1-16 スライム
エンドはどこか残念そうな表情で腰布を纏うと、液体の少女に話しかける。
「どうも、初めまして。私はエンドというが、君は誰かな?」
「ン~、ワタシはワタシで、名前はないヨ!」
「ふむ・・・リンガ、彼女は何の種族になるのかな?」
リンガは真剣な面持ちで液体の少女を見ていたが、ややあって口を開く。
「・・・多分だけどスライムだと思う。核のような魔石も口の奥にあるしね。」
エンドはあらためて液体のかたどる精巧な少女の像を見る。目や髪などもうまく作られているが、これは濁らせたり、青や緑を基調とした同系統の濃淡で模していた。そして口や頬は透明に近い色となっており、核の赤い色をうまく利用していた。
「スライム族という種族か、珍しいのかな?」
「いや、スライムは魔獣の一種で核となる魔石もある。でもヒトを襲うことなくて、落ち葉とか腐ったものとかを食べているんだ。スライム自体はマナはあまりなくても生きていけるけど、食べているもの自体にマナが少ないから環境中のマナがそれなりに無い場所には住んでいない筈なんだ。マナが比較的多いリゾトニアにはそれなりに多くいるけど・・・」
リンガの言葉に液体の少女が反応して朗らかな声を上げた。
「おースライム!そうだネ。ヒトがいっぱいいるところではワタシタチはそう呼ばれていた気がするネ!」
「ふむ、では君は街中で暮らしていたのかな。」
「多分ソウダヨー?」
「いや、ちょっと待って!」
リンガは警戒を解かずにエンドに話す。確かにスライムはその分解者としての立ち位置、攻撃性が無く、簡単に倒すこともできるという特性から、下水等の設備が整った都市部ではあまり見かけることはないがものの、中小の市町では下水道の掃除やゴミ処理の目的で飼育されることも少なくない、と。
「村や町にスライムがいるのはいい!でもスライムがヒトの形をして、話までするなんて見たことも聞いたこともないんだ!一体お前は何者なんだ?」
「ンン?ワタシはワタシだって。ワタシタチがワタシ?アレレ?」
「ッ!ふざけないでよね」
「リンガ、落ち着いてくれ。君が私を案じてくれているのは分かっている。だが、襲ってくるならもっと早い段階でやっているさ。」
語気を荒げるその肩をエンドは優しく抑える。リンガはいつの間にか自然な動きでエンドをかばう様な位置に移動し、大鉈の取っ手掴んでいた。
「それに彼女もふざけているわけではないと思う。ゆっくりと話を聞こうじゃないか。」
諭すようなエンドの言葉にリンガは少し力を抜く。それでも位置を変える気は無いようであった。
「うむ。すまないね、何しろ出会いが唐突だった。まずは君のことを聞かせてほしい。どこで生まれて、どこで過ごして、どうしてここにいるのかを」
「ン~、いいヨ!ご主人のお願いだしネ!」
スライムの少女はたどたどしくも話し始めたのであった。




