朧げな身の上と落ちた者
遅くなりすみませんm(_ _)m
……どれくらい経った?
鴉の背中を見ながらこの思考に至るのはこれで3回目位か。少なくともあの世に来たときの閻魔捜索より長い時間は経っている。
にしても長い……疲労しない身体とはいえ精神衛生的にはまずそうだな。なんせ状況も風景もこの場所に入ったときから何も変わっていないのだ。しかも風景は体感的数日前の真っ白ではなく寧ろその逆の真っ黒、それも奥行きが判らなくなる位のブラックホールのような黒。……鴉がいなきゃ発狂してたなこりゃ。危ない危ない。
ところで俺とこいつはなんでこんな道なのかなんなのかもわからん場所をを歩いてるんだっけか?
……一回思い出してみるとするか、そうしたほうが気も紛れるし振り返りってのはどんなときでもやるに越したことはない。
迷子にならないように気を付けつつ。
では回想モードスタート。
………
……
…
鴉と歩き始めて数時間が経過したところで鴉は沈黙にしびれを切らしたらしく、段々と饒舌になり始めていた。堪え性がないのは見た目通りなのか。ただその幼い顔から出てくる言葉は職場の愚痴やら同僚の愚痴やら見た目とのギャップが凄いものばかりだが。
「ところで鴉、聴いてるとあの世ってのは仏教の世界観であってんのか?」
鴉はしかめっ面のまま、
「なんで?」
「いや、『旅行とはいえ無間地獄には二度と行きたくない』だの、『神って結構優しいやつが多い』だの明らかに仏教の世界観だからさ」
「あぁ、そうでもないわよ。あんたが日本って宗教がちゃんぽんになってる国に住んでて一貫して信じてる宗教がないから、あんたの聞いたことのあるもので継ぎ接ぎになってんのよ。だって仏教の世界観なのに死神ってのはおかしいでしょ?そういうこと」
なるほど。だから極楽じゃなくて天国なのか、確かにあの世といえば天国と地獄って感じがするからな……じゃあこの真っ白な景観もそれの影響なのか?
鴉は一回周りを見渡してから、
「ん、あぁ、そうそう、あんたの知識が乏しいせいでこんな殺風景な風景になってんのよ。例えばあんたがキリスト教徒だったら、私は天使か悪魔になってたでしょうね。とはいってもこの名前は変わらなくて、自己紹介が変わるだけなんだけど」
俺の知識に比例してあの世らしくなるってことか。
……じゃあ地獄とかってどうなるんだ?無間地獄しか知らないんだが。そもそも天国なんて西遊記の天竺みたいなものが想像できるだけで特に何があるってのは知らないんだよな。
鴉は少し驚き、
「へー、あんたって何も知らないのね。死後の世界とかに興味がないのか?地獄とか天国とかは見てみないと分かんないわね。なんせあんたの知識なわけだし、知るわけないじゃない。だから、まぁシュレディンガーの猫みたいな?」
シュレディンガーの猫はなんか違う気がするが……ん?じゃあなんで閻魔さんはあの世そのものになってんだ?
俺の知識が元なら実体?いや、あの世だから霊体か?があるはずだろ。
「あーもう、そうじゃなくて、あんたの知識によって私達が何かに変わるって事で、例えるなら私達が役者であんたの知識が配役ってこと。あんたじゃなかろうと私達は私達のままだし、ここのシステムは、つまり閻魔様自体は変わらないの。名前が変わるってだけ。劇が変われば背景も変わるでしょ?そういうこと。あんたの劇には、つまりあの世にははっきりしたイメージが無いから真っ白になってんの。アンダスタン?」
アンダスタン、まぁ、なんとなくだけど。何回か反芻しないとちゃんと理解するのは無理そうだ。
「あ、そうそう、あんたさ19歳なのに大学生じゃないのはなんで?貧乏な家庭に生まれたんなら分かるんだけどあんたの家大して貧乏じゃないし、頭も大して悪くはないようだし」
ちょっと黙ったと思ったらいきなりだな。
「色々あったんだよ、つーかそのバインダーの中に書いてあんだろ?」
鴉は溜息を付いてから、
「あーもう、無いから聴いてんでしょうがっ」
ん?そもそもこの質問って何の意味があるんだ?
「分かりきった事聞かないでよ、暇なの!あんただって一緒に歩いてるんだし分かるでしょ?」
あぁ……それは分かっちゃいるんだが。なんつーか、話したくないってことを察せないのか?
「別にいいじゃない減るもんじゃあるまいし、あんたって死んでんでしょ?気にすることなんて無いじゃない」
それもそうだが……まぁいいや。
「えーとだな?大体17歳位……」
「いやそういうんじゃなくて、何があったのかが聞きたいの。まとめてくれない?」
えぇ……んな殺生な
「あー……映画に憧れて駆け落ちしようとしたら相手の親にバレてその後色々あって自分の親に縁切られて大学行く金がなくなったんだよ」
「なるほど頭は良かったけど映画に影響されてそれを実行しちゃうようなような馬鹿だったと」
辛辣だな……いや事実なんだけどさ。
「両思いの恋人が初めてできて何でもできる気がしてたんだよ」
鴉は少し考えてから、
「あんたはさ後悔してるの?その顛末に」
「そりゃね、それのせいでその後の人生大変になったわけだし、恋人、親、大学が一気に無くなったんだ後悔しない訳ない」
「へぇ……そう」
それだけ!?あんだけしつこく聞いておいて反応薄いな。
「いや、地獄に進んで行こうとするようなやつだから、もっと変な回答を期待してたんだけど……なんか普通だったから」
んなこと言われたって俺は至ってノーマルだし、そもそも天国に行きたくてあの悪人ホイホイにはまったんだが。
「ま、いいや、もうすぐ着くし。ある程度の暇つぶしにはなったから斬らないでおくわ」
斬られるところだったのかよ。思い出したようにツンザクにならないで欲しい。
いやはや自分が不遇な境遇で良かったと思う日が来ようとは……今後はないことを祈ろう。
「おっ、見えてきた見えてきた」
「……どこだ?俺には変わらない真っ白な地平線しか見えないんだが。お前目が良すぎないか?」
鴉は不思議な顔をして、
「いや、地平線なんて無いし。見えない?あんたの視界地面以外全部それで埋まってるはずなんだけど」
何いってんだ?俺たちが歩きだしたときからの殺風景な風景のままだぞ。
「いや何も見えねぇよ。変わらない俺の頭の中がずっと続いてるよ」
「自虐を挟まれても反応に困るんだけどさ。えー、あと15メートル先にあるんだけど見えない?」
なんでそんなに正確に分かるんだよ。俺には15メートル先どころか数十キロ先まで見えてるんだが?どの方向だ?俺の向いてる方向で本当に合ってるのか?
「……し、死神だしそれ位はね。つーか、さっきあんたの視界がそれで全部埋まってるって話したじゃない。その方向で合ってるわよ」
ところでそれってなんだ?名前を言っちゃいけない某魔法ファンタジーのラスボスかなんかなのか?
「ん?見えてると思ってたし別に名前なんて無いからそれって言ってたんだけど……いや普通にただのデカイ壁だよ?」
……壁?
中途半端ですが、次の話が早く出せるよう善処します。