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2-11 時代

「遅い時間だ。部屋は明日掃除して空けるとして工房の空いているところで今日は我慢してもらおう。その前に、簡単に中を案内しようかね。狭いがマギアを利用した風呂もある。今日からは助手のおかげで湯を贅沢に使える機会も増えそうだ。」


自慢げにかたるコニイをリンガが胡乱気な表情で見る。


「下街なら風呂なんてあっても大体薪のやつじゃないか。マナが勿体無いってここじゃいつも水で使ってただろ。」


「・・・そこは言わないでくれ、火を用いずに便利な事は間違いないし、稀に上層から注文が入るマギアの湯沸器は良い臨時収入なのだよ。」


哀愁を漂わせるコニイだが、気を取り直すと案内を続ける。


「トイレはこちらだよ、これもマギアが仕込まれていて洗浄の水もスムーズに流れるようになっているよ。」


「これは正直衛生的で助かる、そんなにマナ使わないし。」


「ああ、中産階級には結構売れてるウチの目玉商品の一つだよ。さて、こちらが研究室兼工房さ・・・と言っても玄関から見えていただろうけど。」


ほう、と声を漏らしてエンドが室内を見渡す。改めて見ても様々な機器や書籍が満たされており興味深いものであった。


「そういえば、我が助手は記憶喪失と聞いたが文字は読めるのかな?嘆かわしくも識字率は年々減少していると聞くが。」


エンドは棚にある書面の背表紙の文字を眺める。


「ある程度ニュアンスは分かるが、読めない字も多いな・・・ふむ、これは読める。」


古ぼけた書物を手に取ると「マナの変質と異性化?」と馴染みの無い単語を読み上げる。


「・・・いやはや、これがリンガも言っていた厄介ごとかね?助手君、それは古い言葉で書かれた本だよ。現在の言葉とも繋がっているから全く異なる言語では無いのだけど、普通はそこまで正しく読めないものだ。」


「ほう、昔からある言葉だとすれば、現在でも国や地域によっては使っているところもあるのでは?」


「その可能性は否定しないけど、このリゾトニアに限れば新しい国だから考えにくいね。そうすると、別の国の出身か、よほど閉鎖的な隠れ里にでもいたのか・・・他にも本があるけど、どういったのが問題無く読めるのかな?」


エンドは幾つかの書物を棚から出し並べる。


「これは何とか全て読める、こちらはスムーズに読めるな。ああ、これは、読みにくい。大まかな意味は分かるが。」


その様子を見ていたコニイは少しの間考えると結論を出す。


「なるほど、君が読みやすいのはより古い言葉らしい、それも一つの時代のものだけではなく比較的最近・・・といっても古いのだが、それらの言語も読むことが出来ているようだね。よほど古い文化が続く場所にいたのかもしれないが、複数の時代に渡る言語を日常的に使用しているとは考え難い。うーん、不思議だね。」


「ふむ・・・全く身に覚えは無いが。このような情報が分かったのは有難いな。」


「おそらく助手君の少し仰々しい口調もそこに起因しているのかもしれないな。」


「なんと!私は普通に話しているつもりであったのだが・・・」


「しかし他のヒト、今の私の言葉も君にとっては自然な言葉とは少し異なるのではないかな?か


「うむ、しかし意味は概ね分かるので方言や訛りが強い程度の認識であったが。」


「ふふ、そのような感覚だったのか。意思の疎通には問題が無いが、助手君の話している言葉は少し古いものと覚えておきたまえ。」


「生きた化石か。」


「ん?何だねそれは?」


「いや、忘れている記憶の断片か、不意な単語やイメージが脳裏に浮かんだり口から漏れたりする。気にしないでくれ。」


「いや、少し気になるし深く考えてみてくれ。記憶が戻るヒントもあるかもしれない。それで、化石というのは何かな?」


コニイの問いに、エンドは目を閉じ、その単語を頭の中で反芻する。


「・・・生物や様々な痕跡が地層に残ったもので、時に永い時間・・・何万単位の年月を重ねて石や鉱石に置換されたもの、か。」


「なるほど・・・ふふ、そういった単語は現在では存在しない。それにそのような現象も聞いたことは無いね。ますます面白い。それに、我々の歴史はそこまで古くから存在するものでは無いと考えられているのだよ。君のその知識は一体何なのだろうね?」


「はっはっは、それが分かれば苦労はしないさ。とはいえ、単語程度で有れば思い出せるものもありそうだ。ドクの助言に感謝する。」


エンドとコニイの話をじっと聞いていたリンガであったが、シッコが退屈そうに身体を伸び縮みさせている様子を見て声を掛ける。


「あー、話が盛り上がるのは良いけどとりあえず案内の続きをまずした方がいいんじゃないか?」


リンガの指先を見た二人もシッコの様子を見て話を一度止める。


「済まないね、リンガの言う通りだ。君たちは外から戻ったばかりだし、まずは一周案内をして風呂にでも入って休んで貰おう。助手君、この話はまた後で頼むよ。」


「うむ。」


コニイは工房の奥へと三人を先導するのであった。











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