2-12 バッテリー
「私の仕事はこういったマギアを作ったり、修理したりするのが主だ。マナの減少に伴って売り上げは上がらないのが悩みだけどね。」
部屋の中を軽く回りながらコニイの説明が続く。
「そしてこれが私が今研究しているマナポッド、マナを貯蓄して置けるマギアさ。マナを貯めておけば、非常時にそこから補充できるし、自身が貯めているマナを用いずに使用する事ができる!」
コニイはやや興奮した口調で語るが、リンガは少し冷ややかであった。
「それ、確かに貯めて置けるけど少しづつマナが抜けてくから使い所に困ってるやつだよね?それにマナを他所に貯めておける余裕のあるヒトも少ないし。それ作るのにかなり金とマナを使い込んでアンデッドになりかけたところをボクがマナを分けてあげて何とか助かったんじゃないか・・・」
「うぐっ、だっていい感じに作れていたからさぁ。それにマナ枯れ地域の救援、軍の非常時のマナ補給、それに工事や工業だってヒトより馬力は無くても疲労も無く単純作業をずっと続けられる!夢の発明だよ!」
エンドはコニイの横に並び、マナバッテリーを眺める。高さ50センチ、直径40センチ程のずんぐりとした円柱であり、プラグやコネクターがくっ付いている。
「ドク、これは現在マナがどれほど貯まっているのかな?」
「うぐぐ、空っぽだよ。」
「ふむ、ではマナを注いでみてもいいかな?」
「それは・・・有難いが、旅の疲れもあるだろう?」
コニイの気遣うような視線にエンドは平然と返す。
「大丈夫だ、問題無い。それで何処からどの様な形で流せば良いのかな?」
「そ、そうかね?そこのコネクタの所から流してくれれば良い、回路も細く無いから一度に多めに流しても問題ないと思う。だが容量はかなりある筈だ、無理のない範囲でやってくれたまえ。」
「うむ、レギュラー満タン・・・これは、燃料を入れれるところまで補給する意味らしい。」
ふと口から出た単語について、知識を掘り起こしつつも右手でコネクタに触れて勢いよくマナを注ぎ始める。マナポッドに貯まり始めたマナを感じ、コニイが小さく感動した声を漏らす。
「助手君、マナは大丈夫かい?」
「うむ、全く問題が無い。」
「そうか!ではできるかぎり注いでくれたまえ!」
上機嫌となるコニイであったが、暫くたってもエンドが変わらぬ表情でマナを注ぎ続けていることに徐々に不安を覚える。
「えっと、助手君?かなりマナを流してくれているけど、本当に大丈夫かい?」
「うむ、むしろ血行が良くなったようなそんな爽快感さえある。ところでドク、これはあとどれくらいで満量となるのかな?」
マナを流し続けるエンドの疑問を受け、コニイは「あっ」と声を漏らす。
「いや、試作品だからインジケーターとかつけていないし、それに自動で止まる機能も、あー無いね・・・」
視線の先のマナポッドがバチバチと異音を立て始め、うっすらと光がパーツのつなぎ目から漏れ始める。
「では、過剰に供給し続けるとどうなるのかな?」
「うーん、多分・・・爆発するよォ!!助手君ストップゥゥ!!」
エンドも流石にマナの供給を止め、マナポッドから距離をとる。一方でコニイはマナポッドに駆け寄ると状況を確認する。
「ま、まずい!マナが多すぎる!!このままでは・・・かくなる上は私がマナを受け止め、あばばばばば!!!!」
コニイはマナポッドの出力部と思われる個所に自身の角を宛がい、そして勢いよく流れ込むマナに気勢を上げ痙攣する。
「あばばばこ、これ、が、マナの過負荷現象か!吸収しきれないマナ、がが、角から全身をと、とおって体表面から、発散。じ、実にににににきょうみ深いぃいいい!!ぐへっ・・・」
白目をむきつつも角を離さないコニイであったが、ついに限界を迎えて意識を失ってしまう。崩れ落ちるコニイをエンドが抱き留め、そして一つの影がマナポッドに飛びつく。
「あーマナうまー」
シッコがその軟体の体でマナポッドを包み、イオンと光は収まりようやく沈静化に成功する。同じように駆けつけてきていたリンガが声をかける。
「シッコ、大丈夫か!?」
「まあネー、ちょっとマナは多いけどムラサキのヒトがだいぶ吸い取ってたから大丈夫だヨ」
「そうか、ならいいけど。おいアイボー、ちょっと調子に乗りすぎ!」
「・・・いやリンガ、私が悪かったのだよ。」
エンドの腕の中にいるコニイが目を開ける。
「コニイ、起きたのか。大丈夫か?」
「ははは、マナを吸収しただけだから大したことない、むしろ力が漲るほどさ。助手君は私の指示に従っただけだから責めないでくれ。私も設計が甘かった、よもやこれだけの量のマナを注がれることになるとは思わまかった。いや、想定できなかったことを言い訳にするのは私は嫌いでね、素直に私の乏しき発想力とリスクヘッジの低さを全員に詫びよう。それに、かなりの量のマナをしばらく使うことができることを思えば感謝しかないよ・・・しかし男性の腕に抱かれるというのも中々良いものだね、このご時世でこんな体験もそうそう無い。」
「・・・いや、ドク。リンガの言うとおりだ、私は詫びねばならない。マナがどこまで入るか気になって少しやりすぎた。ただ言われたことをやるだけなら助手にもなれん。申し訳なかった。」
頭を下げるエンドだが、その拍子に腕に抱いたコニイの頬と顔が当たってしまう。
「おや、失敬。」
「ふふ・・・いいお礼をもらえたなぁ、私もそれなりに長く生きてきたが、男性とこのように触れ合う機会があるとはね」
顔を赤くするコニイを見て、リンガが不機嫌そうに声をかける。
「はいはい!目が覚めたらとっとと離れる!まだ案内の途中だろ。」
「ああ、そうだった。いけないね、随分と脱線してしまっていた。」
少し名残惜しそうな顔をしてコニイは立ち上がりエンドから離れると、部屋の奥へ3人を誘うのであった。




