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1-12 不死者

「・・・別に今から来る奴らが強いわけじゃない。」


街道を進みながらリンガが話す。


「それにしては機嫌が悪いね。敵対するものが来るというのは無論楽しくないのだろうが。」


「魔獣とかはまだいいんだよ、食えるし、売れる。それに奴らも生きるために向かってくるから分かりやすい。だが違うんだよ、あいつらは・・・驚かないように言っておくけど、本当に幽霊みたいな奴だよ。ま、見てみないと実感ないと思う。」


エンドは不機嫌なリンガの様子にあえて言わなかったが、不謹慎ながら自身の心はそのような未知との遭遇の気配に興味を強く覚えていた。また、そこまで脅威ではないからこそリンガも不快さがあっても道を変えることなく進んでいると考えられた。


そして、二人がしばらく進むとそれは姿を現した。


「これは、黒い霧、いや靄なのか?」


直径1m程の不定形な、黒い不定形な塊が地面を擦る様にエンドに向かいゆっくりと近づいてくる。


「アンデッドってやつの一種だよ、これはゴーストって呼ばれてる。ちょっと離れてなよ・・・てぃっ!!」


リンガは鉈を構えると、強く地面を蹴りゴーストに叩きつける。ゴーストはその姿を四散させながらあっけなく消えたが、リンガの表情は晴れなかった。


「ああクソ!やっぱりマナが持ってかれた!」


「リンガ、大丈夫か?」


「・・・大したことは無いけど、やっぱ気分が悪い。悪いけどマナをくれるかな?」


エンドはリンガにマナを補給しつつ説明を聞く。アンデッドというのは、簡単に言えば魔獣や人がマナを失った先にある存在らしい。


この世界ではマナが足りなくなるとその存在は息絶えてしまう。しかし、オーラを操ることのできる魔獣やヒトの場合、体内で足りなくなったマナの代わりを無理やりオドで行おうとする代償機構が発生する。もちろんそれで解決することは無く、代用されたオドが肉体と結びつき黒く変化し変質する黒化という現象が生じる。そのような状態に陥り進行すると、いずれ体のほぼ全てがオドによって置き換えられた肉体は崩壊し、液体とも気体とも分からない不定形な存在となってしまう。この最終形態がゴーストとなる。


この過程はそれなりに段階を踏んで進行していくらしく、初期であればマナを大量に取り入れることで周囲の組織が変質した部位を排除し回復することもあるが、ある程度進行するとそれも叶わなくなる。マナが少ない場所では緩やかに変異が進んでいくが、回復が見込めない段階まで進行しているものの、まだヒトの形を残していればゾンビと呼ばれる。この状態で多量のマナを取り込んだ場合、中途半端に変質した部位は肥大化し、さながら恐ろしい風貌となり危険性も大いに増す。この状態をグールと呼ぶ。仮にこの状態でマナを取り込み続けると、変質し肥大化した部位が破裂し崩壊し大型のゴーストに転じる。


マナがある程度不足している時点ですでに意識は無くなっているので自発的に動くことはあまり無く、せいぜいがうろつく程度であるが、それでもマナの気配を感じるとそれを求めるように寄ってきて奪わんと襲い掛かってくる。そして単なるオドでも肉体でもないその存在は触れるだけでもマナを貪欲に吸い取る性質があり、対処するものにとって厄介な存在となる。マナを急激に抜かれるのは対処する者にとってもかなり耐え難い苦痛であるらしく、その意味でも嫌われている。


ゴーストまで進行した場合、体の強度はあまり無い為に強い力で散らしてしまえばそのまま消えていくが、中途半端な攻撃では不定形のため効果が薄いため一度の破壊力が求められる。ただし消えていく際にもその残渣がマナを吸い取っていくのでマナの補給ができない場所での対応は中々面倒であるらしい。


「成程、それで『幽霊』街道か。ではこのゴーストは魔獣のものなのかな?」


「・・・いや、多分ヒトだ」


「む?ヒトならばマナを与えて回復させたり、残念ながら手遅れになっていた場合でも・・・何か対処を行い、中々ゴーストとなるのは起こり得ないのではないのかな?」


「甘いね、そこまで優しい世の中じゃない。街の中でもマナを全然買えないようなやつがアンデッドになったりするし、それが他の奴を襲ったなら殺されても文句は出ないよ。それに、これは大規模なマナ枯れがかなり前にこの辺りで起きたって聞いてるから、そのせいだと思う。」


「マナ枯れ?」


「ああ。マナは水脈みたいに走っていて街とかはそれが溜まりやすい場所に作られてるって話は前にしたけど、それでも急にマナの流れが変わったり、今まで流れていたマナが止まっちゃうことがあるんだ。そうそう起きないけど、それでも話に聞くくらいには起こっているようだね。」


「それは、困るだろうな。住んでいる場所が危険になるのだから。だがそれは避難するしかないのでは?」


「そうそう上手くいかないさ。小さい村くらいならいいけど、急に大人数を受け入れられる街はそうそう無い。それに移住しても伝手が無いとそこで真面な扱いを受けられる奴は少ないよ。ボクみたいに自分で外の世界に出るのならまだいいけど、元々普通に暮らしていた奴らには難しいと思う。それに、街はマナが集まりやすい場所にあるからすぐにマナが枯渇する訳じゃない、でもそこでうだうだしていて、いざ逃げようとしたら・・・もう周辺はマナが少ない場所だらけで余程普段からため込んでないと途中でマナ切れ、お化けの仲間入りってやつさ。」


リンガがこの先に街の跡地があると言っていたが、このゴーストも街から逃げようとして力尽きたうちの一人なのだろうか。しかしそうであればゴーストはもっと沢山いることとなる。そうエンドが考えている時、複数の新しい気配がにじり寄ってくるのを感じた。


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