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第6章 傍迷惑な王子


 この国において、情報の伝達には三つの方法はある。一番一般的なのは馬車や汽車を利用した郵便。

 しかし強盗や事故に遭遇する恐れがあるので、大切な公的な書類などを急ぎで送りたい時には伝書鳩を利用している。

 この伝書鳩は一般の鳩よりかなり大きくて、ペリカンサイズなので、かなり多くの書類を運ぶことができる。

 しかも頭が良い上に強い鳥なので、他の鳥だけでなく人間の攻撃にも耐えられる。その上かなり高速で飛行できるのだ。


 もちろん緊急性の高い場合は電話だ。しかしそうは言ってもやはり信頼度において評価が一番高いのは、今もって伝書鳩である。電話では書類が送れないのだから。

 それゆえに今でも伝書鳩課が情報伝達部の中心で、全ての情報がそこに集まってくる。

 つまり花形の課でありエリートばかりが所属している。バルドもその中の一人で、若手の優良株として期待されている。

 そして情報省の中ではこの伝書鳩課が、アルセスの所属している情報収集部の特殊任務課(特務課)とともに双璧をなしている。

 

 そもそも私達四人が何故知り合ったのかといえば、私達の父親が部署違いではあるがこの情報省に所属していたからだ。

 そのために仲間内で開かれるパーティーでよく顔を合わせていたのだ。


 そして学園を卒業した後、アルセスとバルドは父親の跡を継ぐために情報省に入った。

 そしてメリメは総務省総務部、私は議会で速記担当の職員となったのだが、一年前に二人揃って城の地下にある電話交換室『土竜(もぐら)部屋』勤務となったのだ。

 

 耳がいい、速記ができる、しかも親が情報部で信頼性が高いうことで、私はどっかの誰かに推薦されたのだ。


 そして異動から三月ほど経った頃、私は情報省の建物のベランダで休憩をしていた時にバルドから声をかけられた。

 私達土竜令嬢は日照不足になりがちなので、休憩時間にはベランダで日光浴をすることを推奨されていたのだ。

 私の元気のない姿がたまたま屋上で伝書鳩の世話をしていたバルドの視界に入ったようだった。

 バルドは本当に優しい人で、思い人であるメリメだけでなく、幼なじみである私のこともいつも気に掛けてくれていたのだ。


 その時私はバルドに相談したいことがあると告げた。そして、今居るこの王都で一番人気のレストランで会う約束をした。このレストランは味や値段だけでなくて、防音性も高いのだ。

 私はアルセスが複数の女生と電話でやり取りをしている話をした。そしてそのどれもが恋人同士の会話だと。

 私の職場のことは親兄弟だろうが関係なく他言無用だ。


 しかし、バルドの所属している伝書鳩課が情報を統括しているため、彼は『土竜(もぐら)部屋』や『土竜(もぐら)令嬢』の存在を把握していたため、話をしても問題がなかった。

 特にバルドは若手ナンバ-ワンのホープで職場での信頼も厚かったし。


 私の話を聞いたバルドは困惑した顔をした。そして最初は君の聞き違いじゃないのかと言った。しかし、私が自分の耳の事を打ち明けると、諦めたようにこう言った。


「アリッサももう察しているみたいだが、アルセスはただ仕事で女性と付き合っているのだと思う。

 俺とアルセスとでは部署が違うしやっている内容も多少違うが、情報入手活動をしているんだよ。

 だけど普通に考えて、アルセスの婚約者である君が偶然に彼の仕事関係の会話を聞くなんてことはあり得ないと思う。

 しかも一度や二度じゃなくてそんなに頻繁だとね。

 誰かの意図でそうなったとしか思えない。調べてみるよ。

 本当はこのことを君がアルセス自身に聞きたいところだろうが、この情報の出元がばれるとまずいんだろう? 『土竜部屋』のことは極秘扱いだからな」

 

 と。そしてその後バルドが一人で調査してくれた結果、第一王子のアルディール殿下と、私の父であるフロッグ伯爵が伝書鳩で頻繁に手紙のやり取りをしていることが判明した。

 そして彼らのその手紙の中身を読んで、アルディール殿下の陰険な策略を知り、私に教えてくれたのだ。

 バルドは伝書鳩係だが、そもそもアルセス同様優秀な諜報部員なのだ。つまり、伝書鳩を使ってのスパイ活動をしているのだ。

 

「ねぇ、その。王家の手紙の中を見たの? それって服務規律違反で解雇の対象になるじゃないの?」

 

 バルドの話を聞いてメリメが青褪めた。

 

「俺は服務規律に違反するようなことはしていないさ。伝書鳩が運ぶ文書は担当者が中を確認するのがあたり前なのだから」

 

「それって、建前でしょ!」

 

「建前だろうがなんだろうが、それが決まりだ。もし罰せられるなら、こっちこそ訴えてやるよ。

 そもそも私的に伝書鳩を使用するのは違反だからな」

 

「それはそうだけど、現在城内で使われている電話の五分の一が私用電話なのよ! 今さらじゃない」

 

「いや。アルディール殿下は間もなく私用電話をしていた奴らを処分するはずだよ。

 そのために君達もぐら令嬢に使用者のチェックをさせているのだと思う。

 まあ、相当悪質でなければクビにはならないだろうが、罰金を徴収されるだろう」

 

「もしかして、その罰金で電話工事代を補おうとしているわけ?」

 

「そうだろうな。第二王子のエディン殿下は大分以前から、電話の導入を踏まえた予算を組むように進言していたんだ。

 それなのに保守的で懐古主義の陛下と第一王子のアルディール殿下はそれに反対していて、ずっと無視していたのだ。

 ところが、二年前の例の国際会議での大遅刻で国際的信用を失って、慌てて電話を導入することになっただろう?

 当然予算なんか組んでいなかったから、王家の隠し金までつぎ込むことになったみたいなんだ。おそらくその損失分を罰金で回収するつもりなんだろうね」

 

 バルドの説明にメリメは心底呆れた顔をした。

 

「なるほど。私用電話が多いことはわかっているはずなのに、何故何も対策をとらないのかと不思議に思っていたけれど、そういうことだったのね。なんてせこいのかしら」

 

「せこいだろう? 自分達だって、私的な手紙を伝書鳩に運ばせているくせに。

 だから、もし服務規律に違反だと責められたら、それをそっくりそのまま返してやるよ」

 

「だけど、何故普通に侍従や執事に手紙を届けさせなかったのかしら。伝書鳩を使ったら中身を誰かに見られるおそれがあるのに」

 

「王家はフロッグ伯爵家との繋がりを世間には知られたくなかったのだろう。

 なにせアルディール殿下がアリッサに目を付けて、彼女と結婚したいということのためだけに、色々と悪だくみをしている事実を絶対に隠しておきたいだろうからね。

 俺達担当者が自分達に逆らうなんてこと考えてもいないのだろうね。おめでたい連中だよ」

 

 情報省のトップには、誰がどう考えてもエディン殿下の方が適任だ。先見の明があり、情報通なのだから。

 しかし、愚王が溺愛する自分そっくりのアルディール殿下を任命してしまった。愚息のお願いを聞き届けて。

 

 そのせいで情報省の内情も全く知らない、知ろうともしない第一王子が勝手気ままな行動をするので、職員は皆辟易していたのだ。

 だからバルドは第一王子アルディール殿下に対してぞんざいなのだ。

 

「ねえアリッサ、一体どこで第一王子に目を付けられたの? 

 確かシスティーヌ王子妃殿下が輿入れされたばかりの時に、貴女は何度か言葉の指導係をしていたわよね? まさかその時?」

 

 メリメの問に私は首を振った。確かに私は三年半前のまだ学生だった頃、輿入れされたばかりの王子妃殿下にこの国の言葉をお教えした。

 もちろんシスティーヌ様は婚約が決まった時点でしっかりと勉強されてきていたので、日常会話には不自由していなかった。

 だから、私がお教えしたのは、公の場での話し方とマナーくらいだったの。

 

 そしてその時、私は第一王子とは一度も遭遇してはいない。

 今思えば、システィーヌ様との結婚を望んでいなかったアルディール殿下は、妃殿下との接触を避けていたのかも知れない。

 才色兼備の上に心優しいシスティーヌ様のどこが気に入らないのか、さっぱりわからないけれど。


 あの頭でっかちで人の気持ちが分からない兄マーリロでさえ、システィーヌ様をお慕いして忠義を尽くしているというのに。

 父親の自慢で誇りである天才と名高い兄は、てっきり父親の言いなりの人間なのだと思っていた。しかし、そうではないことが半年前に判明した。

 

 元々兄がシスティーヌ様付きの官僚になったのは、第一王子アルディール殿下の派閥の父親が、彼女を見張るために充てがったのだったという。

 しかし、兄はシスティーヌ様の人柄に魅せられて、すっかり彼女に心酔してしまったたらしいのだ。

 まあ、兄の気持ちもわからないでもない。私だってシスティーヌ様に惹かれた一人だから。

 しかし指導係の役目が終わった後は、お会いする機会などはなかった。三か月前にバルドの仲介で、システィーヌ様に面会を願い出るまでは。

 

 そう。私は学園を卒業後、社交界には一切出なかったからだ。 

 それ故に、アルディール殿下とだってお会いする機会などはなかったのだ。

 だから、考えられるとしたら、議会で速記係をしていた時にでも目を付けられたのだろう。

 確かに議長の隣の席は目立つから、一応茶色のカツラをかぶり、眼鏡をかけて地味な服装を心掛けていたのだけれど。


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