2-27 帰宅
一階の受付でリンガの助けを借りつつエンドとシッコは書類に必要事項を記入していく。
エンドの書く文字は古い書式が多いものの修正はまだ容易であったが、シッコは文字という存在は知っていたものの使う機会も無かったため一から教えながら記入が行われ、それなりの時間がかかった。しかし一度書いた文字は忘れる事なく再度書くことができ周囲を驚かせた。
「お疲れ様です。それではこちらが探索者の証となるバッジです。名前や種族、簡単な特徴を裏に彫らせて頂いているので誰かに貸すことは出来ません。探索者の組合はいろんな場所にありますが、その際に見せて頂くとスムーズでしょう。」
エンドとシッコはイースからバッジを受け取ると裏面を見る。エンドのバッジには名前とフラグマンという種族名、そして身長や体格について書かれていた。しかし性別については書かれていないことについてイースに問う。
「昔は性別について書かれていた事も有りましたが、今では登録者はほぼ全てが女性ですので削られたのでしょう。また、恥ずかしながら小さな支所では男性という事がわかるとよからぬ事を考えるものがいないとも言い切れません。各地の探索者組合もなるべく定期的に集まり交流を図っておりますが、強い上下関係といったものは無いのです。一応この国のトップは首都にある本組合になるのですが、実際にはそれぞれの支所での独自色が強いですね。」
「なるほど、あくまでも民間組織ということか。」
「その通りです。かつてはもっと組織立っていたらしいのですが、世界的に人口の規模も住める場所も減少しておりますので・・・」
受付の時計を見ると、かなり夜も更けてきていた。組合は基本的に年中無休であり、イースやタツキは明日も仕事があるらしい。勿論交代で週に1日は休みをとっているらしいが、残念ながら明日はその日では無いようであった。
「夜分遅くに失礼した。色々と便宜を図ってもらい感謝する。」
エンドが頭を下げると、リンガがそれに倣い、シッコも時間差でそれを真似る。
「いえいえ、マスターの面白い姿も見れましたのでお気になさらず。それにマスターもあの様子でも今日はとても楽しんでいましたよ。明日は幾つか良さそうな依頼をご提示できると思います。ああ、でも騒ぎになりますので最初にこちらに入って来られた時のような姿でお越しください。あと、ここで脱がれますと血気に逸った探索者達に襲われかねませんので、本当にやめて下さいね。脱ぐならマスターの部屋だけにしておいて下さい。」
「うむ、承知した。世話になる組合に迷惑をかける事は私も本意では無い。時と場所には気を付けよう。」
「いやマスターの部屋でもダメだからね!?」
リンガがツッコミを入れる。そんな雑談めいた話をしつつも帰り支度を整える。シッコがエンドの体に張り付き、外套を着込み襟巻きで顔を隠した。
リンガを先頭に建屋を出ると、空は暗いものの、街灯に照らされなお活気ある領都を、話しながら進む。
「とりあえず、何とかなってよかったよ。」
「うむ、マスターも受付のレディ・イースも中々面白いヒト達であったな。」
「うん、良い人達だよ。少し変わっているけどね、だからエンドも登録させて貰えたんだと思う。」
「ふむ、とはいえ、おそらく相棒が私達の面倒を見る事を前提とした登録だろう。君が居なかったら登録出来るかは怪しかっただろう・・・今後も迷惑を掛けるが、よろしく頼む。」
「今更だよ、アイボー。あっ、あれ美味しそうだし明日の朝食に買って行こうか!」
リンガは笑顔でエンドの手を握ると、露店が集まる一角へと歩き始めた。
エンドにとっても夜市はとても興味深いものであり、三人は帰り道を大いに楽しむと、漸く帰宅の途につく。エンドが家の前で気配を感じると、コニイはまだ工房で作業をしているようであった。
ドアを開けるとコニイもその音に気が付き出迎えに来る。
「ああ、おかえり。心配していたが、その表情からすると上手くいったようだね。」
「うん、まぁね。でもコニイ、まだ起きてたんだ。寝ている時にバタバタして起こしちゃう事が無いのは良かったけど。」
「ははっ、助手君のおかげでマナを潤沢に使えるようになったからね!ついつい熱が入ってしまった。勿論君達の事も気にかかっていたがね。」
「うむ、ドクにも心配かけたな。夜も遅いが簡単に顛末を伝えよう。」
静かに説明を聞いていたコニイは頷き、口を開く。
「組合長のタツキ氏もイース氏も面識があるけど、助手君の事を気に入ったんだろうね。ただし助手君、外に出れば、いやこの領都内でさえ危険はある。そして助手君のマナを濫用するやり方では大いに目立ってしまうだろう。タツキ氏の言うように身を守る手段を増やす必要があるね。」
コニイの真剣な様子にエンドも頷いて返し、そして改めてその知恵を借りたいと頼む。
「私もある程度は考えているし、準備も実はしているよ。恩を着せる気は全く無いけれどもこの時間まで起きている理由の一つでもある。でも、そろそろ互いに休むべきだよ。少し助手君からお酒の匂いもするしね。」
私も嗜む程度には飲むけれどもね、とコニイは付け足した。
「そうか。私は酒が飲める事が今日わかったし、また酌をさせて貰おう、どうやら今のご時世では男の酌は珍しいらしいしな。」
「ああ!確かにそうだね。私も楽しみにしておこう。」
交代でシャワーを浴びて身を清め、寝床を整えて身を横たえる。エンドは暗闇の中、今日の事を思い返す。かなりの酒を飲み、多少ではあるが上気した自分に安心していた・・・酔えない酒ではあまりに寂しすぎると。しかし、既に酔いも覚めかけている自身の肉体についても気が付いていた。
どうにも丈夫な身体だが、時には難があるなと贅沢な事を考えつつも目を閉じる。それでも、いつもよりは少しだけ深く眠れた気がした。




