第2章 多種族国家 2-1 変装
街や村落同士の行き来が希薄になっているとはいえ、それでも行き交うヒトや荷車は増えていく。
とても大きな背嚢や馬などを用いずに自身で曳いて進む荷物を満載にした荷車の姿はこの世界の女性の強さを表していた。
エンドはその気配を事前に察知し、なるべく避けるもののそれでもすれ違わなければならない時には少し遠くで休んでいるフリをして背を向けたり、シッコは体を扁平にして目立たないようにしてやり過ごした。
遠くからでも徐々に見えてくる壁で囲われた都市。
流石に行き交うヒトも多く、領都から地方へ荷物を運ぶヒトとの接触を避けるため日が暗くなり始めるまで少し道を外れて待機する事とした。
「ちょっとボクは先に確認する事があるから、門の方を見てくるよ。二人とも、くれぐれも!絶対!静かに待っててね!」
「シッコよ、これがフリというものなのかな?」
「ンー、多分そうかナ?」
「フリじゃ無いって!ホントに頼むよ!?」
リンガは心配そうな顔をし何度も振り返りながら門に向かって行った。見送りながらエンドは思う、おそらくリンガはシッコの事をある程度信用するようにはなっているが、まだ警戒している様子がある。それもまた心配するところなのだろう。
それでも二人きりにしたのは、『オーバーロード』という武器を持っているからだと考えられた。
「暇だネー」
「うむ、眠気はあまり無いが昼寝には良さそうな天気だ。」
天気は眩しくない程度に雲が薄くかかり、気温も丁度良い。周囲の気配を探っても怪しい所も無かった。
「ンー、ちょっと待ってネー」
シッコの首から下が解けるように扁平になり、長方形の形となった。
「おお、ベッドになったのか。乗ってもいいのかな?」
「いーヨ、でもマナちょーだいネー、ゆっくりでいいからサ」
了承したエンドはゆっくりと青みがかった透明なマットレスに横たわる。
「・・・素晴らしい。実に丁度いい寝心地だ。もう少しだけ堅めにしてくれるとより良いな。」
「アーイ」
「ほう、これは中々・・・」
「ほしょクー」
シッコをベッド替わりにしていたエンドの体がそのまま音もなくその体内に沈む。
「カッ!」
「ヒャァ」
エンドが少し多く全身からマナを発散させるとシッコの体は一瞬跳ねたあとゆっくりと薄く地面に広がる。
勿論これは唯の冗談であり茶番であることは2人とも分かっていた。しかし、エンドは顎に手を当てしばし考えこむ。そしてシッコにそれを伝えると、面白そうに2人は笑った。
「―――ごめん、待たせたかなって!誰だ!?」
リンガが残してきた二人が隠れている場所まで戻ると、そこにいたのは大柄の体をパッチワークのように様々な布で覆い、顔を隠した女性の姿があった。
リンガは瞬時に大鉈を抜き臨戦態勢に映るが、すぐに違和感を覚えて目の前の存在を睨み、あきれたように声を漏らす。
「はぁ・・・エンド、一体何してるんだよ」
「はっはっは、さすがリンガ、すぐ気が付いたようだな。見てくれ、はは、バインバインだろう?」
「バインバイン~」
そこにいたのはシッコで胸部や臀部のボリュームを大幅に増し、それを在り合わせの布で隠したエンドの姿であった。
「ははっ、エン子とでも呼んでくれたまえ。」
「全く、何を遊んでいるんだか・・・特にエンドはスライムを体に纏わせるとか、危機感が無さすぎるよ。」
苦言を言うリンガであったが、エンドは笑いながらも考えを話す。
「いや、しかし実際のところ、もう少しうまく隠せば私が男性とは気づかれないのではないか?そもそも旅をしている男性がかなり少ないという話だ。多少の違和感は合ってもその答えにたどり着かないのではないか。」
リンガは少し考え、それもまた正しい考えだとと認める。そして、背嚢から大きな茶色の布を出すとエンドに渡した。
「ちょっと調べ事のついでに、入門待ちの商人から布を2枚買ってきたんだ。確かにエンドの言うように男なんてそうそういないからローブのようにして体を隠せばいいと思ったけど、今の状態の方がもっと上手くカモフラージュできそうだね。二人も不審者を連れていくよりも一人の方が目立たないだろうし。」
「ふむ、確かにしっかりと布で覆えばシルエットでは気づかれることも無さそうだ。先ほどは隙間から青いシッコの体が見えてしまっていたからな。」
「バインバインだヨ~」
「・・・そのバインバインってのは止めようか、なんか気に入らないからさ。」
リンガは自身の絶壁たる胸元を見た。そして目の前のシルエットだけは豊満な女性の形と比べる。能天気そうな2人に向け、努めて隠しつつも不機嫌そうに言い放つのであった。




