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第9章 お国事情


 第一王子は私の父と繋がっていた。そして二人で勝手に私の人生を弄ぼうとしていた。

 父は私がどんなにアルセスとの婚約を解消して欲しいと頼んでも、格上で上司の侯爵家との縁を切れる訳がないだろうとしかり飛ばしていたのに。

 

「アルセス様に意地悪なことばかり言われて辛いだと? そのくらい何だというのだ。何も暴力を振るわれるわけではあるまい? 

 褒められたことがないだと? 当たり前じゃないか。お前のどこに褒めるところがあるんだ。

 会話がないだと? お前と話をしたってつまらないのは事実なのだから仕方あるまい。

 こんな出来損ないをもらってくれるというのだからありがたいじゃないか。

 文句など言わずにただおとなしくしていろ。もし婚約破棄にでもなったら許さないからな」

 

 そう言っていたくせに、侯爵家より王家と姻戚関係を結んだ方が得だと考えたようだ。

 目先の利益だけに簡単に飛び付くだなんて、なんて愚かなのだろう。

 

 しかし第一王子と父の思惑通りにはさせない。

 二人が密約を交わした手紙は全てバルドが保管してくれているのだ。

 そう。伝書鳩が二人へ届けていた手紙は、バルドがすり替えてくれた私の書き写した手紙だったのだから。つまり、二人が意図的に私達の婚約を破棄させようした証拠(ホンモノ)はバッチリ取ってあるのだ。

 

 しかもだ。

 これは単純に私を側妃にしようという話ではなかったことがわかった。

 メリメの言う通りこのご時世、第二夫人だの側妃などを娶ったら、世界的な信用をなくす。

 いくら懐古主義者だとはいえ、第一王子だってそんな馬鹿なことはしない。私のことは正妃として迎えるつもりなのだ。

 だからこそ父も積極的に協力しているのだ。あの強欲な父だって、一人娘を側妃になど差し出したら、貴族社会で白い目で見られるのはわかり切っているのだから。

 

 それなら一体どうするのかといえば、第一王子は現在の妻であるシスティーヌ妃殿下と離縁するつもりなのだ。しかも妃殿下の有責で。

 本来ならばいくら小国の出身とはいえ、隣国の王女と簡単に離縁などできるはずがない。

 しかも、彼女は確かにずば抜けた美人とはいえないかもしれないが、上品で優しい方で、才媛と名高い。その上、この国のために医療や学問や福祉に力を注いで、民衆にも人気がある。

 ではどうやって離縁するつもりなのかと思いきや、冤罪をでっち上げるつもりだったのだ。

 しかもそれは一度疑われると、なかなか人々の不信感を払拭できないような罪で。

 

 *


 我がコーソルド王国は多種多様の鉱山を所有している。そのため当然ながら国の最大の輸出品は鉱物だ。そしてその中でも一番の目玉はダイヤモンドで、大陸で最大の採掘量を誇っている。

 ところが数年前に第一王子妃の母国ヒソット王国で人工ダイヤモンドが発明されてからというもの、我が国のダイヤモンドの需要が徐々に減少しているのだ。

 

 当初我が国は、人工ダイヤモンドなど本物と比べるとおもちゃに過ぎないと高を括っていた。

 ところがカッティングの仕方やデザインを工夫すれば、人工ダイヤモンドも本物に勝るとも劣らない美しい輝きを見せることがわかった。

 そして人工ダイヤモンドの人気が次第に高くなっていったのだ。

 

 元々隣国のヒソット王国は、我が国から輸入した鉱石を職人が加工して商品化して輸出していた。それが主産業だった。そのために輸入元の我が国には頭が上がらず、まるで属国のような扱いを受けてきた。

 ところが人工ダイヤモンドを発明してから、徐々にその力関係が変化してきたのだ。

 隣国は一番値が張るダイヤモンドは一切買わなくなったのだ。

 もちろん宝石はダイヤモンドだけではないので、それ以外の宝石は我が国から購入しているのだが。

 

 隣国はそのデザインの素晴らしさで各国にジュエリーを売っていたのだが、これまではヒソット王国というより、原産地の我が国の名前の方がブランドの価値が高めていた。

 ところが人工ダイヤモンドを使って作られた装飾品ならば、紛れもなくヒソット王国原産のブランド品だ。

 近頃では人工ダイヤモンド以外の宝石を使った装飾品の価値まで高くなってきている。

 

 このことに最初に危機感を覚えた第二王子が、隣国の第一王女との婚姻を進めようとしたところを、国王が第一王子の妃としてしまったのだ。

 このことに二人の王子は共に反感を覚えた。

 特に第一王子はこの結婚の意味をよく理解できなかったので尚更不満だった。

 何故自分が属国のあまり美人でもない王女と結婚しなければならいのかと。

 だからこそ、私に目を付けた第一王子はこれ幸いと王女と離縁しようと考えたのだ。

 

 しかしこの結婚は、隣国の優れたデザイナーを王女専属として我が国に招き入れることを条件に、ダイヤモンド以外の鉱山の値段を、他国より割り引いて輸出するというものだった。

 そして我が国は、これからはただ鉱物を輸出するだけでなく、それを加工して付加価値をつけてさらに値を上げて輸出する。その進路変更を図るための政略的な結婚だった。

 それなのに第一王子はそのことを全く理解できなかった。

 

 

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