンと叩き、肩越しに笑った。
「そうかもな。でも、物理の武器は作れないからな――作れるのは魔法剣と魔法だけだ」
ミーナが目を輝かせて口を挟む。
「要するに、剣自体を魔力で強化したり、光や炎の刃に変えたりできるんだ。例えばこのアイアンブレードも、七色に輝く魔法剣になる」
創夜は楽しそうに説明する。
「だから、僕の戦い方は剣と魔法の融合――普通の装備じゃなく、想像力で作った魔法の力が頼りなんだ」
ミリィが未来視の手つきで笑った。
「なるほどね。次の冒険でも、私の未来視と組み合わせて攻略できそうだわ」
リンが興奮気味に体を揺らす。
「 創夜は敵なしネ!」
セリアがグラスをくるくる回しながら、軽やかに言った。
「でも、あなたの魔法剣はやっぱり象徴ね。どんな魔法を込めても、剣そのものが創夜の自由を映しているもの」
創夜は満面の笑みを浮かべ、グラスのジュースを飲み干した。
「ふっ、まあな。自由と想像力の証だからな。アイアンブレードも、僕が作る魔法も――全部、俺たちの物語の一部だ。魔法が効かない相手が居なくてよかったぜ。この装備で裏ボスまで倒したようなものだが、しかし、このままこの装備で行くわけにもいかないな。ドロップ品も素材もあるからまともな装備でもつくるか」
ミーナが頬を膨らませ、嬉しそうに笑った。
「だったら私も、クッキーのオーブンをもっと改造して、次の冒険に備えなくちゃね!」
リンが身を乗り出して、指を弾ませながら言った。
「ねえねえ創夜、次の冒険、早く行きたいアル!」
創夜は仲間たちを順に見渡し、ニヤリと笑った。
「おう、行くぞ――でもまずはこの乾杯の味をしっかり楽しんで装備を整えて十分準備をしてからな」
そして、みんなで笑い声を上げながらグラスを掲げた。




