1-10 行程
身支度を整えたリンガはエンドの横に座り、荷物の入った大きなリュックを台替わりとして地図を広げる。
「さてと、まずエンドはここがどこかわかっていないようだからまず教えてあげる。これがリゾトニアの地図さ。」
リンガの説明によると、このリゾトニアは南北が少し潰れたハートのような形をした大陸らしく、首都はハートの切れ込みがある部分の少し南に位置しており、その地理的な特徴から中央、北西、北東、西、南、東の6つのエリアに分かれている。それぞれに領都と呼ばれる大きな街が存在し、領都間をつなぐ街道は維持されているものの、人口減少やマナの少ない地域が増えてきた影響で中央地区以外の地方は徐々に衰退してきているらしい。特に首都や領都はマナが多い場所に作られているため、小規模な集落から移住をしてくるヒトも多くスラムのようになりつつあるのが現状となっている。
地理的には北の方が多少寒く、南の方が多少温かいなどの違いはあるが基本的には温暖な気候で聞く限りでは温帯と熱帯の間のような気候で過ごしやすいとのことであった。
「ボクたちがいる集落が大体この辺り、東の領都トーラスのさらに東の奥の山間部にある。マナは比較的豊富な場所だけど、主な町から遠くて場所が悪い。トーラスからここまで来るのに南側から大きく回って2週間くらいかかっちゃったよ。」
リンガの指を追うと細い山道が書いてある先の小さな点が今いる集落跡地のようであった。山地が多く、あまり太い街道が周囲には見当たらない。この集落からさらに先まで髪の毛のように細い線で山道が描かれ、それはいずれ海近くまで達するが、おそらくほとんどの集落はすでに人が住んでおらず、海際には小さな町も地図上に記載されているが情報が無くまだ人が住んでいるかも不明らしい。
地方の往来が少なくなり、もはや正確な情報を領都でも掴んではいないのではないかとのことであり、そしてそれは政治の手が伸びない無法地帯になっている可能性もあるためにますます人が行かなくなっているとのことであった。
「この地図の街道には〇や×、△の書き込みがたくさんあるが、これは何かな?」
「マナの濃度だよ。マナはあらゆるところにあるし、生きていくために必要だけど水にもよく混ざる。なんでも土の下に大きな水脈みたいのがあってそれが土地のマナに関係あるらしいけど、これが結構厄介なんだ。大きめの町とかはマナが多く溜まるような場所にあってあんまり変わらないけど、そこから伸びる水脈の流れが結構変わって小さな集落や街道は結構影響を受ける。街道のマナが少なくなるとそこを通るだけで体から抜けていくマナの量が増えて負担となり、元々マナが溜まりやすい居住地でもその量が減れば体調を崩してしまうんだ。大昔マナが潤沢にあった時代はどこにでも住めるし影響も少なかったんじゃないかと詳しい奴は言ってた。」
「ふむ。そうすると、旅をするにしてもマナが濃い道を選ぶ必要があるのか。」
エンドが地図を見ると、東にある二重丸、これがおそらく領都であろうと思う。そこから東には太い街道が今いる近辺までは伸びているようだ。だがその道も途中から△、そして東側の半分ほどで×となっている。現在地は〇の場所となっており、成程、南回りに迂回すれば〇や△の場所だけを通ってここまで来ることができる。
「ここはやはり通れないのかな?」
×とついている大きな街道を指さすが、リンガの表情は険しい。
「幽霊街道か。そりゃ確かにそこを通れればだいぶ楽だけどかなり前から通れなくなってるんだ。少しの時間ならマナが少ない場所でも動けるけど流石に1日もいるとつらいね。」
「仮に、だ。ここを通れればどれくらい短くなるのかな?」
「え?まあ、一週間かもう少し早いと思うけど、通れない道を見ても仕方ないよ。」
「ふふ、それがもし通れるとすればどうかな?」
「どういう意味?」
「例えば、ここにマナの供給源があってな。」
エンドは親指で自身を指す。マナが足りないのであれば、それを作り出せる存在が補えばいい。
「・・・悩むなぁ。確かにそれなら行けるかもしれないし、ボクが通ってきた道はマナがマシな分モンスターも多かったし。ま、モンスターを倒せばマナも魔石も手に入るから悪いことだけじゃないけど・・・」
少しの間考え込んでいたリンガが口角を上げる。
「だけど、ボクだって危険を承知で探索者で生きている。いいよ、エンド。行ってようか!いい土産話になりそうだしね!でも、キミが危険なのは分かっているよね?」
「勿論だ。何かあれば見捨ててくれてもかまわない。」
「覚悟は立派だけど、そうなる前にとっとと逃げてよ。あとボクの言うことをしっかり聞くこと!いいね?」
「善処する。」
出発の準備は整っている。エンドも笑い返すと立ち上がり、西へと繋がる廃道へと進むのであった。




