1-15 水溜まり
美しくも寂しい平原を黙々と歩き続けていると、少し先に僅かに異なる植生の場所が見えてくる。近づいていくと、青白い幽霊草以外の草木もまばらに生え、雨の影響か、小さく濁った水溜まりが陽光を反射していた。
「うん、ここはマナ溜まりだね。」
「うむ、教えてくれリンガ先生。」
「だから先生ってガラじゃないからやめて。うん、特に説明することでもないけど、見ての通りマナが少し集まっているだけの場所だよ。だからここには幽霊草以外の植物もかろうじて残っているけど、他よりはマシって程度のマナの濃さだね。ああ、そういえば街とかはある意味で大きなマナ溜まりに作ってあるって言ってもいいかもしれないな。」
基本的に大きな街はマナの濃いところにあるものの、それはマナの不足が叫ばれるようになってからの話であり、昔の時代ではマナが世界中に満ちていたせいか場所としての利便性が高い場所に建てられていることが多く現在ではほぼ廃墟になってしまっているとリンガは話す。故に昔からある伝統的な建築物や文化といったものは近年の都市にはあまり見かけず、そのようなものの探求や探索は金持ちの道楽か、学問を修める変わり者くらいしか行っていないと続ける。
「そうか、私としてはそのような場所の探索も面白そうだと思うが。」
「ボクだってべつに嫌いじゃないけど、わざわざマナの薄いところまでは行かないよ。冗談じゃなく命に係わるし。」
ただ遠いとか、不便な場所にあるなどの理由であれば学者も熱意をもって行きそうなものだと思うが、マナが薄く命の危険を顧みずに行くか、もしくは膨大なマナを持っていく必要があるとすればそのような考古学や民俗学といった学問も薄れてしまうのだろうとエンドは少し残念に感じた。
「なるほど、とはいえ他のところよりはマナが濃いこの場所は小休止には適していると言えそうだ。」
「ん?そうだね。確かにずっと歩きっぱなしだし、少し休もうか。エンドは雨の中も歩いていたし、流石に疲れてきたかな?」
「いや、疲労は大丈夫なのだが・・・少し催してきてしまってね。用を足しに行きたいのだが・・・見るかい?」
「見ないよ!なんで見せようとするんだよ!?」
「いや、自然と口から台詞が出てきてしまってな。残念だ・・・よし、では動く気配は近くには感じないし行ってくるよ。」
「早く行ってこい!・・・あ、でも何かあったらすぐに呼んでよ!」
「ああ、ありがとう。」
低木で視線が遮られる場所を探すとちょうどよい場所が水溜まり近くにあるのを見つけて向かった。そして、腰布を解くと放尿を始める。ふぅ、と呼吸が漏れたその時、急に至近距離で動く気配をエンドは感じ、まき散らしながらも飛び退く。
「むっ!!」
先ほどまでただの水溜まりであったものが眼前の地面を這いずり、そして眼前で盛り上がりエンドは驚きの声を上げた。そして濁った色から周囲の色に溶け込むような透き通った緑色に変わり、何かの形を作る。
「ア、ア~、イウエオ、声、でる、ネ!いやぁご主人!こんなにもマナをくれてありがとうネ!おかげで助かったヨ!」
水溜まりはヒトの女性の上半身のような形に姿を変えて喋り出す。
「エンド!大丈夫・・・」
エンドの声を聞きリンガが駆け寄ってきて、そして2つの出来事に硬直する、一つは液体がかたどる人の形に、そしてもう一つは腰布のない男の下半身に。
「ああ、リンガ。事情は分からないがどうやら敵意はない様だ。心配かけてすまない、いや突然水溜まりが・・・・」
「い、いいから服を着ろバカー!!」
緊迫した状況で見慣れぬ存在から目を離すわけにもいかず、リンガは赤面しつつ叫んだ。




