小さい死神と落ちた者
遅れてすみません。肉付けに少々時間がかかってしまいました。骨だけのスケルトンな物語にはしたくなかったもので。
今なんて言った!?と俺が死神の方向へ首を向けると、死神は立ち幅跳びをするような姿勢をとっていた。
死神の言葉を反芻する時間は無さそうだ。
「あっ、腕掴まないでよ全力で跳べないじゃん。何?私さっさと報告してパフェ食べに行きたいんだけど?」
あの世にパフェなんてあるのか?……いや、今そんなことはどうでもいい。
「おい、さっき地獄を楽しんでって言ったのか?どういう意味だ?」
「は?…………あれ?あんたって日本人よね?地獄って知ってる?」
なんだその質問?馬鹿にしてんのか?つーか質問を質問で返すなよ。
「いや、言語が違ったのかと思ってね、もしくは地獄って存在を知らないのかと思って」
じゃあ馬鹿にしてるわけではないのか?もしかしたら俺って怒りやすいのかもな。
「俺が聞いてんのはあの言葉を言ったお前の意図だよ」
すると死神は首を傾げて、
「いや、意味も何もそのままの意味だけど……あんた本当に日本人?日本語学びたての韓国人とかじゃない?」
「ちげぇよ、俺は日本生まれの日本育ちだ」
……つーことは、こいつは俺が自ら進んで地獄へ行こうとしてると思ってやがんのか?
こいつ本当に死神か?地獄がどういう場所かは……いやあの世がこんなんだから想像したところで合っていない気はするが、少なくとも俺が想像できる範囲ベーシックな地獄だとしたなら少々怪しくなってきたぞ。
つーかなんで俺が地獄なんかに行くことになってんだ?
死神は眉間に小さくシワを寄せながら、
「はぁ?あんた行きたがってたじゃない、なんで切符を破ったんだだの5円返しやがれだの言ってたのはあんたでしょ?」
いや、後者はお前だろ……
「つーか行き先が違うんだよ俺が行きたいのは天国であって地獄じゃない。お前の破った切符にも書いてあっただろ?天国行きって」
死神はシワを寄せたままの顔で首を傾げ、
「何言ってんの、あれ地獄行きよ?」
「は?」
「え?」
地獄行きっつたのか?あれ?俺さっき切符に天国行きって書いてあったって話したよな?俺が見間違えたか?
死神はありえないものを見ているような顔をして、
「あんたまさかあの切符で天国行こうとしてたの?……まじ?」
「いや、切符に天国行きって書いてあるんだしそりゃそうだろ、そもそも券売機に天国以外が無かった訳だし……つーかあの切符が地獄行きだとしたら天国ってどうやって行くんだよ?」
死神は、数秒の硬直の後「はぁ……」と溜息を付いて、
「あのさぁ……聞くけどあんたはどうしようもない悪人も天国に行かせるっていうの?天国と地獄じゃなくて天国が地獄になっちゃうわよ」
「んん?聞く限りは地獄への行き方は分かったが、それなら天国へはどうやって行くんだ?」
どうやら段々ムカついてきてるらしい、死神は頭を乱暴に掻いて、
「あんた、絶対国語のテストの点数低かったでしょ。はぁ……あたし達死神はなんのためにいると思ってんの、ちょっと位頭使って言葉放ちなさいよ」
成程……こいつ目線だと俺を天国へ案内しにきたものの俺は地獄へ行こうと熱望してたってことになるのか。変人かな?自分のことだが死神が早く帰りたがっていたのにもよく分かる。
死神はさっきのバインダーをペラペラと数ページ程めくっから、
「えぇと……じゃああんたは天国へ行きたいってことでいいのね?」
俺は最初からそのつもりで話してたんだが……日本語って難しいな。
「あぁ、地獄なんかにゃ行きたくない」
すると、マニュアル通りに物事が進んでることに喜んでんのか死神は俺に初めて笑みを見せ、
「了解っ」
喜怒哀楽が忙しいな……喜怒だけだが。
こういう年相応の顔もできたのか……ん?死神って歳のとり方とかどうなっているのだろう、少なくとも見た目通りの年齢ではないんだろうけど、もしかしたらこいつの年齢が俺より上という可能性もあるってことだよな?
つーことは、期せずして熟女に可愛いと思ってしまっていたという可能性もあるわけだ……マジかよ。
「なに考えてんの?言いたいことがあるなら言ったほうが良いわよ、こっちだってここで悔いは残されたくないしね」
「あぁ……えー……あっ、そうそうお前のことなんて呼んだら良いかと思ってな」
本当のことなんて言えるはずないだろ……相手は武器持ってんだぜ?下手して切れられて斬られたら洒落にならん。
現世では死神に斬られたら地獄に落ちるなんてゲームの設定ではよくあることだしな。まぁ、天国に行く前に仲が良くなったら自然な感じで聞いてみるか。
「ん?あぁ、自己紹介がまだだったわね。鴉よ、職業はさっき行った通り死神をしてるわ」
鴉?死神とはいえ女性に付ける名前なのか?付けたやつは随分死神に対するイメージが現世よりになってるらしい。
「私この名前嫌なんだけどね、まぁ、上司に付けられたわけだから不平不満が言えるわけないんだよね」
上司?仕事って言ってるくらいだから上司はいるんだろうが死神の上司?
「分かんないの?閻魔様よ閻魔様」
なるほど、それなら死神のイメージが現世によるのもなんとなく分かる気がする。
そう言えば閻魔様はどこにいるんだ?そいつに俺は天国か地獄かどっちに行くか決められるわけだろ?そもそも、俺は閻魔様に会おうとあの世をさまよってここに着いたんだっけ?
「閻魔様がどこにいるか?知らないわ、というか閻魔様って実体がなくって、言っちゃえばあの世の意思を持ったシステムみたいなものなのよね。というか、あの世そのもの?だから、どこにもいなくてどこにでもいるって感じかな?」
なるほど、そりゃ文句なんて言えないか。てことはあの数日間は無駄だったわけだ……いやまぁ、別に死んでるんだし時間が無駄とかはどうでもいいんだけどさ、でも数日かけてやってたものが無駄だっていうのはなんというか辛いものがあるな。
鴉は溜息を付いてから、
「いや、あんたがここまで来たから私が見つけられたんでしょ?」
「ん?あぁ……それもそうなのか?そういえば、お前良くこんなに広い場所で俺を見つけられたな」
鴉は少々の硬直して、
「ま、まぁね長く死神やってりゃそれくらいできるわ」
返答がぎこちない気はしたが、まぁ、気にしてもしょうがない。
しかし、慰めてくれるとはこの鴉という死神は思ってたより優しいらしい。ツンデレってやつなのか?持ってる武器からしたらツンザクって感じがするが。いや、これじゃただの人を切りたいだけの狂人か。
ともかく礼は言っておこう。減るもんじゃないしな。
「まぁ、なにはともあれ見つけてくれてありがとよ」
「はいはい、どーいたしましてっ。仕事だから当たり前だけどね」
テンプレみたいなツンデレだな……狙ってんのか?
「はいはい、それじゃ行きますよー」
鴉はバカでかい鎌を添乗員の旗さながらに持ち上げそう言った。やはりこいつ見た目相応じゃないにせよ俺よりは年下なのではないか?……いや、それは後で答え合わせができる、ここは現世じゃないんだしいくら考えたってしょうがない。それよか見失わないよう気を付けるのが先決だ。
俺が天国へ行く為に。
早めに出せるよう善処します。