1-21 街道の終わり
ゴーストの動きは早くはない。その動きを把握して3人はあえて四方からやってくるゴーストが集合するような場所へと陣取る。
待つこと暫く、黒い靄が姿を現し、その包囲の輪は旗を掲げるエンドに向けて徐々に狭くなっていった。
エンドは目を閉じ、滾々とマナを旗に送り込み、時を待っていた。リンガとシッコは臨戦態勢でエンドを近くで見守るが、ゴーストはそちらには目もくれず、真っ直ぐと旗を目指し、ついに溶け合って一つの大きな黒い輪のようになる。
「カッ!!!」
エンドは旗を強く握ると、360度回転しながら大きく振りぬいた。
暗い金色の光の残差が消えると、黒い靄は最初から何もなかったかのように、光る残渣をわずかな間残すとあっさりと消え失せていた。エンドは左手で片合掌し、有るかわからぬ冥福を祈るのであった。
「すまない、二人とも。私の我がままに付き合ってくれて・・・む?大丈夫かね?」
近くで見守っていた二人に声をかけたエンドであったが、そこにいたのは角を抑えて息を荒げるリンガと人の形を半分溶かしたシッコであった。
「う、うん。でも結構こっちまでマナが来て・・・ちょっと多すぎたんじゃないかな?」
「・・・ハッ!ビクってなったヨ!さっきよりはいいけどサ!あ、でもマナうまいからありがとネ」
「うむ、無事でよかった。次からは調整を頑張ってみよう。近くにいたゴーストはすべて消えたようだ。」
「うん。ちゃんと終わらせてあげられてよかったと思うよ・・・じゃあ、そろそろ行こうか。もうそろそろこの街道もおしまいだよ。」
リンガが指さす彼方に、木々の生える山が小さく見えた。
エンドは振り返る。生命が姿を消す平原で終わりを告げるよう淡く茂る幽霊草、故に美しく見えるのだろうかと思い、そして首を小さく振って前を向くのであった。
進むにつれ徐々に植生は豊かになり、リンガの表情も明るい。やはりマナが少ない場所では緊張感が続いていたようだ。
一方で、魔獣も頻繁に姿を見せるようになり、痩せたファングの群れに何度か襲撃される。人通りの多い場所では探索者や軍隊によりヒトを襲う魔獣は駆除され、ある程度の安全性はあるというが、廃れた大動脈を見捨てた集落が多いため3人の進んでいる道にはそれは当てはまらない。
それでもリンガは容赦なく大鉈で撃退し、その様子を見た残りのファングは逃げていく。
スライムであるシッコもマナを豊富に持っているためかファングの標的となったが、腕や髪の部分を触手のように伸ばし、打ち据え、首を絞め、体を液体状にして窒息させ、動かなくなった獲物を体に取り込むのであった。
「ふむ、魔獣同士でも争いがあるのだな。」
「ン~?そりゃあそうでショ?同じ仲間なら違うかもしれないけどサ、全然違うじゃないカ、ワタシに毛とか骨とか無いしネ」
「そういうものか。」
ファングを消化している様子をリアルタイムで見せる半透明な体を眺めつつエンドは言葉を漏らした。
「二人とも、そろそろヒトが住んでいる集落が見えてくるけど。」
リンガの言葉にエンドとシッコは喜びの声を上げる。
「おお!素晴らしい。ようやく他のヒトと会えるのか!興味深いな。」
「ワーイ!ワタシたちも街とかにいたかラ懐かしいナ!」
「でも!寄らずに!領都を目指します!」
リンガは強い口調でそれを遮った。不満の声が二人から上がるものの、額を抑えつつ言い聞かせるようにゆっくり話す。
「はぁ〜あのね、まずはエンド。男性が旅をすることは殆ど無いし、そんな男性が小さな村に来たら大騒ぎだし、運が悪いと村ぐるみでそのまま閉じ込められるかもしれないんだよ?あまり小さなところだと軍も目が行き届いてないし。」
「むう。」
まずはエンドの目を見つめて説明した。そしてシッコの頭を人差し指でつつく。
「次にシッコ、人型のスライムなんて来たら、閉鎖的な村だったら大騒ぎになってもおかしくないよ。大きな街でいろんな種族がいるところだったらまだマシだとおもうけど。」
「エ~」
「という訳で、食べ物とかもまだ余裕があるので急いで、あとなるべく目立たないように領都を目指します!正直、ボクだけだとどうすればいいか分からないから頭がいい奴と相談したいんだ。」
エンドは多少の不満はもちろんあったが、リンガがシッコを含めて見捨てる気が無いゆえの提案だと分かったため、その意に従うこととした。シッコの方も多少の不満はありそうであったが、良質なマナを補給するエンドと離れる気が無い様子であった。
「エンド、領都が近づけば旅人とかも増える。なるべく合わないようにしたいから、頼りにしているよ。」
「うむ・・・リンガ、ありがとう。苦労を掛ける」
少し顔を赤らめたリンガは、フイと聞かなかったふりをして足を進めるのであった。




