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2-20 教会

 教会の中はそこまで広くは無く、施設は古びて質素であるものの、よく清掃が行き届いていた。

ステンドグラスには抽象化された片方の耳が長い女性の胸像が描かれ、幻想的な色彩を地面に映す。

その講堂を通り抜け、小さな部屋へと入る。椅子に座るようにリンガとエンドは勧められて腰掛けた。


「お茶を淹れてきますので少しお待ちくださいな。」


 ユラが座る事なく一度部屋を出ると、エンドはリンガに話しかける。


「シスターはずっと目を閉じていたが、どのような種族なのかな?」


「ああ、耳長族といって目は見えないけど額にあるジュエルが目の代わりにもなっていて周囲の状況は問題無く分かるらしいんだ。あと、黒教の神徒の直系の種族とか呼ばれていて教会に多く所属しているね。この国だとそんなじゃ無いけど、他のとこだと上流階級にいる事が多い種族でもあるよ。種族全体の人数はそこまで多くはないけど、かなりマナを溜め込めて戦闘力を持っている。存在感は強いかな。」


「なるほど。ふむ、私の気配が分かる感覚と近いものだろうか。」


「うーん、そこは流石に分からないかな・・・」


 二人が雑談を続けているとドアが開きティーポットとカップを盤に乗せたラナが入ってきてテーブルに置く。


「お待たせしました。遠慮せずにお飲みください。」


「うむ、では有り難く。」

「ああ、ありがとう。」


 音が鳴らないように静かにエンドがティーカップの中身を啜ると、思っていた茶の香味ではないものの、甘い香りと軽やかな酸味が心地よいものであった。


「美味いな、素晴らしい。」

「うん、美味しいね。」


「ふふ、嬉しいです。この教会の子供達で育てているハーブなのですよ。それでは簡単にこの世界の神話について語らせていただきますね。」


ユラは透き通るような声で神話を謳う。それは聞く者の心に染み渡るーーー



ーーー昔々、この地にはとても大きな力が満ちていた。しかし、そこには力しか存在しなかった。力は何をすることもなくただただそこに在り、永劫の時を重ねるだけであった。


 ある時、そこに秩序を司りし創造神が降り立つ。創造神がその身を震わせると大きな力は集まり、太陽が生まれた。もう一度その身を震わせると大地が姿を現した。創造神がその大地へ降り立つと、そこから泉が湧き、流れる水の側から草木が萌え、風が世界を巡り始めた。こうして楽園は誕生した。


創造神は降り立った地に生えた大きな大きな木の中に住まわれた。水や草木が世界を覆うと、今度は様々な動物を作る。穏やかな動物達はセカイへと広がっていった。


次に創造神は知恵あるものを造った。


最初に造られたヒトは妖精。無邪気で、小さな体で自由に空を舞う彼女達は創造神様の側で生きることを許された。


 二番目に造られたのは巨人。寡黙で、大きな体をもつがその力はこの世界には大きすぎた。心優しき巨人達は世界の果てを目指し静かに去った。


 三番目に造られたのは獣ビト。獣とヒトとの両方の特徴を持つ彼らは元気に世界中に満ちた草木の中へと駆けていった。


 次は二つのヒトが一緒に造られた。1つはドワーフ、小柄であるが力が強く、その力で岩山に穴を掘って住み始めた。もう1つはエルフ、すらりとしていて身のこなしが軽く森の木々を生活の場とした。


最後に作られたのがヒューマン。今まで造られたヒトの特徴をそれぞれ持って生まれ、秀でたところは少ないが劣ったところもまた無かった。彼らは主に平地に住み始めた。


そこは楽園だった。獣がヒトを襲うことは無く、草木はその恵みをたわわに実らせ、空は荒れ狂うことも無い。それぞれのヒトの代表者は創造神の住まわれる大樹の周りに集い、妖精たちから伝えられる創造神の命を守り争い無く毎日を楽しく暮らしていた。


 ある日、古の巨人が危機を伝え息絶える。遥か別の地より魔獣が襲来したのだ。魔獣はヒトビトを襲い、平和しか知らずに生きてきた楽園の住人は抗うこともできずに多くの命が失われた。


 ヒトビトは創造神に救いを求めたがそれが叶うことは無かった。創造神は秩序と平和の神であり、破壊と争いを司るものでは無かったからだ。ヒトビトの嘆きの声は大地を覆い空に響く。ようやくにして、初めて争いを知ったヒトビトも良く戦ったものの魔獣の王に追い詰められ絶滅の危機に瀕していた。エルフは妖精を共とし、魔獣の操る魔術を我が物とし活躍する。しかし、絶え間なく押し寄せる魔獣の群れに遂に限界を迎えようとしていた。


 創造神はセカイの危機を悲しみ、その涙はセカイ中を覆いクリスタルとなって、セカイの時は止まった。


 永らくセカイは凍り付いたままであった。しかし、明けない朝が無いように溶けない氷もまた無かった。辺縁より動物が、植物が、魔獣が、そしてヒトが時の楔からはなたれて目覚め、生き、死んでいった。魔獣の王は未だに眠ったままであったが、その目覚めはヒトビトの終わりを意味していた。


 ある時、その荒廃したセカイに巨人の末裔である混沌の魔王が悪しき妖精の導きにより侵入する。破壊を司る魔王は創造神の涙たるクリスタルさえ容易に砕き、楽園を破壊していく。


 魔獣を殺し、反抗するヒトビトも殺し、ヒューマンの女王を傀儡としてヒトビトを支配した。


 ついに混沌の王は始原の地へと至る。だが、魔王にとっても眠り続ける古の魔獣の王は余りに強大であった。魔王と悪き妖精は一計を案じ、古の魔獣の王と今世の強大な魔獣を引き合わせ、争わせた。混沌の王はその間に廃墟となった地を進み、創造神の元にたどり着いてしまう。


 創造神は魔王に力を奪われ、永き眠りについた。秩序と混乱、全てを併せ持った魔王は楽園を狭きセカイとして唾棄し、破壊した。


 魔王は大いなる力を使役し新しいセカイを創造した。長しえに広がる広大なセカイが造られ、魔王はあらゆる生き物を並べ、新たなセカイへと堕とす。その中には魔獣の姿さえあった。


 そうして、ヒトビトは新しきセカイに降り立った。新しき地で女王はヒトビトを纏めてクニを作った。ヒトビトはクニを大きくし、数を増やし、新たな地を目指すヒトも数多く現れた。そうして様々なクニが生まれた。しかし、それは須く魔王の支配下にあった。反抗するものは粛され、ヒトビトは諦め、恭順して絶望の日々を過ごしていた。


 ある日、遂に魔王を誅さんとするクニが現れた。そのクニはエルフを主とする国であり、果敢に戦ったものの遂には敗れ、そのヒトビトは耳を切られて呪いの印が刻まれた。そして黒きエルフと呼ばれるようになり、どこのクニにも受け入れられることなく放浪し、大いに苦しんだ。


 この黒きエルフを魔王の目から逃れていた創造神の分霊が憐れみ、新しきセカイへと誘う。黒きエルフ達は放浪の末にようやく安息の地、理想郷を得る。

 その地では様々な種族が新たに造られ、黒きエルフが創造神の代行として正しき道へと導く。セカイは大きく発展し、理想郷ヒトビトは幸せを享受していた。黒きエルフは黒き神徒と呼ばれるようになり、広く敬われた。


 しかし、魔王はそれを見逃すことはなかった。黒き神徒は理想郷の力を結集し、これに挑む。長き戦いの果てに魔王を退けたものの、その代償はあまりにも大きかった。黒き神徒は悉く倒れ、最後の一人がその傷を癒すべく創造神の分霊の下で永き眠りにつく事となった。


 その理想郷こそ、この地である。私達は黒き神徒が守ったこの理想郷で創造神と黒き神徒を敬い、再臨される時までこのセカイを守り、教え伝えていかねばならないーーー


ユラは小さく息をつき、神話を語り合えた。








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