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1-7 食糧事情

リンガが香辛料のような粉をプレートの上で焼けたファングの肉に振りかけ、香ばしい匂いが広がる。さらにまだ熱い肉をトングでつまむとひっくり返してまた粉をかけた。


「ほらどうぞ。ファングの肉は臭いから、香辛料をかけないと中々美味しくならないんだ。」


「有難くいただこう・・・うむ、美味い、でいいのだと思う。目覚めてから初めての食事だ。」


エンドは皿に盛られた肉をフォークで口に入れた。


「そう言ってくれると嬉しいな。これも一応は貴重な肉だし。」


「む、食べるものがこの地域は不足しているのか?」


「うーん、リゾトリアは食べるだけならまだ他よりはマシかな?種類はそう多くないけどさ。」


リンガは袋から芋のようなものを取り出す。


「これがダルイモっていう芋で、マナが少ない土地でも育つし、同じところで何度も育てられる。しかも茎や葉まで食べられる野菜なんだ。そのままでも光に当てなければ保存も効くし火を通さなくても一応食べれるから旅の必需品に近いね。」


「それはなんともまあ、都合のいい野菜だな。味はどうだろうか?」


「一緒に焼くから食べてみなよ。ちょっとパサつくし味は薄めだけど悪くはないよ。」


リンガは褐色の皮をナイフで器用に剥き、黄土色の中身を薄く切るとプレートで焼いた。塩を軽く振るうとエンドの皿に乗せ、エンドはフォークで口に運ぶ。


「うむ、素朴な味だが悪くない。しかし、植物もまたマナを産生するのであればマナ不足にはならなさそうに思うが。」


「そりゃ多少は作るけどとても足りない量だよ。マナを多く作る植物程オドが増えて枯れちゃったって聞いたことがあるしね。ダルイモはマナが少なくても育つけど、その分マナを作る量もたかが知れてる。一応は牧場もあるけど大体金持ち向けで文無しは魔獣の肉ばっかりだよ。」


「なるほど、世知辛いな。」


「そんなもんだろうさ。ボクは難しいことは分からないけど、小難しいのが好きな奴は植物も動物も、オドからマナを作っている全てがいずれオドが濃すぎてダメになるって言ってる。そんな未来のことなんてボクは知ったこっちゃないけどさ・・・それよりそろそろ寝ようか。いろいろ知りたいことはあるだろうけど明日も早いし、今はエンドは休むべきだ。ボクも片付けたら休むから先にどうぞ。」


体の疲労は不思議とあまり感じなかったが、色々と怒涛の出来事が重なっており、客観的に見れば確かに休んだ方がいいのだろうとエンドは考える。リンガの心遣いをありがたく思いつつ、寝床となる家のドアをくぐった。


この家を本日の宿泊場所としたのは家の状態が悪くなかった点もあるが、ドアに鍵がかかっていなかったこともある。無用にドアや窓を壊すのもまたスマートではない。鍵がかかっていないのはここに閑静な場所に住んでいた人々が鍵をかける必要もないくらいに平穏であったのか、それとも集落を離れる際にもう二度と帰ってくることもないという意思の表れか・・・もはやそれを知るすべもない。


足がはみ出るほどの小さなベッドに体を丸めながらエンドは目を閉じて今日一日のことを思い返す。

考えてみればとんでもないことだらけであった。何も知らずに死んでいてもおかしくなかったのだ。肉体はその事実に僅かに緊張しているが、心はそれに反してどこか晴れやかだった。手に汗を握る緊張も、体の痛みでさえ快く感じてしまっている。


―――ドアが開き、そして閉まる音が聞こえた。リンガが片づけを終えて家に入ってきたのだろう。もちろん部屋は別々であり、どこかの部屋の戸が開き、閉まる音が聞こえ、あとは静寂。中々眠気は訪れないが、エンドはせめて目は閉じて体を休めようとする。だが、新しい発見がそれを大いに阻害していた。


音でもなく、像でもなく、あえて言うのであれば、気配というのであろうか。目には見えなくてもこの部屋の形、そして斜め向かいの部屋にいるであろうリンガ、家の外にあるもの、雑多な存在を騒がしいほどに感じてしまっていることに気が付いた。それは不快というわけでもなく、むしろ好ましいくらいであったが中々気になってしまい眠りにつけない。これがこの世界では一般的なことであれば皆どのようにこの情報量を許容して夜に寝ているのだろうか?何も知らないことが多すぎて困ってしまうとエンドは一人笑う。その思考の渦はとまらず、今宵は長い夜になりそうだった。



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