大きい死神と落ちた者
期末考査にて遅れました。すみません。
そして、明けまして御目出度う御座います。
「んん?言語が違ったかな?」
「あぁ、いえ……古山和正っす」
見た目からして鴉の同僚だろうか?
鴉を横に並べたら親子みたいになりそうな位の身長差だ。
どっちの身長が普通なのかは知らないが、本当に同じ死神なのか怪しくなってくる。
椿というらしい女性は戸惑う俺をよそに、
「なるほど、古山和正……かずちゃんと呼んでいいかい?」
「はぁ……」
距離を縮めるのが早すぎてついていけないんだが……この人は死神でいいのだろうか?
「あぁ、そうだよ。私はラスちゃんと同じ死神さ。私のことは椿さんと呼んでくれ。一応年上だからね」
……ラスちゃん?
「ん、あぁなるほど、ごめんごめん。鴉ちゃんのことなんだがこの呼び方で呼び慣れてしまっていてね」
あいつにあだ名で呼んでくれる人?がいたとは。
……てっきり俺と同じボッチだと踏んでいたんだが。
なんだか裏切られた気分だ。
「失礼だなぁ、あの子人懐っこくていい子なんだよ?一緒にここまで来たかずちゃんなら分かると思うんだけどなぁ」
あんなサイコパスの手本みたいな発言が口から出てくるやつが人懐っこくていい子?
同性同名同身長の誰かと勘違いしてるんじゃあるまいか?
「んー分からないかぁ……じゃあラスちゃん緊張してるのかもね。私の前だとあの子名前負けするぐらい明るいし」
あいつが明るい姿ねぇ……駄目だ、サイコパス発言のインパクトが大きすぎて笑ってる鴉は想像できても隣に血糊だらけの鎌が一緒に浮かんできてしまう。
「んー……ところでかずちゃんはなんでそんなに若くして死んだんだい?」
「お恥ずかしいことに、自殺です」
自殺した理由は思い出せないですけどね。
椿さんは何かに納得した顔で、
「なるほどねぇ。……まぁ大変だろうけど頑張れ。あぁ、せっかくだしコーヒー奢ろうか?」
俺は椿さんのお言葉に甘え、コーヒーを貰うことにした。
どうやらあの世だろうとコーヒーはコーヒーのようだ。
後からあの世だということを思い出しジャイアンシチューみたいなのを覚悟していたのだが、
まともなのが出てきてくれて良かった。
久々の飲み物で唇を濡らしながら他愛もない会話をすること約30分―――
「ふぅ……疲れたぁ。なんであんな鬼の分際であんなに攻撃できんのよ。死神様の手を煩わせ―――ひゃっ!?」
「お疲れ様ラスちゃん、ココアでも奢ろうか?」
「ひゃっ」って……
なんでこういう見た目相応の反応が出るくせして意識的に口から出るものはギャップ塗れなんだろうな。
冗談で多重人格だとカミングアウトされても信じ切ってしまう自信すら有る。
「あっ、えっ?あーなんで先輩がこんなところに?」
「なんでとは酷いなぁ。私がここにいちゃ駄目なの?」
「あっ、え、いやっ、そのそういうわけじゃなくて……」
なんでこいつこんなにどもってるんだ?気弱な部員が我の強い先輩に話しかけられてるようにしか見えない。
人懐っこいって言ってたわけだが椿さんに懐いてるわけじゃないのか?
「うんうん分かってる分かってる。可愛いなぁラスちゃんは」
「もぉ、止めてくださいよ、先輩の声ガチっぽくてどう謝ればいいか考えちゃったじゃないですか」
「ごめんごめん」
どうやら椿さんはからかい上手らしい。
奢ってもらったココアで一息ついた鴉は仕留められる獲物を見つけた鷹のような目で
「あんた椿先輩に何もしてないわよね」
コーヒー奢ってもらった後に世間話をしてただけだよ。
「ほんとにぃ?」
椿さんはちょっと驚いた顔で、
「ラスちゃんラスちゃん、ちょっと落ち着いて。私がなにかされると思ってるの?私ちょっと傷ついちゃったよ?」
「だって、自ら地獄行きの電車に乗りたいとか言い出すやつですよ?何もしてこない訳無いじゃないですか」
椿さんが軽蔑と困惑をブレンドしたような目を向けてきたが、流石に分かってますよね?
というかまだ俺のこと変人扱いしてたのかよ……
椿さんは困った声で、
「いやぁ……本当の事言ってるんだけど……」
「分かりました」
んん?こいつ何g―――
「じゃあモールに出来た新しい喫茶店のパフェ奢ります」
椿さんはさっきとは違う色の困った目をこちらに向けていた……えぇと?椿さん?
少々の沈黙の後、椿さんはこっちを向いて「ごめんね」と言いたげな手をかざし……っておい椿さん!?
「んーとねぇ……どうしようかな……」
「椿さん?えぇと……何を言おうとしてるんですか?って危ねぇぇ!」
いつの間にか鴉の鎌が俺の首を刈り取れる場所にあった……マジで多重人格なんじゃねえか?
鴉は取り調べをする婦警のような冷たい声で、
「黙りなさい。さもなくばその首掻っ切るわよ」
織田信長でも憑依してるんだろうか。さっきのやつと同一人物だとは到底思えないほどの変わり身だ。
すると捏造された告発文を考え終えたらしい椿さんがこちらを向き、
「んーとね……いやらしい目で私のことを見てたって事くらいかなぁ」
見てねぇよ!ってか鴉、物でつって―――っぶねぇ!
「黙りなさい。椿先輩をそんな目で見たなんて万死に値するわ。だから九千九百九十九回殺してあげる。そこに直りなさい」
なんでこいつはバーサーカーになってんだ?
あぁもうなんでこうなるんだよ、意味がわからん。さっぱりだ。
鴉と合ってから、いや、遭ってからろくな目に合わない。あいつ本当は死神じゃなくて疫病神なんじゃないか?
ふざけんな。なんで死んでからこんな目に合うんだ?前世で俺が何をしたってんだよ。
つーか椿さん!?なんで微笑ましそうにこちらを見てるんですか?切られると痛んですが!?
やっと俺のアイコンタクトに気付いた椿さんは少々考えて嫌そうな顔をしてから鴉に、
「ラスちゃんが殺すのはちょっとやりすぎじゃない?」
だめだ……この人もこの人でヤバい人だった。……いや、つーかそもそも人じゃなかったよこいつら。
なんだ?人外には自分の非を認めるやつが一人もいないのか?
閻魔さんには忙しいとはいえ性格くらいちゃんと作って頂きたい。
「これくらいはしないとこいつ分かりませんよ。さっき言ったじゃないですか、やばいやつなんですよこいつ」
お前にだけは言われたくねぇよ。つーかお前だよ。
「まぁ、良いじゃないですか椿先輩。ずっとそのままって訳じゃないんですから」
「そうだけど……」
椿さん?なんで味方を説得して攻撃をやめさせようとする心優しき少女みたいな雰囲気を醸し出してるんですか?
「ねぇ、あんた、どこ切られたい?あ、喋っていいわよ。流石にね」
「冤罪だ。つーかお前、物で椿さんつっておいてよくそんな事言えるな」
「円形?難しいこと言うわね。まぁ、出来ないことはないけど」
こいつには俺の声にノイズでもかかって聞こえているのだろうか。
「じゃあ、ちょっと椿先輩離れてて下さい。この鎌自分が思ってるより大きくて危ないんで」
「……え、マジで切るのか?」
冗談だろう?というか冗談であれ。こんな茶番をこいつは信じたってのか?
「マジもマジ、大マジよ。当たり前じゃない、減る命がないんだから切ったってノーカンなんだし。ちょっと長めの歯医者みたいなもんよ」
その長めの歯医者とやらが嫌だっつってんだよ!
「うるさいわねぇ、少女に怒鳴ってて恥ずかしくないの?」
少女はどでかい鎌もって浮いたりはしねぇよ。
「あーはいはいわかったわかった。口閉じてなさい手元が狂って口抉るわよ」
と鴉はバットよろしく例の鎌を振り上げた。
どうやら俺は自分の胴体とおさらばしなくてはいけないらしい。
今年も紅茶とポテトと評価を燃料に頑張っていきますので、よしなにお願いします。