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1-19 旗の不思議

知識と実体験がまるで追いついていないシッコと、知識と実情が乖離しているエンドからの様々な質問を面倒そうな顔をしながらも律儀に対応するリンガ。新しい同行者を加えて進む旅路は、当たり前だが騒がしいものとなっていた。


シッコも個別のスライムであった際に様々なヒトを見たことがある記憶があるものの、エンドの手から旗が生えるという特性を聞きそんなヒトは見たことが無いと興味津々で実演をせがんだ。


「うむ、では・・・さてこの右手をご覧あれ、握って掴むは空ばかり」


「うンうン!」


「むむむむむ・・・はっ!右手から生まれしは金色の旗、拍手!」


「ワーおもしろー」


ぱちぱちというよりもペチャペチャという音で拍手する音が響く。


「ありがとう、残念ながらアンコールに応えるネタはない事を許してくれ。」


「いーヨッ!あ、もっと旗を近くで見せテ?」


エンドが了承するとシッコは旗を伸ばしたり、柄を掴んだりしていたがややあって言った。


「不思議だネー、マナがあまり無さそうだけどすごく軽いのに丈夫そうだネ」


エンドはその言葉にこれまで旗に向けてマナを流したことがなかったことに気がついた。リンガの持つ鉈はマナを流すことで重さと強度を増すのであれば、この旗にも何か変化があるのかも知れないと考える。


リンガに念の為話を通し、マナを右手に持つ旗に注ぎ込む。


「むっ」


リンガやマギアにマナを流すよりも何の抵抗もなく旗はマナを吸い続ける。しかし重さなどが変わることも無く、そして幾ら注いでも底が見えず何か変化があるまで続けようとした。


「エンド!一回止めて!」


リンガの制止にマナを注ぐことに夢中であったエンドは動きを止める。


「何かあったのかな?」


「その旗、怖いくらいにマナが篭り過ぎてる。それに、何で言うか光っていないのに光っている、みたいな・・・」


「光っているみたイ、でも明るくないし、暗くもなイ?」


エンドは戸惑う2人の反応と何とも言えない表現を聞き旗に目を向けるが、確かにマナが押し込められていることは分かるものの他に変化は見られず、別の意味で困惑した。


「すまない、私には分からないのだが・・・」


「え?こんなに目立つのに?エンドは自分がやっているからわからないのかな」


「うーむ、存在感があるということかな?」


「ああ!うん、その表現が正しいと思う。普段見ないようなマナの量だからすごく気になるし・・・光って見えるのも感覚がおかしくなってるのかな?」


エンドとしては実感もないためそういうものかなと思うしか無かった。元より強度は十分にありそうな旗であり、もしかするとマナで強度なども向上しているかも知れないもののそれを知る術はなかった。


「ネェ、それでこのマナどーするのサ?」


旗を興味深く見ていたシッコの言葉にエンドはとりあえずマナを旗から戻そうとしてみるが、上手く行かない。また、旗を収納しようとしたが、何か引っかかる感じがして上手くいかない。


「このまましまうことは出来ないようだ、さてどうしたものか。」


「んー、じゃア勿体ないから触ってマナ貰ってもいいかナ?」


「ああ、かまわない。」


「いや、ちょっと待っ・・」


「ワーイ、じゃあいただきまあアアッ!!?」


リンガの止める声も間に合わず、旗に触れたシッコはビクンビクンとその体を波うたせ跳ね回るとヒトの形も維持できずに水溜まりのようになってしまった。


駆け寄ろうとするエンドをリンガが止める。


「エンド、多分大丈夫だから止まって。キミが近づくとまた同じようになるかも知れない。特にその旗!」


「むむ、リンガ、一体何が起こったのかな?」


「多分、マナを一気に浴びて感覚が滅茶苦茶になったんだと思う。ボクもエンドからマナを貰っているけどあまりに一気に流されても吸収しきれないんだ。それに角とかはマナを吸収するときにちょっと、その敏感な感覚が・・・そ、それよりまだ旗にかなりのマナが残っているからどうにかしないと!」


少しく千早となったリンガの様子を少し訝しげに思ったエンドだが、少し思案すると、旗を力を込めて横に振った。


「わっ!」


リンガが眩しそうに目を細める。旗に込められたマナが一気に周辺に拡散され、それはエンドでも分かる仄かな暗い金色の光が広がった。


「あー驚いたし眩しかった。マナは色んなものの大元になるからね、多分光に変わったものがあったんじゃないかな?」


リンガの言葉を聞きつつも、エンドは返答できなかった。その暗い光に憧憬じみた、涙が出そうな心の揺れを感じていたからであった。










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