2-38 露天風呂
コテージに隣接するように小規模な露天風呂がある。湖に面した一部を除き目隠しの壁が建てられており、外から覗けないような作りになっているのはコテージに入る前にも確認出来ていた。昔は家族で宿泊に来て、水入らずの家族風呂を楽しむ事が流行であったとマギアンは説明してくれていた。
リンガはそこまで風呂に括りは無く、普段はシャワーも短時間で済ませてしまう。しかし、広い湯船に入るという贅沢には多少心が躍った。エンドは夜風に当たってくると言い少し前にコテージから出たが、シッコが念のためについて行ったため多少の不安はあるが問題無いと考える。
脱衣所は珍しく男女別になっており、昔は男女比がマシだった名残だったのだろう。マントを取り、表面積の少ない布を取ればすぐに風呂に入る体勢が整う。しかし敢えて雰囲気を楽しむように丁寧に時間をかけて服を畳む。鼻歌混じりの上機嫌で引き戸を開けて風呂に進み、湯気が急な風で晴れるとーーー
アブドミナル・アンド・サイのポージングをする全裸の巨漢が居た。
「うわあああああっ!?なんでエンドが居るんだよ!!」
慌てて目を塞ぐが、その指の隙間から緑色の目が覗いていた。
「おお!相棒、私も先程帰ってきた所だ。いやはや大きな風呂というものは心が弾む、すぐに服を脱いでしまったよ。ああ、出入り口は男女別だが、風呂は昔は壁で別れていた様な形跡があるが、今は取り払われている様だな。男が少なければ態々必要無いという道理だろう。」
「いや!なんでそんなに落ち着いてるの!?少しは隠しなって、デッ!!・・・あ、ああ、デデッ!!!」
「君も隠した方が良い、私に刺激が強すぎて反応してしまった様だ。」
リンガはペタリと座り込み、まだ湯も浴びていないのに顔を真っ赤にさせる。
「折角の湯だ、相棒も早く入ろうでは無いか。受付嬢が持ってきてくれた中に醸造酒もある、月を肴に一杯というのも乙なものだ。」
エンドはゆっくりと湯に入ると白濁した湯がその下半身を隠し、リンガはゆっくり息を吐くとようやく腰を上げ、動ける様になった。
「だ、だからキミのそういうのは!」
「ふむ?落ち着いてくれ相棒。さて、今の世では男性がみだりに肌を晒すのは危ないということは分かっている。強い女性側が無理に男性を襲う事もあり、一般論ではそれは良くないだろう・・・だが、男性から脱ぐのは、それがしかも風呂であれば問題無いのではないか?」
エンドの自身でも分からない感覚では、若い女性が脱ぐのは一般論的にご褒美である。その感覚が正しい世界であれば自身の行為は犯罪に近いと思うが、それが逆転しているのであれば女性側に不利益は無く、少なくとも公共の場で無ければ咎められまいと考える。
事実、リンガはうっ、とうめいて、掛け湯で汚れを落とすとしずしずとエンドのいる反対の場所から湯に入る。
「む、相棒、そこまで離れると私が寂しいではないか。」
「むきゃあいっ!!」
ずいっとエンドが寄ると、奇声を上げたリンガが飛び除こうとするが、何とか寸前で留まり、顔を半分まで湯につけてブクブクと息で泡を立てる。
その目の前を水に浮いた油の様に広がるシッコがプカプカと通り過ぎて行った。
「・・・アイボー、ボクだって限界はあるからね」
「ふっ、私もだ。」
エンドに取ってみれば若い女性から迫られるので有ればそれはただのご褒美であり、この世界の一般的な感覚ではリンガに取ってもある意味ご褒美ではあるのだが・・・変な部分での臆病さと、真面目さが心身ともに悶々とさせつつも、一歩踏み出す事を邪魔していた。
浮かべた桶酒をお猪口に注いで口に含むと、エンドはその口当たりの良さと甘みに喜ぶ。リンガにその事を伝えて飲むかどうか聞くと、最初は断ろうとしていた様子のリンガであったが意を決したように受け取り舌で舐める。
「あ!これなら飲めそう。」
こくっと喉を鳴らして飲んだリンガは今度はエンドのお猪口に酒を注ぐ。そのやり取りを何度かしていると、リンガがエンドにしなだれかかって来た。
「えへへーアイボー」
とろんとした目、息は荒く、シッコはその様子を視線に入らない場所で感慨深く見守る。
「あのねーアイボー大好ゔっ!ぎもぢわるい!」
「ぬおっ!?」
「ギャーー!」
シッコが触手を伸ばし酒瓶を取り上げ、エンドがナイアガラの滝を出すリンガの口の下に桶を滑り込ませて危うく大惨事を避ける。一通り吐くと、リンガは湯当たりした様子で意識が曖昧となっていた。
急いで湯から上げると風通しの良い場所でシッコがベッドに変形してそこに寝かせる。暫くすると顔色は良くなったものの、健やかな寝息を立て始めてしまった。
エンドはその身体を拭き、ベッドに寝かせると再び風呂に入る。記憶にはないがどうやら、自分はかなり風呂が好きであるらしい。動く事のないこの世界の月を見上げ、呟く。
「性欲を持て余すな・・・」
エンドは熱った身体を外気浴で冷まし、また風呂に入る。何度も繰り返すが、温泉は湯船に溜めただけであり、徐々にぬるくなってしまう。徳利からを月に掲げて最後の一口を煽るとエンドもコテージに戻り、いつものように長い夜を過ごすのであった。




