1-17 マナ水
スライムの症状は語る―――私たちは色々なヒトが沢山いてご飯を貰えるところで暮らして、お腹がいっぱいになったら分かれて新しい仲間を作ってのんびり毎日過ごしていた。気が向くままに動いて、時には溶けたり潰れる仲間もいたけど特に気にしなかった。
でも、急に嫌な感じがして、動きにくくなって、体が小さくなってきた。私たちは嫌な感じがするところから逃げて、途中で動きにくくなった仲間がいるとくっついて一緒になって、どんどんくっつきながら嫌な感じが少ないところに集まっていった。たくさんくっついて、私達は「私」になった。いままで分からなかったことやどうしようかな?とか考えることができるようになった。でも、嫌な感じが少ないところもどんどん嫌な感じが大きくなって、また逃げることにした。でも、もう駄目だと思ったから、少しでもいい所でペラペラになって嫌な感じが無くなるまで休んでいた。そこにいい感じのするヒトが来て元気になる水をくれた。
「なるほど、スライム君たちが緊急避難的に集まり、融合してその記憶から知識や理性を得たのが君ということか。」
「多分そうだヨ!」
「・・・スライムにそんな習性があったなんて初めて知ったよ。しかもヒトの形になるなんて、ホント驚いた。」
「ン?だってご主人たちはヒトだヨ?木の近くなら木になったほうがいいシ、イノシシの仲間ならイノシシになったほうがいいでショ?」
「ふむ、擬態・・・ベイツ型かペッカム型かは分からないが、女性の姿になったのは数が多くて力も強いから、か。道理だな。」
リンガの話ではスライムは本能を優先して動いているとのことであったが、目の前の存在は融合した結果として多細胞生物に近い形となり、知能と何よりも理性を得て、それぞれのスライムが持っていた記憶も整理され活用できるようになっているとエンドは推測する。
「しかし、元気になる水とは一体?」
「元気、マナ・・・あ」
エンドの疑問を聞き、何かに気が付いたリンガは顔を赤くする。
「む、リンガ?何か気が付いたなら教えてくれ。」
「た、多分、エンドのアレが・・・」
「アレとは何かな?」
「・・・っこ、だよ」
「む?何かな?」
「だ、だから、えっと・・っこだって」
「すまない、もっと大きな声で頼む!」
「だからおしっこ!エンドの!察しなよバカ!!っていうか聞こえてるでしょ!」
「ほう、マナは水に溶けやすいと聞いたが、私の体液も同じということなのかな?」
「知るかバカ!・・・でも、多分そうじゃないかな。男のそんな話しらないけど・・・」
「はっはっは、では私の尿は商品価値があるのかな?」
冗談を言い笑うエンドを顔を赤らめながら睨むリンガであったが、やや考え、周囲を見渡すと複雑そうな顔となる。
「・・・多分、ある。マナが薄いところだとわかっちゃうけど、かなり濃いかも」
「おお、マジか。私が言うのも何だが、大丈夫かこの世界?・・・黄金水がまさかの金になるとは」
「変なこと言うな!上手いこと言ってもないからね!」
「・・・ということらしいがスライム君、どうなのかな?」
興奮しているリンガを後目に、興味深そうにやり取りを見つめている当事者でもあるスライムに向けエンドは問いかける。
「うん!マナが多い水だったしきっとご主人のおしっこだネ!」
「やはり、そうなのか、基本的には無菌のはずだし、まあいいだろうが・・・しかし、なぜ私のことをご主人と呼ぶのかな?」
「エ?だってマナくれるヒトでショ?ワタシタチの記憶だとそうだけど違ってるのカナ?それなラ、ダンナさん?シャチョさん?パパ?やっぱりご主人?」
「おーい、リンガ教諭?ここではこのような呼び方が一般的なのかな?」
「だから教諭も先生と同じだからやめてよ。そりゃ雇い主が金以外にもマナを支給するのはよくある話だけどさぁ、ちょっと特殊なところばかり何で知ってるのかなこのスライムは・・・」
「そうか、少し安心した。スライム君の好きなように呼ぶといいが、私たちは領都に向かっているから君の主人になることは難しいな。」
「うーんト、じゃあワタシも一緒に行くヨ!」
「はあ!?付いてくる気なの!?」
驚く声を上げたリンガであるが、エンドは周囲を見回し、さもあらんと考えていた。
「リンガ。スライム君が付いてくるのも仕方がないだろう、この辺りはマナが薄いのだろう?また彼女がペラペラになってしまうさ。」
「あ・・・そうだね。くそっ、はぁ、また厄介事が重なるのか。わかったよ、でも怪しい真似をしたらただじゃ置かないからね!」
「だいじょーブ!ご主人守らないとマナもらえないからネ!」
「うむ、リンガの同意も得られてよかった。しばらくの間、よろしく頼むよ。しかし、そうすると名前が無いのは不便だな?」
「よろしくー、名前?ワタシはよくわからないからご主人がつけてチョーダイ!」
「ほう・・・」
エンドは少し悩み、周囲を見渡し、小さく頷くと言った。
「では、君の名前はシッコだ。出会った経緯も考えればふさわしい名前ではないかな?」
「ええ・・・?」
「ワーイ!じゃあワタシはシッコだネ!」
リンガはエンドのネーミングセンスに口をはさみたくなったものの、満足げな男と楽しそうなスライム娘を見て、何も言わずに自分の頭を抱えるのであった。




