(16)なぁにこれぇ?!俺が聞いてたのと違うじゃないかぁ
「隊長!要塞が火を噴きました!」
「一体なにが?!」
ガルフスは目の前の光景に目を見開く。
総攻撃を命じて25000人が一斉に動き始めた途端に敵要塞が火を噴いたのだ。
他の者もその場に固まる。
「もしや爆発したのか…?」
一体なにが起きているのか、その答えは数秒後にはっきりした。
甲高い音を上げながらオレンジ色の何かが飛んできたと思うと背後で爆音ともに兵士が数十人まとめて吹き飛ばされたのだ。
「初弾命中!」
「第2射初め!」
ドォォォォン!!
「命中!」
「敵混乱の模様!」
淡々とやり取りがなされる。
「これはなに?これは?こっちは?」
そんな中ミューリーはいろいろ珍しそうに聞いてきた。
彼女にとってこの戦車は興味の塊に違いない。
かなり内部は狭いのだが気にはしてないようだ。
「今は説明する時間はないんだ!攻撃をMLRSに切り替える!撃て!」
「ユウキ冷たいよぉ」
んーと、なんか近くない?まぁほっとこ。
首に手が伸びてくるが俺はそれを無視した。
ドドドドドドドドッッッッ!
ロケットが次々に放たれ敵へと向かっていく。
「無人ヘリ離陸せよ!」
さらに無人の攻撃ヘリAH-1が離陸した。
操作はもちろんVTWが行っている。
「攻撃初め!」
2回の榴弾砲の攻撃を受けたハノーバー軍は大混乱に陥った。
そこにMLRSのロケットから切り離された無数の爆薬が雨のように降り注ぐ。
あちこちで爆発が起こり、地形もろとも兵士が吹き飛ぶ。
戦場は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と変わった。
右に左にと兵士達が逃げ惑う。
そこに今度はヘリコプターが現れバルカン砲の掃射を浴びせた。
「退けっ!一度退くんだ!体勢を立て直す!」
この状況で進撃したい者など1人もいない。
皆海岸に押し寄せた波が引くかのように逃げていく。
「目標撤退の模様!」
「攻撃やめ!用具納め!」
俺達ははむやみに攻撃するのは避けた。
なぜなら敵の数は8万、その全てをここで叩き潰さなければならないからだ。
今ビビられて逃げてもらっては困るのだ。
俺は戦車のハッチを開けると双眼鏡を手にし、敵の様子を窺う。
「んー?こりゃもっかい来るぞ?」
敵の陣地は混乱しつつも体制を整えていた。
馬を前に配置していることから今度は騎馬隊が突っ込んでくると見ていいだろう。
そしてその準備は思ったより早かった。
「隊長!歩兵隊の死傷者は1500名以上に上ります!」
ガルフスは騎馬に乗ったまま頷く。
「分かった、全力で負傷者の救護を頼む。それから後方の部隊に至急救援を要請しろ!」
そういうとガルフスは腰の長剣を引き抜いた。
「騎馬隊全力で前進せよ!今度こそ落とすぞ!」
騎馬隊の被害は幸い少なかった。
そのためガルフスは間髪を入れず第2次攻撃に踏み切ることにしたのだ。
「おっ!騎馬向かってくる!おそらく1000程だ!」
俺は再び戦車内に入る。
「ヴォイテク!火砲のメンテナンスは?」
「今はスタンバイできない!」
使用した榴弾砲やMLRS、ヘリコプターは念の為自動整備に入っていた。
そのため今は戦車に搭載された砲しか使える火砲がなかった。
「仕方ない、主砲標準!目標敵騎馬隊!」
俺はそう言いながらトリガーを握る。
「発射!」
10式戦車に搭載された44口径120mm滑腔戦車砲が火を噴く。
その反動は思ったほどなかった。
え、なにこのバケモン。
砲撃音に驚いたミューリーがしがみついてきて背中になにか柔らかみを覚えたがが気にしない。
「弾着!はずした!」
騎馬隊の速度は予想以上であった。
「ヴォイテク!偏差射撃を頼む!弾種は榴弾!」
「まかせろ!」
滑腔砲が今度はVTWによって制御される。
「ってー!」
弾丸は敵の前方に向けて飛んでいく。
「弾着!」
火球と共に土が舞い上がる。
そこに騎馬数騎が突っ込んだ。
「命中確認!」
ヴォイテクの偏差射撃により騎馬が少しづつ減殺される。
が、敵は数と速度に物を言わせて突っ込んでくる。
発砲の速度より早く突っ込まれてはいくら戦車でも太刀打ちできない。
「機関銃発砲用意!」
騎馬隊は要塞から1km地点を通過してきていた。
これ以上は戦車砲では対応するのは無理だ。
代わりに60基の機関銃が接近する騎馬隊に向けられる。
「距離300で撃て!」
「了解した!」
本来60基の機関銃の同時制御など非常に難しい。
しかしVTWはその性能を遺憾なく発揮していた。
「なあ勇輝、長篠の戦いって知ってるか?あんときの信長もこんな気持ちだったのかな?」
ヴォイテクの不敵な声と同時にものすごい轟音が響く。
ズダダダダダダダダダダダダッッッッッ!
こんばんは
ひぐまです
次回は11月4日(木)の23時に投稿予定です