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2-21 組合

 ユラがカップを傾けて喉を潤し、神話の感想について尋ねる。リンガは既に知っている話なのか退屈そうであったが、エンドは顎に手を当てて思案している様子であった。


「ありがとう、シスター。実に興味深い話であった。あの壁に架けられた絵は神話の一幕かな。」


 エンドの視線の先にある絵には、鋭い眼光を持ち大きな槍と盾を持つ筋骨隆々の男と怪しげに笑う緑色の髪を持つ妖精。それと対峙するように褐色の肌をもつ耳が長い女性に率いられた多種多様なヒトビトが描かれていた。


「ええ、その通りです。私達は団結を旨とし、神徒の教えを守り困難に立ち向かうのです。」


「困難、か。黒教としてはセカイのオドの増加に伴うマナの減少についてはどう考えているのかね?」


「今は辛抱の時です。この困難に皆で耐え抜いた時、神徒の救いがあるでしょう。」


 澱みなく答えるユラの様子にエンドは沈黙で返した。


「貴方も黒き教えに興味を持っていただければ幸いですわ。それでいかがでしょうか、祈りを捧げて行きませんか?」


 エンドは少し考えたものの、静かに首を振る。


「いや、未来の事は分からないが今は辞めておこう。ただ、作法だけは教えて貰いたい。その作法を求める者も、それで救える者もいるだろう。」


「ん?アイボー、どういう意味?」


「・・・意に反してアンデッドとして彷徨う者も、自身の信じる神の作法で祈られた方が安らかに消えていけるだろう。」


 ああ、とリンガはどこか納得と感心が混ざったような声を漏らす。ユラはエンドに祈りを断られた時は少し困ったような表情をしていたが、やり取りを聞くと穏やかな顔に戻り、基礎的な祈りの作法について教えた。


「教授に感謝する、シスター。それではお暇させてもらおう。」

「じゃあね、たまにはガキに菓子でも食わせてやんなよ。」


 別れを告げて背を向ける2人にユラも言葉を返す。


「いえ、これも私の役割ですので。それではまたお会いしましょう、リンガさん。それと・・・名も知らないお方とミスター。」


リンガは慌てて振り向くが、ユラはクスクスと笑っていた。エンドも背を向けたまま、軽く右手を掲げリンガの手を取って歩みを止める事は無かった。


「バレてたネー、ご主人。」


「ふむ、そのようだな。」


「ったく、耳長族は油断できないね、何かしようとする様子は今のところ無かったけど・・・ところで、アイボーってなんか機嫌悪い?」


 リンガが少し前に飛び出すと、下から覗き込むようにエンドの顔を見上げる。


「いや、そんな事はない筈だが・・・そうだな。どうにもあの神話などがしっかりとこないのは確かだな。」


リンガも首を縦に振って同意する。


「そーだよなーアイボー、やっぱり胡散臭いよな!」


「むぅ、そこまでは言わないが、私にも理由は分からないな。このセカイには他に宗教と言えるものは無いのだろうが・・・シッコは黒教をどう考える?」


 珍しくも歯切れの悪いエンドの問いにシッコは悩む事なく答える。


「どーでもいーかナー、別に助けてくれる訳でもないしネ。それなら助けてくれて今もマナをくれるご主人の方がいいヤ」


 素直な言葉にエンドとリンガの表情も和らぐ。気を取り直し、街中を歩き回り様々な店を冷やかしていく。リンガはエンドに様々な施設や物の相場などを教え、興味深そうにエンドは何度も頷く。

 時間は早く過ぎ行き、日もその輝きを失ってきていた。


「そろそろ行こうか、開いている時間ギリギリになるけど他にヒトはいない筈だ。」


「仕事の終わり際に面倒な話を持ち込むのも心苦しいな。」


「そりゃあね。だから土産ももっていくのさ。こういうのは結構いい値がするよね、まったく。」


 リンガは手提げ袋を軽く掲げる。


「はっはっは、ここに歩く造幣局が居るではないか・・・多少なら良いが濫用は経済を傾きかねんな。」


「ご主人ならきっとやれるヨ!」


「やっちゃダメだろ!ま、そこを分かっている奴はそんな事やらかさないから大丈夫だよ。」


組合の事務所に着いた時には空は既に暗くなっていた。その建屋は古びた大きな看板の掲げられた無骨なものであった。


 リンガを先頭にドアを潜ると括り付けられていたベルが鳴り受付のマギアンが資料をまとめる手を止めて顔を向ける。

 リンガが右手を軽く上げて挨拶しつつ受付まで進むと、受付のマギアンはアイリスと比べると表情豊かに笑みを浮かべた。。


「あら、今晩はリンガ様。何か御用でしょうか?」


「終業時間ギリギリに悪いね、ちょっとマスターに相談したい事があるんだけどいいかな?」


「そうですね・・・伺って参ります、少々お待ちください。」


 リンガたちの様子を少し観察した後に受付のマギアンはほかに客がいないことを確認するとカウンターから離れて階段を上っていく。

 少しの時間の後、階段を乱暴に降りる音が聞こえ、大柄な角を2本はやした女性が姿を現す。


「ったく、おいリンガ~こんな時間に何だよ。時計見えねえのか?」


「マスター悪いね、時間は分かっているさ。だから、はいコレ」


 リンガが手提げ袋を手渡すと、中を見た女性が笑みを浮かべる。


「はっ、酒か!分かってんじゃねえか。そうだな、あと1分もしないうちに今日の仕事の時間はおしまいだ、その後は時間外になるな・・・いいぜ、二階に来いよ。後ろの奴もな。」


 受付のマギアンはやれやれという表情を浮かべ、カウンターに戻ると凄まじい速さで片づけを始める。

エンド達は階段を上がると組合長室とプレートの掲げられた一室に通されるのであった。











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