疲れた社会人と怪しい隣人
ピピピピ……と無機質なアラーム音が、小さな汚部屋に鳴り響く。
遠野燈子は布団から這い出て、スマホから鳴る邪悪な音を消した。
スマホの画面を見ると現在時刻7:00。
「会社……行きたくねぇ……」
また布団に潜ろうとしたが、パワハラ上司早川を思い出し、重たいからだを起こした。
今日も出社すれば30連勤。連続勤務記録更新中である。
とりあえず、顔を洗って最低限のメイクをして服を着替える。
家を出るとき、洗面台の鏡に映る自分と目が合った。そしてため息をつく。
最近、隈が酷い。20代なのにこんなにやつれてしまっている。同年代の子と会うのが、見るのさえもつらい。
最後に大きく深呼吸をして玄関のドアを開けた。
新鮮な冷気が室内に流れ込んできて燈子の前髪を撫でる。
ちょうど、その時だった。隣で同じくガチャ、とドアが開く音がした。
反射的に隣を見ると、ドアノブを握ったままの男性と目が合った。
げ、と燈子は顔を顰めるが、彼はにこっと笑った。
「おとなりさん。おはようございます」
「……おはようございます」
隣人、野月。
この隣人は謎が多すぎる。
妙に整った顔立ちで年齢が分からない。もしかしたら年上かもしれないが、なんとなく年下にも見える。
朝や昼間は何をしているのかはよく分からないが、夜になると家からふらりと抜け出していく。会うのは大体、朝方で、燈子が出勤するとき彼は帰宅している。
今日の服装は、黒いシャツに黒いスーツ。怪しいマジシャンか、夜のお仕事の人にも見える。
別に人の生活や仕事につべこべ言うようなことはしないが、とても怪しいのだ。いつも目を細めて笑っていてつかみどころがないところもそうだが、柔らかい口調と対照な、細める目から感じる鋭い視線が少し怖い。
謎、怪しいというよりも、なんだか気味が悪いと言った方が正しいかもしれない。そんな彼を燈子は苦手だった。
燈子の考えていることが顔に出ていたのかもしれない。
野月が「どうしたんですか?」と首をかしげた。
「お隣さん、今日も出勤ですか」
「……まぁ」
「朝早くから大変だなぁ。顔色も悪いし、休んだ方がいいですよ」
「……はぁ。あの……失礼します」
軽く頭を下げて怪しい隣人を通り過ぎる。
背中から「お気をつけて~」と聞こえたが無視して会社に向かった。




