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2-8 喧噪

東の領都、人口二万人を一つの街の中に抱えるそこは夜が近いにも関わらず活気と喧噪に満ちていた。通りの傍には大小の店や露店が並び、マギアの明かりも鮮やかであった。


「思っていたよりスムーズに門を通れたな。ある意味アイボーのおかげだよ・・・あのランファも案外むっつりだったんだなぁ。」


「そーだネ、ずっとご主人の事見てたシ」


「ふむ、脱ぐだけで便宜を図ってもらえるなら簡単だが。」


「だからそれダメだって!はぁ・・・いいかいアイボー、ここは門の直ぐ側の大通りだからかなり治安が良い方なんだ。それでも男性の姿なんて見えないだろ?これが脇道や下街に行って男性が服を脱いでいるのを見られたら、直ぐに攫われる、いやその場で襲われてもおかしくないんだ!いや、さっきのもランファじゃ無ければその場で襲われていたかもしれないんだ。分かった?」


「うーむ、私の身体にそんな魅力があるとも思えないが、相棒の言う事だし信じよう。」


「はぁ・・・うん、そうしてよ。とりあえずここは大通り、これは四方の門から真っ直ぐ中心街まで続く道の事だけど、とりあえず少し歩こうか。でも今の見た目は布をかぶっていて怪しさもあるから目立たないようにしよう。」


エンドと布の隙間から覗くシッコの二人は物珍しそうにリンガの直ぐ後ろを歩く。様々な人種がいるもののその比率には大きな差があるようで、小鬼族や三つ目族、獣の耳や毛が生えている者、そして人形のような種族が特に多く見られた。エンドはその事をリンガに問う。


「うん、ビーストと三つ目族と小鬼族はどこに行っても多いね。あの人形みたいな種族は『マギアン』って言って、角や宝玉とかは無くてマナで動いてるんだ。身体がマギアで出来ていて力とかは弱くて脆いけど、疲れ知らずで仕事が丁寧だからだからよく色んなところで働いているよ。」


「ロボット、いや、アンドロイドみたいだな。」


「ン?何それご主人?」


「いや、すまない。咄嗟にそのような言葉が出てきてな。私は記憶が無いから意味を理解できないが、以前はそれなりにいろんな事を知っていたらしい。」


「へー、そーなんダ。意味がわからないなら仕方ないネー」


雑談をしつつある程度進むとリンガは方向を変える。進むにつれて道は少し細くなり舗装は荒れ、活気はあるものの怪しげなテントが多く並ぶようになってきていた。


「ここからは下街だよ。見た目はごちゃごちゃしているけど、案外そこまで治安は悪くない・・・道から外れなければね。ま、みんな嫌な思いはしたくないから自警団とかもいて見た目よりは案外秩序は保たれているんだ・・・迷惑さえかけなきゃ大体お目こぼしされてるけどね。ここより先のスラム地区まで行くとその限りじゃないけど、あっちも別に変にかかわらなきゃ誰彼構わず噛み付いてくるわけでもないよ。男性は危険だと思うけど。」


「なるほど、敵対しなければ基本的には問題無いのか。しかしまぁ・・・若くて綺麗なレディしか見かけないな。なんでだろうか?」


エンドは大通りも今の道でも、目に映るのは若い女性の姿ばかりであった。子供は暗くなってこれば家に帰るものだと考えられるが、壮年や高齢者がまったくいないということに強い違和感を覚えていた。


「え?何を言ってるのか・・・と、そうか。また常識が抜けてるやつかぁ。あのね、寿命は種族で多少差はあるけど、みんな死ぬ一年前くらいからじゃないと老化なんて起きないんだ。そうなったら体も弱るしあまり外も出歩かなくなるから見ないんだよ。なんかアイボーはヒトと動物とかを一緒に考える癖があるよね。」


「なんと!そういうものなのか・・・」


エンドはまたしても自身の中が揺らぐ思いを感じていた。ある意味、効率的な生態をしている事に疑問の余地は無いのだが、それでも釈然としなかった。とはいえ、自身の記憶も無いので飲み込むしか無かった。


「ンー、ワタシはご主人の言うことも少しわかるけどサ。ヒトって他と違うトコ多いしネ」


思わぬシッコの援護にリンガは驚きの声を上げた。


「そう、なのかな?ボクにとってはこれが普通なんだけど。うーん、確かにアイツならもっと考えるのかな・・・」


歩きながら人通りが多いところに差し掛かり、小柄なリンガの姿が見えにくくなる。リンガは左手を伸ばすと、エンドの手を握った。


「その、逸れると大変だから。手を繋ぐよ・・・いいよね?」


「うむ、ありがたい。ところで今は相棒の家に向かっているのかな?」


「そうだよ。家というか、部屋を間借りしているんだ。そこのヤツが色々と頭が良い、少し変なところもあるけど、悪いヤツじゃないよ。」


手を取り合ったまま人ごみを抜け、そして薄汚れた白い建屋の前で足を止めるのであった。




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