(12)最強のド雑魚
俺のステータスは誰もが腰を抜かすようなチート能力…なんてことはなかった。
旅野勇輝Lv4
天職 なし
適職 錬成師
称号 なし
体力 165
攻撃力 35
防御力 168
魔力 12(75689)
素早さ 102
腕力 152
スキル 『言語理解』
「これ、どういう基準なの?」
俺はシェラに聞いた。
「一般的な人間の数字は100とされている。ユウキは体力と防御力はまあまああるけど攻撃力が弱すぎ」
確かにパッとしない数字だと言えるだろう。
攻撃力なんて物騒な数字は日本において全く意味なんてないしね。
「この魔力ってのは?」
数字を見ると12(75689)となっている。
いかにも弱そうだ。
「前の数字は顕在魔力。つまり表面に流れる魔力の力だけど、これも弱すぎ。()の中は潜在魔力で内部にある魔力のこと。一般的にこの数字は0でいい。…!??」
突然シェラはプレートに目を凝らした。
「潜在魔力75689?!」
「え?!」
みんなが驚いてプレートを見た。
「そんな、ありえない。こんな魔力があるのは神とその使徒か魔王ぐらいなもの…」
「なんかあったのか?」
呆気にとられている彼女たちにヴォイテクが聞いた。
「普通の人で魔力5桁なんて見たことないよ!」
メイビスが目を丸くして言う。
「実はとんでもない力を持っていたのねぇ」
「は、はあ…?」
俺には状況がよく分からなった。
が、ちょっと凄いなんかがあるらしい。
とりあえずなんかチート能力はもらえたってことでいいのかな?
水晶ぶっ壊れなかったのは表面上の魔力がカスみたいに弱かったから、と言うことか。
「職業は…錬成師か。ヴォイテク、なんか面白そうだね」
俺は話題を変えた。
するとヴォイテクが喋る前にメイビスがさらに驚いて言った。
「そんだけの魔力があって錬成師なのかい?」
「どういうこと?」
シェラが説明してくれた。
「錬成師は何でも作り出せる職業だけど、十分な能力がないと術が失敗する。失敗したときはできたものは大爆発するからすごく危険。多くの錬成師が命を落としているし、周囲にもダメージを与えるからすごく嫌われている職業」
周囲の視線がキツくなった気がした。
術を誤ると死ぬ事もあると。
地雷生産者はそりゃ日本でも嫌われますわな。
そう言う地雷系じゃないけど。
「何でも作れるって言った?」
「イメージがきちんとできたものなら魔力に応じて作ることができるよ」
俺はヴォイテクと目を合わせる。
思う事は同じらしい。
「これってもしかしてすげえ好都合じゃない?」
「そうだな、イメージさえできれば銃でも戦車でも作れるってことだ」
これはめちゃくちゃ強い。
しかも魔力も十分なものを持っている。
地球なめんなファンタジーの流れだ。
よしよし、あれも作ろうこれも作ろう。
妄想がどんどん広がっていく。
さぁ何から作ろうか。
「そうだな。とりあえず勇輝、試しにバッテリーくれないか?腹減って死にそうだ」
ここで俺はこの世界で生きる上で一番に直面する問題に気づいた。
「あ、そっか」
ヴォイテクとVTWは機械だから維持するには当然電気がいる。
というか俺のスマホも含め電気の無いこの世界では充電の問題があった。
電磁石を作るとか、電熱線を作るとか、そういう理科の実験レベルの電気技術ならまだしも、精密機械を動かすために必要な電気を1から作り出すなんて不可能だ。
そこでこの錬成術を駆使して電池を作れば問題は一気に解決する
「ところで、どうやって魔術を使うんだい?」
現世で誰もが一度は知りたいと思った魔法を使う方法。
俺らはついにそれを知る。
「精神を集中させて呪文を唱えるだけでいい。魔力さえあればだけど」
シェラさんの説明は俺らの予想したものとは程遠かった。
精神を集中させ、呪文を唱える。
それだけなら異世界でなくとも現世の誰もが魔法を使えているはずだ。
チチンプイプイとかアブラカタブラとか、そういうのはおそらくちゃんとした呪文じゃないのだろう。
「あと、もう一個発動する方法がある」
シェラさんは続けた。
「魔法陣を使って発動する方法。錬成術だとこんな感じ」
彼女は俺たちの前に半径50cm程度の魔法陣を作り出した。
詠唱と魔法陣、どちらを使ってもいいらしい。
俺は目を閉じた。
バッテリーね、バッテリー。
手を伸ばして精神を落ち着けバッテリーのイメージをする。
それっぽい動作しとけばいいだろう。
「ちょっ!ここでやる気?」
メイビスが声を荒くして言う。
錬成術の使用に爆発を警戒しているようだ。
「大丈夫だよそんな大したものじゃないから」
「えっと、呪文はわかる?」
シェラが聞いた。
「あ、分からない」
が、そう口にしたときには鈍い音と同時に床に小さな箱が落ちていた。
「なんだいこれ?」
メイビスが箱を持ち上げようとする。
「何これ重っ!」
再び箱が床に落ちる。
見た感じ相当重そうだ。
「勇輝!これバッテリーはバッテリーでも鉛蓄電池じゃねえか!これじゃあ変換器がないと充電できないぞ?」
俺が出したのは車などに使われる重たい鉛蓄電池だった。
多分ヴォイテクが思ってたんと違うやつだね。
思い通りに生成するのはかなり難しいらしい。
「いま無詠唱で錬成した…!?」
シェラたちが目を丸くする。
実際には無詠唱ではなく、魔法陣の形も同時にイメージしたのだがなんか出来ちゃった。
「まぁそう言わずプラグぶっ差すぞ」
俺はコードのクリップを持ってヴォイテクに言う。
「やめろ殺す気か!VTW用バッテリーの設計図表示するから!」
やっぱこれじゃ壊れるか。
ヴォイテクがデータをスマホに転送する。
スマホを見るとバッテリーの図と規格などが書かれたものが表示されていた。
実物を知らなくても設計図を見ればイメージは可能だ。
その図の通りにイメージすると今度は軽い音がしてペットボトルのような電池が転がった。
「おお、これだよこれ」
ヴォイテクは電池を抱えるとVTWの背面扉を開けた。
「あれは何をしているの?」
リリアーナさんが不思議そうにシェラさんに尋ねる。
「私にも分からない。というか、どうやって術を使っているのか…」
「あの熊もごはんが必要なんだよ」
俺はヴォイテクから外したバッテリーを見せて説明する。
「こんなのがごはんなのかい?」
メイビスが受け取った電池を振ったり叩いたりしながら聞く。
「まぁあんま気にしないでいいよ」
「うーん、なんでだろう」
平然と行われる作業をシェラさんは首を傾げて見ていた。
それぞれが一息ついたところでリリアーナが席を立ち上がった。
「そろそろ王城へ向かいましょう」
「そうだね。ミューリー、いくよ」
メイビスがミューリーの肩を叩く。
「ん?リリィたちどこいくの?」
ミューリーはヴォイテクで人形遊びをしていた。
モフられるたびにジタバタして
「王城へ行くってさっき言ったじゃない」
「あ、そっか。それじゃいこっかくまちゃん」
「ヴォイテクでいい」
そんな彼らを見ながら俺も席を立った。
「王城へ行くのにこんな格好でいいのかな」
「うーん、じゃあ着替えてから行こっか。スタンクさん、よろしくね」
メイビスが言うとおじさんが服を一式持ってきた。
このおじさん超優秀じゃん。
その服に俺は素早く着替える。
この世界の服には機能性とか、そういう要素はあまりない。
ただ、華麗さというか美しさというかそういうものを重視しているように感じた。
現世においてはあまりファッションなど意識しなかっただけに新鮮味がある。
「それじゃあ行こうか」
正直俺は国王に謁見することよりも錬成でなんでも作れるということの方が楽しみだ。
こんばんは
ひぐまです
ここまで読んでいただきありがとうございます
次回は10月28日(木)の23時に投稿予定です
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