表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

1-4 小鬼

「・・・で、どうしてキミは服も着ないでこんなところにいるんだよ?しかも男がこんなところにいるなんて・・・厄介事は御免なんだけど」


横を向きつつもチラチラと様子を伺う小鬼から問いかけられた言葉に何と答えるか男は逡巡する。とはいえ、改めて思い返してみても男自身がその答えを見つけられないのだから困ってしまっていた。


「何か言ってくれよ、って、そうか。男性ならこっちから自己紹介するのがマナーだったっけ・・・ボクは小鬼のガ族出身のリンガだ。それでキミは?」


「・・・あーそれなのだが、わからんのだ。」


「は?」


「ほら、あそこに屋根に大穴が開いた家があってな」


男が指さした方向を見てリンガと名乗った小鬼は頷く。


「あるね。」


「何故かあそこに落ちてきたらしくてな。」


「はあ?何が?」


「私のようだ。それで起きたら何も覚えてなくてな、困ったもんだ。はっはっは」


「おいっ!冗談は・・・」


「いやいや、冗談で全裸にはならんし、あんなよく分からない化け物に襲われてはいないと思う、が・・・我ながら怪しいのは十分承知だ。」


「んー?んん・・・ま、まあ、そうか。ただの変態じゃなきゃこんな辺鄙なところで裸で死にかけてるなんて無いけどさぁ・・・あーもう!これ完全に厄介事だ!おい、本当に何も覚えていないのか!」


額に手を当て困ったように睨む小鬼に悪びれることなく男は笑う。


「全くだ、名前すらもわからない。それに『マナ』だとか、『小鬼』とか『男』であることを驚かれたり・・・本当に全くもって、よくわからん事が多すぎるな。申し訳ないがが色々と説明してもらえると助かるんだが・・・」


「はぁ~、ホントあったま痛くなる・・・でも男をほっとくわけにもいかないし。クソッ、まず何から話せばいいんだか」


小鬼は額にしわを寄せつつ木に背を預けると語った。


まずこの場所はリゾトリアとよばれる地の東の辺境に位置する廃集落であり、わざわざ来たのはかつてここに住んでいた人物の友人からの依頼を受けて、遺髪を生まれ故郷の共同墓地に埋めるために来たとのことであった。また、それだけでは無く、『探索者協会』から依頼のあった環境調査依頼も行っていた。


話に出た『探索者協会』について男が尋ねると、小鬼は皮肉気に口をゆがませ「よく言って斡旋所、悪く言えば様々な種族からなる無頼の吹き溜まり」と話す。そこは金銭や『マナ』を対価に様々な仕事を請け負う大規模な組織とのことであった。


『マナ』とは何かと問うと、小鬼はそれすらも忘れているのかと頭を抱える。


『マナ』はあらゆる生物が存在するのに必要なものであり、世界中を流れる生命が生み出す奔流。『マナ』が無ければ生命は育たず、生きているものはその姿を保てなくなる。しかし、年々減少しており、常にあるべきものにもかかわらず価値が生まれてしまっている。


なぜ減っているのか?その疑問に小鬼はじっと、何故か男を見つめて話す。


細かいことは知らないけれども一般的にそれは原魔力とも呼ばれる『オド』の濃度が増加していることが原因と言われている。『オド』は『マナ』の原料ともいえる存在であり、世界中にあり、この世界には『オド』を『マナ』に変換している生物がいる。生成された『マナ』は生物とその周辺に溢れ、拡散し、流れに乗って世界を巡る。故に一定量の『オド』は必要ではあるのだが、一方で濃すぎる『オド』はそれに感受性がある生物に異常をきたしてその誕生と生育を妨げる。『マナ』を産生できる存在が減ることでこの世界の生物は数を減らしており、生きているものはそれを求めて争い、故に価値が生じてしまっている。


そして、『オド』から『マナ』を作り出すのは雄の役割である。そう言った小鬼の指が男を刺した。


小鬼の語る話は荒唐無稽であり、何故か自身の常識と比べ違和感を強く感じるものであったが、よくよく考えてみれば何も覚えていない自身の頭がおかしいのだろうと思い直し、全面的に受け入れることとした―――話の最中にも解けた布を体に巻きなおしており、ようやく裸体と言える状態から脱していた。


「うーむ、では私も『マナ』というものを作っているのかな?」


「うん、というか今も出ていてすごく勿体ない。というか、なんでわかってないのかな?だから『ファング』にも襲われていたんだよ。生き物を殺せばすぐにその『マナ』を奪えるからね・・・きっとキミがご馳走に見えたんだよ。」


男は先ほどの獣の姿を思い浮かべるが、確かにあの獣たちはかなり痩せていたように見えた。


「でも運がよかったね、かなり弱っていたとはいえ男がよく2匹も魔獣を倒せたもんだ」


小鬼の言うファングや魔獣とは先ほど群れで襲ってきたあの痩せこけた犬にも似た獣の事だろうと男は考え、そして同時に目の前の小鬼へ真っ先に言わなければならなかったことを思い出す。


「ははっ、まあ覚えてはいないが、きっと日頃の行いがよかったんだろう。・・・おっと、それよりも」


姿勢を正すと小鬼に向き直り、男は深く頭を下げた。


「先ほどは助けてくれて感謝する。まずはすぐに礼を言うべきだった・・・あー、リンガ、嬢でいいのかな?いや、ガというのがファミリーネームであればどう呼ばせてもらえればいいのか教えてくれれば助かる。」


男の目の前の可憐な小鬼は短い髪も相まって少年にも少女にも見え、おそらく後者だろうと思いつつも・・・重ねて礼を失すると思うものの念のため性別を尋ねる。そして同時にフルネームで名前呼ぶことが相手にとって不快感や違和感を与える可能性に思い当たり確認することとした。


「ま、こんなナリをしているけど嬢で合ってるよ。こっちも紛らわしい格好しているのはわかってるから気にしないでよ。あと名前はリンガと呼んでくれていい。小鬼族だとその辺り気にしないから。ああ、でも『さん』とか『嬢』とかは何かムズムズするからやめてよ」


小鬼は特に気を損ねた様子は無く、気が軽くなった。


「承知した。リンガ、改めてありがとう。重ね重ね無知で悪いが、まだ教えてほしいことが山とある・・・とりあえず、その口ぶりだと他にもいろんな種族がいるのかな?」


「うん、どういたしまして。記憶が無いって本当に厄介だね。そりゃあもう、たくさんの種族がいるけど、小鬼族や三目族、マギアンとかは数が多いかな?あまり『マナ』が濃くなくても生きていけるから。」


小鬼の言葉に不思議と『人間』という単語が強く男の脳裏に浮かんだが、それが種族の名前とは何処か確信が持てなかった。故に目の前の小鬼に問う。


「・・・では私は何の種族だろうか、何故か手から旗を生やしたり、しまったりできるのだが。」


「え、何それ怖い」


「やっぱりこれは、流石におかしいのか。」


「うん。」


目の前で大きな旗が男の手に沈んだり伸びたりする光景を見て、小鬼は思わず声を漏らしたが、うーん、と悩みながら答えた。


「一般的に男は角とかジュエルとかがないし特性も比較的女より出にくいから種族が分かりにくいんだよ。多分、キミは背が大きいから大鬼族とか猩猩族とかだと思うけど正直よくわからない。特性はいろんな種族で違うけど・・・ただ、旗を手から出せる種族なんて聞いたことないかな?」


「なるほど。ところで男には角が無いとは?」


「ん?ああ。女には種族によって違うけど角とか宝石みたいなものとか何かが顔とか頭のどこかにあって、そこにマナを貯め込んでおけるし、マナを『オーラ』に変換することができるんだ。」


「『オーラ』?」


「うん、マナもたくさんあればそれだけで体はある程度強化されるけど、マナから変換された『オーラ』はそれよりも遥かに強い力になる。魔獣の頭にある魔石も同じだったはずだね、あれは目とかも兼ねてるらしいけど」


その話が正しければ男性では『マナ』は潤沢にあり多少は強化されても『オーラ』は全く使えず、かなり力で劣ることになると男は考える。先の魔獣との遭遇でリンガによってその群れが殲滅されたことは確かに見ていたものの、小さな鬼の少女の、すらりとした棒のような細い手足が体格が大きく違う自身の力より勝ることに違和感を感じていた。

そして、リンガもまたそのような視線と心情を読み解いたかのように、笑って提案した。


「納得していないって感じだね・・・ま、体の大きさも違うし記憶が無いのなら仕方ないか。じゃあ、試しに腕相撲でもやってみようか?」


「よし、では遠慮なく。」


二人が周囲を見回すとまだ原型を留めている木箱が近くにあったため、その上に互いに肘をつき、手を握り合った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ