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1-13 慈悲


「リンガ、新手の気配が来ている。4つ、いや5つか。移動速度は遅いようだが避けつつ進んだ方がいいのではないか?」


「そっか。でも、できればこのまま進みたいな。エンドがいるからマナはなんとかなりそうだし。」


「かまわないが・・・マナが無くなるのはリンガも辛いのでは?街道の安全を確保するにしてもここは他のヒトは通らない様だが・・・」


先ほどの話とゴーストを倒した時のリンガの様子を見ていたエンドには無理をしてまで対応する必要はないと考えていた。避けられないのであれば仕方が無いが、リスクは低くともわざわざ苦痛が伴う方を選ぶ理由が見当たらない。


「いや、だってさ・・・可哀そうじゃないか、しっかり終わらせてあげないと。」


「!!」


少し照れくさそうに話すリンガのその言葉に、エンドは精神に稲妻の走るような衝撃を感じていた。思わず息が漏れ、涙腺が緩み、言葉が何度も脳内で反響する―――そうだ、終われないことほど苦しいものは無い。終わらせるのは間違いなく、慈悲だ。


「・・・ああ、素晴らしい。」


エンドは思わずリンガの手を取り握りしめ賞賛の言葉を口から漏らす。勢いのままに繋がれた手を見て、振りほどくことなく恥ずかしそうにするリンガを正面から見つめながら、エンドは心の奥底から湧き上がる使命感に似た強い感情を感じていた。


「あ、いや。そりゃ全部は無理だし、自分の安全は優先するけどさ」


「それは当然だろう。だが、それでも君は素晴らしい。そして、ぜひ私にも手伝わせてほしいのだが、確認させてくれ・・・」


エンドは自身の考えをリンガに説明する。難しい顔をしたリンガもその熱意に押される形で最終的に了承した。




二人が街道をまっすぐ進むと、ゴーストが現れる。勿論その気配は事前に察しており、心配そうなリンガの視線を受けつつもエンドが前に出た。


「エンド、危なくなったら勝手に倒すからね。」


「ああ、事前にそう決めていたしな。」


先ほどリンガに確認した事をエンドは再度回想する。アンデッドは最早マナを取り込んでも回復しないどころか、組織が崩壊していく。ゴーストはすでに肉体の強度が失われているのであれば、濃いマナを取り込めばそれは顕著に起こるのではないかと。その疑問にリンガは首肯するが、あくまで予測であるとも付け加える。エンドはその答えに頷き、ならばと提案した。


ゴーストがエンドの目前に迫る。エンドは左手から旗を生やし、高々と掲げる。そして救いを求めるように縋り寄る黒い靄に、ただ、右手を伸ばして触れた。


「カッ!!」


その瞬間に気合を入れ体内のマナを巡らせ右手に集中、リンガにマナを補給するよりもただ強く、激しく送り込む。ゴーストは触れた部分が一瞬大きく肥大するが、すぐにキラキラと輝く粒子となって空気に溶けるように消えていく。消えた端から求めるように、すがる様に、その体積を減らしながらもエンドの右手にその体を摺り寄せ続ける。


エンドはこれまでにない、体から何かが抜けていく感覚を覚えていた。だが、それは聞いていたような不快な感覚はなく、むしろこれまで眠っていたものが目覚めたかのように体に何かが吸い込まれ、次々にマナへと変わっていき―――熱に似た何かを、力を感じていた。そしてそれを次々とゴーストに注ぎ続ける。


加速度的にゴーストは小さくなり、そしてしばしの間きらめく粒子を宙に漂わせ、消えた。


「・・・綺麗だね、さっきボクが倒したのとは、違う。エンド、体は大丈夫?かなりマナを使ったと思うけど。」


「ああ、問題ない。むしろ、体調がいいくらいだよ。」


「普通ならおかしいけど、でも、確かにかなりの量のマナを今もエンドから感じる。はぁ・・・ホント、一体何者なんだかキミは」


「はっはっは、それが分かれば苦労はしないさ。」


エンドは消えていったゴーストがせめて満ち足りた最期を迎えられたらと、僅かな時間、旗を持たぬ右手で片合掌を作り冥福を祈った。


その後も散発的にゴーストと接触するが、エンドはマナを与え続け都度その存在を終わらせていく。順調に進んでいく道程であったが、途中でリンガが待ったをかけた。


「エンド、道を迂回しよう。」


「ふむ、何故かな?」


「これまでのゴーストは街道で力尽きたり、街を出てうろついていたりしていた奴らだよ。このまま進むと大きな街の傍を通過することになる、ゴーストの数はこれまでの比じゃないし、何よりもエンドはマナを出しているから目立ちすぎる。少しならまだいいけどアンデッドが何百もいる可能性が高い・・・このリスクは流石に冒せないよ、何かあれば二人とも共倒れだ。悪いけどこれはキミに拒否権は与えない。」


「む・・・仕方ないな。」


エンドとしては終わり切れない存在への憐憫も強くあり不服ではあったが。リンガの言うことはもっともであるし、自分だけならば兎も角、多くのゴーストに囲まれた場合にリンガまで危険が及ぶ可能性も考えれば致し方なかった。短い付き合いではあるが、この小鬼は非常に義理堅い存在であると分かっていたからであった。


街道を外れ、二人は幽霊草が生い茂る平原を進むこととした。


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