落とそうとする者と落ちた者
いやはや、遅れてしまいすみません。
「なぁ、本当にこの壁の上なんてあるのか?」
段々と心配になってきた。なんせこいつが言うには第2宇宙速度とか言うあまり聞かない速度で飛んでいるのに、小一時間程着く気配がないのだ。確か、宇宙に出れる速度だったか?
鴉は壁の方を向いたまま、
「無かったらこんな無駄で嫌なことしてないわよ、仕事じゃなかったらいい具合の高度になったら落としてるところなんだから」
この状況でその冗談はキツイんだが。
「冗談?何いってんの。あんたもう死んでんだから問答無用で落とすわよ。死んでるやつがこれ以上死ぬわけないんだからね」
……こいつが公私を分けられるやつで良かった。二度も高いとこから落ちるのは御免だ。
言ってることはサイコパスのお手本みたいなことなのに顔は可愛らしい幼女ってのはなんというかギャップというより吹き替えみたいに感じてくるな。
死神ってのは全員こんなやつばっかなのだろうか?だとするなら上司らしい閻魔大王に同情を禁じえないな、こんなやつがいっぱいいる職場なんて地獄でしかない。
……本当に地獄なんじゃないか?
「なぁ鴉、お前n……」
「きゃあっ」
鴉はそう叫ぶと同時に何かを避けるモーションを取った。お陰で俺は一瞬俺の上半身は空に投げ出され……
「あっっぶねぇ!」
なんとか大勢は立て直しはしたが落ちてても不思議はなく、パラシュート無しのスカイダイビングは死んでもしたく無い。……まぁ、もう死んではいるのだが。
鴉の話を聞く限り多分だがそれ相応の痛みは来るんだろう。
死んでもなお痛みがあるってのは不便なもんだな。
つーかマジで落とそうとするとは……死神がこういうやつばかりでないことを切に願おう。
「マジで落ちるとこだったぞ?公私は分けるんじゃなかったのか?」
鴉は乱暴に振り返って、
「落とそうとなんてしてないわよ!後私そんな事一言も言って無いわよ勝手に捏造しないでほしんだけど!?」
いや確かに言ってはいないが……仕事じゃなかったら落とすってのはそういうことじゃないのか?
「だーかーらぁ!落とそうとなんてしてないって言ってるじゃない!あぁもぅしつこいと本当に落とすわよ!?」
これ以上言ったら本当に落とされそうだな。というか絶対落とされる。
「分かった、分かったから落とさないでくれ。ところでいま何があっt」
「ひゃあっ」
鴉がそう言うと同時に俺は二度目の強制スカイダイブ未遂をした。
「っっぶねぇぇ」
こいつ本当に落とそうとしてるんじゃあるまいな……何かを避けるふりをして落とすなんてこと位やりそうだから怖い。
「なに!?私攻撃避けるので忙しいんだけど!?」
攻撃?誰からの?
「ほら、あいつよ」
と、鴉の小さい指が指した先には、ジキル博士とハイド氏に出てくるハイドに角をはやしたようなやつが某バトルアニメのパワーを貯める体勢で固まっ―――うおっぶねぇ
「わっとと……たっくもうあっぶないわね。毎回思うんだけど死神とは言え神様に攻撃するなんて、あの鬼って奴らはどういう教育受けてんのかしら」
教育を受けていることすら怪しいんだが……
なるほどありゃ鬼か……思ったより小さいもんだな。
もっと仁王像みたいな筋骨隆々な体型を想像してたんだが、どちらかと言えば悪魔っぽい見た目をしている。
ところでこいつの避け方はどうにかならんのか?このままじゃいつかは落てしまう。
「だからぁ!落とそ―――」
「分かってるよ、だが事実俺は落ちそうになってるんだからしょうがないだろ?」
「別にいいじゃない落ちたって痛いだけなんだから」
痛いだけって……それが嫌だから言ってんだろうが。
「あぁもう面倒臭いわね……分かったわよ。ちょっととばすから落ちないでよ?」
とばすって……この壁の上まで行くのか?
「違うわよ。流石に私でもあの獣みたいなやつと戦いながら上に行くのは無理だわ。だからまず休憩所に言葉まんまの足手まといであるあんたをおいていくってこと」
休憩所なんてあったのかよ……つーかなんで最初かr―――
「舌噛むわよ!」
どうやらここまで登ってきたときの速度は本気じゃなかったらしい。
まぁとばすなんて言ってるんだからそりゃそうか。
ただ限度ってもんが有るだろ?
まさか落とされない為に休憩所に行くってのに、行く途中が行く前より危険だとは誰も思うまい。
実際、俺だって思わなかったさ。
最早恐怖よか呆れが勝っている。そうでもなきゃ腰より上が空にある状態でこんなに冷静な考察は出来てないだろう。
下をるとあの悪魔のような見た目の鬼は着いて来てるらしかった。
周りが真っ白なので黒っぽい鬼は見えやすく、白い服にちょっとはねた醤油みたいに見えたがそれ以上は小さくなっていないので同じかちょっと遅い位の速度であいつも飛んでいるんだろう。
俺だけであの何もない空間をほっつき歩いてたらそれこそ煮るなり焼くなりされてただろう。
こんなに鴉がいてくれてよかったと思えるとはな。
苦笑しようと思ったが口から空気が漏れるだけだった。
「はい、到着っと。……どんな体勢よ」
どうやら着いたようだ。
あの速さで同じ体勢を保てるならこんなところには来てないんだがな。
「はいはい、分かったわよ。10分掛からないから取り敢えずここで待ってなさい」
「了解」
「おとなs―――きゃあっ!?あぁもう話してる途中なのに空気読みなさいよ!はぁ、おとなしくしてなさい!」
忙しいやつだな……こんなやつに倒されるあの鬼に少なからず同情してしまいそうだ。
休憩所は東屋を少し広くしたような見た目をしており、入り口を真っすぐ行ったところに自販機が有るくらいで他に変わった点はないようだ。
「やぁ、坊や」
と、ボーっとしていたところを横から鴉よりは大人っぽいものの幼さが残る声で話しかけられた。
どうやら角にいたせいか死角になってて気付かなかったらしい。
「やぁ、君の名前は一体何と言うんだい?」
言葉を放ったその人は鴉と同じ服というより大きさが違いすぎて親子のペアルックと言った方がしっくり来る大きさの服を身にまとい、鴉と同じくらいの鎌を傍らに置き、微笑をこちらに向けていた。
大体同い年より少し上の見た目をしたその女性は、
「あぁ、すまない。まずはこちらから名乗るのが礼儀かな?私の名前は椿という。よしなに頼むよ。さて君の名前は?」
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