無表情な婚約令嬢のわずかな微笑みも、公爵様は見過ごさない
小説家になろうラジオ大賞4 参加作品
テーマは「ポーカーフェイス」
両親から愛情なく、政略結婚のために育てられた私は、無表情な女として成長してしまった。
私が成人すると、両親の念願叶い、伯爵家の子息と婚約することになった。
私を見捨てた親、望まない婚約、横柄な伯爵。それでも私の表情は変わることはなかった。
私はこのポーカーフェイスを利用され、負けることの無いポーカーの代打ちをさせられていた。
閣下は、尋ねてくる来賓相手にポーカーをさせ、相手が負けて悔しがる様子を見て楽しむのだ。
その閣下の悪趣味の為、私は今日もポーカーをさせられる。
今回の相手は公爵様。閣下とは違い、誰からも尊敬される素晴らしい好青年。
「さすが、お強い。まいりました」
「……」
私に負けた公爵様を見て、閣下は満足そうに下品な笑みを浮かべる。
でも実は……
「残念でしたね。今回も私の勝ちです」
「……ッ」
2人っきりでの勝負で勝ったことがなかった。
「もう一回!」
「何度やっても同じですよ。貴女は顔に出やすいですから」
この私が?
「悔しがって赤くなってるところなんて、可愛いですよ」
バカにしたように笑って!
そして20戦目にして遂に……
やったわ! 勝てた!
「嬉しそうですね」
「……別に」
「顔が綻んでますよ」
「……」
そんなはずは……
数日後、閣下主催の晩餐会が開かれた。
栄華の極みを見せつける、自己満足の為の宴。
その余興として私はまたポーカーの相手をさせられた。
しまいには酒が進んだ閣下が、
「もし彼女に勝てる者がおりましたら、どんな願いでも叶えましょう」と大衆の前で高々と発言した。
そして私が勝ち続ける度に、閣下は高笑いをするのだった。
そんな中
「では次は私が」
と前に現れたのは、あの公爵様であった。
え?
もしかして、私を負かすつもり?
そんなことされたら、私……
初めて感じた不安と恐怖。
しかしカードは配られ、始まるポーカー。
そして……
5戦5敗で私の全敗。
響き渡る歓声。
顔がひきつる閣下。
負けた。
これで私の存在価値は失われた。
もうここには居られない。
「どうやら私の勝ちなようです。では伯爵殿、一つお願いがございます」
「なんだ!」
「彼女との婚約を破棄し、私との婚約をお許しください」
えっ!?
「こんな無表情でつまらん女、どうにでもすればいい!」
「……」
「どうしたんです? そんな驚いた顔して、不満ですか?」
「なぜ?」
「貴女の笑顔に一目惚れ、とでも言いましょうか」
とうの昔に笑顔なんて失ったと思ってたのに。
今私は、
どんな顔をしてるのだろう……