ep6.銀河編 メインコンピュータの沈黙
特化型ロボットを全滅させた創夜たちの周囲に、再び静寂が訪れた。メトロポリスの警報は完全に止まり、空を覆っていたドローンの残党も撤退している。
創夜は夜の剣を肩に担いだまま、誰もいない都市の中心へ向けてゆっくりと飛行していく。
「さて、次はどうする、AI。俺たちを危険人物と判断したなら、お前の不意打ちのお返しは終わりだ。お前を破壊するのは簡単だが、まずは話をさせてもらうぞ。」
しかし、応答はない。メインコンピューターは沈黙を守っている。
フィーリアがライダースーツのパネルを操作しながら、焦燥した声を上げた。「ダメだ!完全に通信を遮断してる!防御システムも、中途半端に動いてるのが一番厄介だよ…次に何を仕掛けてくるか、全く予測できない!」
ミリィは、警戒を緩めない。「敵が沈黙しているということは、解析が完全に破綻したか、あるいは次の手を打つための巨大な計算リソースを必要としているかのどちらかよ。」
「創夜、こっちは休憩アル。」
創夜は、立ち止まり、周囲を見渡した。「AIは予測できない攻撃に、完全に思考停止しているはずだ。それに、俺たちが攻撃しなければ攻撃してこないということがよくわかるように、暫く静寂を保とうか。」
創夜とフィーリアだけが、メインコンピュータへ目指し、他の仲間達は、上で待機している。
セリアが面白そうに笑う。「ふふ、論理の塊には、最も非効率なルールが一番効くわよね。解析結果が無駄になるんだもの。」
創夜は頷く。「AIが持つデータベースは、過去の『人間の戦闘データ』に依存している。つまり、効率的で、再現性のある行動しか予測できない。だが、俺たちの行動は、その全てを否定する『無秩序な強さ』だ。」
「AIが最も警戒するのは、俺がコアに『最も効率の良いワープ経路』で直行することだ。」
フィーリアがハッとしたように顔を上げる。「そうか! AIのロジックからすれば、あなたは最も危険な『コアへの直接侵入』というパターンを捨てた!これは予測不能な行動そのものだよ!」
「AIは今、パニック状態だ。俺たちが次に取る行動、すなわち『コアへの最適な侵入経路』を再計算し続けている。そこで、俺たちはさらに奴の予想を裏切る行動に出る。」
ミーナが目を輝かせる。「創夜、次はどうする? 悪魔の書で道を切り開いてもいいよ。」
「いや。」創夜は首を振った。「コアは都市の中心にある一番太い塔の地下、だったな、フィーリア。」
「うん。そこから全てをコントロールしている…」
「つまり、コアこそがAIの心臓部だ。しかし、AIにとって心臓部と同じくらい大事な場所が、もう一つあるはずだ。」
創夜は地図上の中心にある塔とは別の、都市の端に位置する、巨大な皿のような形状の施設を指さした。
「フィーリア、あの施設の役割を教えてくれ。AIが最も守りたがらない場所で、最も致命的な場所だ。」
フィーリアがライダースーツのパネルに触れると、すぐに冷や汗をかいた。「あれは…メトロポリスの予備エネルギー炉と、全銀河系から集めたデータバンクだよ! 都市の稼働と、監視データの蓄積に必須だ!そこを破壊されたら、AIは一時的に盲目になる!」
「よし、決まりだ。」創夜の仲間達は、メトロポリスの中心とは真逆の、エネルギー炉へ向かって歩き出した。
セリアが不敵な笑みを浮かべる。「AIの論理の裏をかくなんて、最高の遊びだわ。行きましょう、皆みんな!」
「俺たちがコアへ直行する、という『論理』をAIに叩き込んでおいて、あえてデータバンクを狙う。これでAIは『コアとデータバンク、どちらを優先して守るべきか』という、最も非効率な計算に陥るだろう。」
創夜は一歩を踏み出した。彼の行動は、AIの論理構造に「データ衝突」を引き起こす、人間的な遊び心に満ちた一手だった。
「行くぞ。俺たちが危険人物である理由を、予測不能性という形で教えてやる。」
「こっちは、フィーリアの解析に少し時間がかかりそうだ」




