2-17 探求者
マギアの灯りが灯され室内を照らすとその雑多な様子がより鮮明となる。
様々な機械の部品、古ぼけた本、家具、服、よくわからない物体。
とりあえずは手前側にあるものから部屋の外に出し、必要なものか不要なものかをコニイの判断で分けることとなった。
この状況でもシッコは活躍し、何本もの触手を生やしてどんどん物を運んで行く。
エンドもそれを手伝いながらも、運び出された物についての様々な説明や蘊蓄をコニイから聞いていた。
「ふむ、中々に興味深いものが多いな。ドクはこれだけの知識を何処で知り得たのかな?教育機関がこの街にもあるのだろうか。」
「主に師からになるね。上街には教育機関はあるし、下街にも教会が保育所と簡単な教育機関を兼ねている。でも、そこまで教育にかける期間は長く無いし、マギアについての専門的な教育機関もこの都には無い。基礎研究といったすぐに何かに繋がらない基礎研究のようなもの、あと芸術とか文学も中々おざなりにされてきているのが現状だね。」
「ふむ、生活に必要な知識や、直ぐに役に立つものが重要視されているのか。」
「ああ、そうなのだよ助手君。当たり前ではあるし、仕方が無い事だとは分かっているが、全く嘆かわしい限りだ。余裕がなければ学問どころでは無いというのは分かるがね。だが、だからこそ我々は学び、研鑽し、この世界の問題の究明にあたるべきだと考えている。少し前まではゲートを通った先にあるアカデミアという場所に大きな学府があり、師もそこで学び研究をしていたと聞いている。そこは急なマナ枯れで現在は放棄されているが・・・」
コニイがポケットから小さなバッジを取り出す。
「私も師の伝手で、そこに在籍していた方々と面識を持っている。彼らは『探求者』と名乗っており、学府が機能しなくなってからも独自のネットワークを持っているんだ。私も師から認められて末席ながらそう名乗らせて貰っている。これがそのバッジさ。」
「ドクの師匠か、別の場所に住んでいるのか?」
「いや、確かめたい事があると言って出掛けたきり帰ってきていない。ああ、いや、生きているさ、何かあると私にここを任せてすぐ何処かに行ってしまってね・・・その志は尊敬はしているが、何とも自由奔放なヒトだよ、全く。とはいえ、探求者のネットワークも徐々に細くなって来てしまっている、助手君も知を志してくれると嬉しいね。」
「興味はある事は間違いない。だが、私はまずは相棒と探索者になろうとしている。」
「探索者、か。本来探索者と探求者は相補的な存在なんだよ。探索者がフィールドワーク、探求者がそれを分析する、それが廃れて探求者は知識人の集まりに、探索者は外の仕事が多い万屋みたいになってしまった。」
エンドはその話を聞くと暫し思案する。
「二兎を追うもの一兎を得ずという。これまた頭に浮かんだ言葉だが、意味はこれだけでで十分わかる。だが、私も知識面においてもドクを助けられるよう努めてみよう。古い言葉も何故か分かるようだし何かしら手助けもできるだろう。」
「・・・ありがとう、助手君。知識は失われつつある、しかしそれを守り、発展させ、何かしら廃れゆく世界を動かしてみたいものだ。いや、すこし気取りすぎたかな?はは、いい話を聞けた。しかしとりあえずは片付けを終わらせるとしようか。」
シッコによりどんどん運び出される荷物が山となっている。それに負けじと整理を進め、思っていたよりも短時間で何とか人の住める部屋が出来上がるのであった。




