2-18 外出
「おーい、帰ったよ・・・っておお!もう動けるようになったの?」
「はい、リンガ様。博士に応急修理をしていただきました。」
沢山の荷物を担いだリンガが帰宅すると、朝までは動けなかった筈のアイリスが立って応対していた。
「はは、驚いたかい?私はマギアンが壊れて廃棄するパーツとかも格安で貰っているのだが、それを利用して応急的に動けるようにしたのだよ。ま、工事用のパーツが多いから足とかは太くて短めだから見た目のバランスは悪いし、腕は変えてないけど何とか弄って動くようにした程度で機能で言えば2割も出てないと思う・・・右目は有り合わせの部品で修理したけれども解像度が違いすぎて逆に負担になったから元に戻してある。元々のパーツの水準が高い分、かなり動きもぎこちないだろうが、ずっと寝たきりというのも良くないからね。」
「当機は現在不正なパーツの接続が複数ありますが、最適化を進め接続をアクティブにして動く事が可能と成りました。博士からも多くの経験を積むように言われておりますので、何なりとお申し付けください。」
「うーん、急に言われてもね。他のヒトからは何か頼まれた?」
「はい。博士やエンド様と部屋の掃除や細かな物の片付けを行わせて頂きました。」
「ああリンガ、アイリス君には暫くは買い物とか家事とかを手伝ってもらうとしようかね。本格的なパーツの修理は時間がかかりそうだ。最終的には完全に元には戻らないだろうけど、ある程度不自由ない所までは直してあげたい・・・しかし君も結構色々と買ってきたのだな。」
リンガは荷物を下ろして袋の口を開ける。エンドとシッコも部屋から来て、リンガにねぎらいの声をかけた。
「よし、色々と買ってきたけど先ずはこれだね。アイボーの服だ!その有り合わせの布切れと毛皮はもうおしまいだ。」
その服は男性専用というわけではないが、大柄な種族向けのシンプルな物で性別を選ばないものであり、これは室内着も兼ねているという説明があった。
また、フード付きの丈夫そうな外套もあり、これは外出用とのことであった。エンドはマナの扱いがかなり習熟して来ており放出の制御も上達している。とはいえ通りすがる程度では気がつかれないだろうが、見るヒトによっては気が付かれる可能性があるという。そこでマナを遮断してくれる素材、リンガのマントと同じもので出来ているとのことであった。
また、それに加えてマスクやバンダナといった実用的かつ顔を隠すのに役立つものもあった。
「あとは旅をするのに必要なロープやコンパス、ナイフとか色々あるから確認して欲しい。」
「うむ、色々と感謝する。服については早速着替えるとしよ「ここで脱がないでよ」・・・勿論だ。」
「なーんカご主人様、残念そうだネ、ワタシは服とかいらないのにサ」
「そりゃスライムだしな」
呆れたようなリンガの突っ込みではあったが、エンドの反応は異なるものであった。
「む?別に着飾るのも悪くないのではないか。シッコは液体になれるが、その表面にはベタつかないようにすることも出来るだろう。ベッドになってもらった時も体は粘つくことは無かったしな。」
シッコはエンドの言葉に表情は変わらないが、どこか驚いた様子で、そして少し上機嫌そうであった。
「あ、そうだ。探索者組合で仕事の報告してきて、その時に男で探索者がいるか試しに聞いてみたら一応いるらしいんだ!詳細は流石に教えてくれなかったけど。」
「なんと!」
エンドはこれまで聞いていた男性の扱いから、そのような存在はいないと思っていたため驚きの声を上げた。
「ふむふむ、この国は性別による職業の制限は無いし、その選択の自由は謳っているね。でもリンガ、その男性はどのような仕事をしているのか聞いたのかい?」
「ああ・・・うん。」
コニイの質問に少しバツの悪い表情で答えを返す。
「概要だけ聞いたけど、組合の中でも大きな集団で囲われている男性らしくて、長期の外での仕事とかマナの少ない場所へ行く時に一緒に行ってマナの補給をしているらしいよ。」
「あー、まぁそうだろうね。軍も遠征時には同じように軍属の男性を連れていくという話は聞いたことがあるよ。」
詰まるところマナ補給の役割を買われているだけであり、探索者としての前線における主な働きとは異なっていることがリンガの浮かない口調の理由であるとエンドは理解したが、それでもその口調は明るかった。
「はっはっは!マナの補充が主な仕事であるのは私も同じだ。それに、前例があるのであれば、私が探索者になることも拒みにくいだろう。それだけでも良い情報だ。」
リンガはエンドが機嫌を損ねていないことに少し安心し提案する。
「そうだね!まず登録できないと話にもならないからね。服も買って来たし、部屋も使えるようになったのなら着替えてこの都の案内をしようか。最後に人が少なくなって来たら探索者組合に行ってみよう。組合長は悪い人じゃない、あとはアイボーの意気込みと特性とかを説明してみようか。」
エンドは部屋で少しごわつく丈夫な服を着、シッコを体に張り付かせてコートを被る。バンダナで顔の周辺を隠して部屋を出る。
「ふむ、こんなものかな?」
「カナ?」
「うーん、少し怪しげだけどこれくらいなら種族的なものって見てくれそうだね。」
リンガからの合格も貰い、コニイとアイリスの見送りの元、東の領都に三人は出かけるのであった。




