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1-11 幽霊街道

廃道は少し広い道と合流し、さらに進むとより広い道に繋がる。木々が生い茂っていた集落跡から離れるにつれて、徐々に植生は変化し、見かける木々は低木となり、疎らにぽつぽつと生えているのみとなる。石畳の隙間からは草が生え、かつて多くの人々が利用したであろう広く整備された道を隠していた。


「ねえ、朝からずっと歩いてるけど大丈夫?」


リンガは時折エンドの体を慮り声をかける。空は大分明るく、日差しも強くなってきている。確かに結構な時間歩いてはいるとエンドも思うが、僅かな疲労感はあれども不思議とまだ動くことに支障はなかった。


「大丈夫だ、問題ない。どうにもこの体は体力があるらしい、これも特性というものなのかな?それよりもリンガの方が無理してはいないか。」


「男が変な心配しないでいいよ。確かに大分マナが薄い場所に来てはいるけど、これくらいならまだ地図に△をつけているくらいの場所だよ・・・でもそろそろきつくなってくるね、体力じゃなくてマナのほうだけど。」


「マナが少なくなるというのはどのような感覚なのかな?」


「あーなんて言えばいいんだろう・・・ある程度まではただ減ってきたなぁ、みたいな感じかな。でもそこからは体に少しずつ力が入らなくなってきて、出ちゃいけないものが抜け出ている、何というかヤバイ感じ。」


「ふむ、私もマナを使いすぎればそう感じるのかな?」


「多分そうだと思うけど、男だと違うのかな?わからないなぁ」


他愛のない話をしながら一定のペースで進み続ける二人であったが、空は少しずつ明るさを失いつつあった。


「もうすぐ夜になる。休むところを探そうか。」


二人の歩く道の少し先に建屋の影が見え、それなりに傷んではいるが、かつては休憩所であったのか屋根とベンチのある場所で夜を明かすこととした。エンドはそこまで空腹感も喉の渇きも感じていなかったが、昨日のファングの肉を燻しておいたものと、井戸から汲んだ水を水筒に入れたもので腹と喉を満たす。


「うむ、ご馳走様。ところで、どうしてこの道が幽霊街道と呼ばれているのかな?」


「昔は『有料』街道って呼ばれていて、関所で使用料を払う必要があったけど、その分かなり整備されていて東の区域の大動脈だったらしいんだ。」


「まるで高速道路だな・・・」


「ん?なにそれ」


「いや、また勝手に頭に浮かんでね・・・まぁ気にしないでくれ。人が通れなくなったから幽霊という訳か。」


何かの折に勝手に単語と謎の漠然としたイメージが浮かぶ。これは自身の失った記憶の欠片なのだろうかとエンドは考える。


「あー、それもあるかもしれないけど・・・明日、実際に見てからのお楽しみだね。あと1時間も歩けば分かる―――っと、その前にマナの補給、いいかな?」


「うむ、勿論だ。」


エンドは頬を赤らめて何かを我慢している様子のリンガにマナを注ぐが、その速度が昨日よりも上がっている感覚があった。元となるオドが濃い場所であるのか、ただの慣れであるのか、そんなことを考えているうちに少し上気させたリンガからストップがかかり、マナの補給は完了した。


二人は一夜を過ごした休憩所を後に、尚も進んでいく。徐々に低木すら姿を消し、青白い草が一面に生えるだけの平原が広がる。


「こいつはお化け草って呼ばれているんだ。」


エンドが幻想的な風景に見とれていると、リンガが声をかける。細い葉の草が生い茂る草原だが、緑色ではないその平原はどこか幻想的で儚げだった。


「この草の青白い色が幽霊街道の語源なのかな?」


「ま、きっとそれもあるんだろうけどさ。だけど他にもいろいろと理由がある。」


リンガは足元の草を抜くと、空中に放り投げる。すると地面に着く間もなく、空気に溶け込むように消えてしまった。


「なんと!」


「この草は殆どマナを持たないからこんな所でも生えてるけど、抜いたらすぐ消えてしまう。だからお化け草って言うんだ。マナが薄い場所では結構見るんだけど・・・こいつが生えているところは、ダメな場所ってとこだね。」


「名は体を表すというが、まさに幽霊だな。」


「これだけじゃないけどね、幽霊街道の名前の理由ってやつは。それよりも進もうか、エンドからマナを貰ってるからまだいいけど・・・それでもこんなマナが薄いところじゃ落ち着かない。」


大きな街道の脇にはマギアの一種であろう街灯の跡や、様々な施設の廃墟が姿を見せる。しばらくの間歩いていたが、不意に微かな違和感、とても薄い何かの存在をエンドは感じ、リンガに伝える。リンガは地図を睨みながら不機嫌そうに舌打ちをする。


「あーあ、もう少し先に街の跡地があるから仕方ないか。エンド、そいつは近寄ってきてる?」


エンドは目を閉じ、暗闇の中でより深く気配を読む・・・その薄い気配は緩慢だが前方から僅かに、しかし着実に距離を詰めてきていた。


「ああ。あまり速い速度ではないが、私達の進む方向から来ている。」


「あまり会いたい相手じゃないけど、仕方ないか。」


「一体何が来る?」


「幽霊街道、その名前の由来の一つだよ。」


リンガは足を止めることなく、忌々しげに言った。

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