2-23 度胸試し
リンガはタツキの雰囲気に押されるようにゴクリと息を呑むが、姿勢を正してこれまでの経緯を話し始める。その様子をエンドとシッコは黙って見守っていた。
一通り話し合えると、タツキは頭をバリバリと掻きながら口を開く。
「冗談みたいな話だよなオイ。だが目の前に男とスライムが居るんじゃ本当なんだろうよ。しかしエンドって言ったか、テメェも難儀なもんだなぁ。記憶が無くて種族まで分からんとはよ。スライムは・・・いや、ジェリーって種族だったな、ならただの移民、俺はそれしか知らん。問題はねぇな。それで、だ。」
酒を手酌しグラスを煽るとテーブルに身をぐいと乗り出し、エンドの顔に酒臭い息を吐きかける。
「リンガの馬鹿が昼に変な事を尋ねてきたけどよ、まさかテメェ、探索者になりたいとな言い出すんじゃねぇよな、ああん!?」
「ああ、そうだ。探索者になりたい。すでに男性の登録もあると聞いたが?」
臆する事無く答えるエンドに、タツキは詰め寄る。
「馬鹿か!ありゃ規模が違うんだよ!小鬼の一族のデカい集団でその補助で入ってるだけだ。だがテメェは違うだろ?ひ弱な男なんて簡単にブチ殺されるぞオイ!」
「ふっ、何百の他人よりも、私は相棒のリンガに全幅の信頼を置いている。」
エンドの応えない態度に苛ついたようにタツキはテーブルを両手で叩き、歪んだ笑みを浮かべて鋭い牙を覗かせる。
「・・・ビビらねえ程度の度胸はある様だなオイ、じゃあコイツはどうかよ!」
タツキがさらに大きく身を乗り出すと、口を軽く開き、食べるようにエンドの唇に重ねる。
リンガの目が見開かれ、シッコが面白そうに触手を揺らす。
勝ち誇ったような表情のタツキであったが、急にその顔を背けて乱暴に椅子に音を立てて倒れる。
「こ、こいつ、舌入れやがった!!」
「ふむ、情熱的なキスは嫌いでは無い・・・しかし案外初心な所があるのだな、マスター?」
顔を赤らめ動揺するタツキに、エンドは自身の唇を舐め上げて言う。
「あーっ!あーっ!!」
リンガが涙目で言葉にならない声を上げるとエンドを遮るように机の上に膝立ちで身を乗り上げ、タツキの肩を掴むとガタガタと強く揺らした。
「お、オイ、落ち着け!悪かったよテメェの男の口を奪って!」
リンガの動きがピタリと止まる。
「・・・まだ、まだだもん。そういうの、まだ早いし」
「はぁ!?嘘だろオイ!テメェ手が早い事で有名な小鬼だろ!?ヤってねえのかよ!?ピュアかよ!?・・・オイ!何が楽しいんだよコラ!」
やり取りを楽しそうに見つめるエンドにタツキが罵声を浴びせる。
「いやはや、私の相棒は可愛らしいなと思っただけさ。」
エンドは立ち上がると机の上のリンガを持ち上げ、再び座ると膝の上に乗せた。
リンガは僅かに身を捩ったが、大人しくなるとタツキを睨み付ける。タツキはため息をつくと、両手をあげると掌をひらひらと振る。
「あー糞、ハイハイ俺の負けだ。大体の奴は女でもこんだけ凄めばビビるもんなんだがよぉ、テメェの度胸は認めてやる・・・ったく、恐怖心ってもんがねぇのか?」
「・・・いや、あるさ。記憶には無いが、ただ私はもっと恐ろしく、悍ましいものを知っている気がするのだ。」
「なんじゃそりゃ?どんな体験したんだか知らんがよ、とりあえず舌入れるとか、やめとけ。マジでそのまま押し倒されかねんぞ、上街の奴以外は大体男日照りだからな。お前の相棒がおかしいんだよ。」
「ふむ、私としては美しい女性に迫られるのは悪くないのだがね?勿論マスター、貴方も魅力的だ。む!?相棒、抓られると痛いのだが。」
「・・・おいリンガ、そいつ、よく見張っとけ。劇薬になりかねん。」
恥ずかしそうに顔を手で覆いエンドから視線をずらしたタツキは、視界の隅でボトルやグラスを倒れないように触手で確保しているシッコを捉えた。
シッコもその視線に気がつくと、笑顔でそれらを机の上に戻す。中身の溢れていないグラスを見て、タツキはシッコを油断ならない存在と感じた。




