黒いやつと落ちた者
明けましておめでとう御座います。
お久しぶりです。
言い訳は本編の後に……
彼方の頭を持っていた。
この場合使うのはルックライクではない、文字通りハブの方だ。
彼方より背の低そうな、その黒い人形の何かは手に虚ろな顔をした彼方の頭を持っていた。
血が滴っている。
まだ滴ってるってことはここに来る途中で切ってきたってことか?
なんだか混乱が裏返ったように変に頭が冴える。
……これが賞品?
流石閻魔と言うべきなんだろうか?見事に人間から趣味がズレまくっている。
恋人の生首が商品になるのか……閻魔凄いな。
普通だったら悲鳴でも上げるべきなのだろうが、自分で殺してるってのもあるからか思ったよりそこまで悲しくないし、驚きもしてない。というか、新しい人?に会えたことに嬉しさすら感じている気がする。この場合は会えたと言うよりは遭えたになる気がするが。
俺は黙りこくる人形まっくろくろすけから目を話さないようにしつつ、なるべく歓迎したような声で、
「えぇと、……どちら様でしょうか?」
言ってみた後に気づいたが、なんで首持ちながら歩いてるのに誰の悲鳴も聞こえない?一応そこ真っ直ぐな廊下のはずだぞ?
……閻魔パワー的な感じってことにしとくか。考えてもしょうがなさそうだ。
ところでまだ口を開かないつもりなのだろうか。ドアを開いてから五分くらい経ってる気がする。口どころか全身を微動だにしていない。
口が無いとかか?
つーか閻魔も喋ってないし。何の時間だこれ?
「えーとさぁ、なんでそこ見つめ合ってんのぉ?」
閻魔が楽しげに聞いてきたが、んなもの俺には分からん。このカオナシもどきに聞いてくれ。
「えぇ、っていうか勘違いしてるようだけど生首を賞品にしたりしないからね僕ぅ。修羅でもしないよぉ。閻魔を何だと思ってるのさ?酷いなぁ」
俺の思考に対する返答を来訪者にも聞こえるようになのか閻魔は耳に聞こえるよう言っている。
そんなら賞品ってのは何だよ?
この黒子が持ってんのは血の滴る新鮮な首と、……太刀って言ったか?ともかくでっかい刀くらいだぞ。
因みに刀をもらっても嬉しくはないからな。
「あげないよぉ、それはその子の物なんだから。とは言っても賞品はその子なんだけどねぇ」
もっと嬉しくない答えが帰ってきた。
こいつに殺されりゃ良いのか?それでこのループが終わるんならこれ以上無い賞品ではあるが。
「んー、もうちょっと生存意欲出してもいいと思うんだけどまぁいっかぁ。ところで、えー何だっけ?同じような名前を付け過ぎたせいで忘れちゃったけど君はなんで喋らないのさ?」
口が見えないが本当に話せるやつなんだろうか?
「いやいやぁ、口はあるし喋れる……ん?あぁなるほどねぇ、それは解るけど仕事とプライベートは分けないといけないと思うんだけどなぁ、ってか閻魔って一応君の上司なんだけどなんでその閻魔にそんなにピリピリしてるのさぁ。もっとほんわかした雰囲気出せないの?」
黒ずくめの来訪者も思考で会話してるらしいが、本格的にこの黒子が何をしたいのか解らなくなってきたな……
閻魔の話を聞くに口はどこかにあるらしく話せるが話してないってことだろ?
ほんわか云々はさておき、言葉を発してもらわない限り閻魔じゃないんだから意思疎通はできない、もしかしたら閻魔みたいな芸当ができるのかもしれないが、もし閻魔と一緒に頭の中に語りかけられたらシナプスが焼き切れる自身がある。
まぁその死に方でこのエンドレス病院生活が終わるなら望むべきことだが。
「和正も、傾国の美女と表現したくなる程の美しいお嬢様、その神をも降りるような美声をお聞かせ願えませんでしょうか。って言ってる訳だしさぁ、ここまで言われたんなら喋らないと失礼だと思うんだけどなぁ?」
言ってねえ。
ってかこいつ女なのか?どことは言わないが平たいぞ?
「和正ぁ、流石にそれは言っちゃ駄目だと思うなぁ、部下のためにもう数億回位巡ってもらってもいいんだよぉ?」
失敬、いやはやどうやらちゃんと見れていなかったらしい、こんな可愛い美少女は見たことがないなぁ、うん。
数億回もループしたら人のカタチを保てなくなる気がする……
「人のカタチは保つけど心が保てるかってとこだよねぇ。んで、お使いを任せた君?このままだと和正と地獄でランデブーって感じになるけどいいのか――――」
「嫌です」
即答だった。
最早被さっていた。
あんなに頑なに口を開かなかったのに、瞬きの間に開きやがった。
俺だって、こんな得体のしれないやつと得体のしれない無間地獄で二人きりってのは嫌だが、こうも意外に可愛い声で即答されると壊れかけてる心にグリッと抉るものがある。何故か慣れてるせいでそこまでの傷にはならなかったが。
「正直でよろしい。まぁ嘘ついたら舌抜くんだけどねぇ。この体ペンチは持てないんだけどねぇ。んじゃまぁ戯言はさておいて、賞品の方よろしくねぇ。ちゃんと仕事はこなさないと地獄行きだからねぇ、それじゃまたね和正」
どうやらここで閻魔とはお別れらしい、もう二度と会いたくはないが。
ただ、助けてくれたことには間違いない訳だし、感謝してあげないこともないんだからね、って感じだ。
「社会人のツンデレとか誰に需要があるんだろうねぇ?それを罪状に地獄に落とせないかちょっと考えちゃったから二度としないでね。それ」
不評だったか、このネタはお蔵入りどころか焼却処分しないとまずそうだ。俺が地獄に焼かれかねん。
あとそこの黒ちび野郎がなんだか少し嬉しそうなのは気のせいだろうか。
顔も見えず微動だにしてないやつの心情が読み取れるはずもないから俺が疲れてるだけなんだろうが。
「んで?結局君はブラッディー何なんだ?」
ともかく話さないと何も始まらない訳だし一応話しかけてみる。
メアリーでないことは確かだが。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
凄いでかいため息を返された。
もしかして名前がブラッディー・はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁなのだろうか?
「あ”あ”もう、なんで結局二人っきりにされるの?なんなのあの鬼上司、名前通りの性格してんじゃないわよ!ってかなんで首持ってるだけで人殺しの名前になるのよ?頭おかしいんじゃないの?」
血まみれの頭を持ってるやつに頭おかしいって言われた……
いや、持ってる時点でその彼方の頭の状態は異常だけれども。
これ以上無いほどに異常だけれども。
何ならここにある頭の全てが異常である可能性があるけれど。
ここは地獄なのだ、どうやら常識が違うらしい。
元来舌を抜いたり、針山に落としたりするような場所にて殺しはむしろ救いみたいなものと言っても間違いではないのかも知れない。
地獄で死んだら現世に戻る的な話をどこかで聞いたような気がしなくもないしな
「なんだろう、すごい勘違いをしているようでとてもムカつくんだけど、あのねぇそもそも首持ってるってだけで冤罪ふっかけられたら堪ったもんじゃないわよ。ただ単にせーとーぼーえーしたってだけ」
過剰防衛甚だしいし、そもそも首持ってるなら死体損壊とかそういう罪の現行犯なんではなかろうか?
地獄なんだから罪もなにもないか。
兎も角
「で?こんなところで首持って何してんだ?鴉さんや」
落ち込みようがチャレンジャー海溝みたいになってるフードを深く被った鴉に俺は問うた。
地獄にいて俺のことをここまで嫌う奴を俺は一人しか知らないし、こんなのが何人もいたら閻魔さん過労死しちゃうからな。
「閻魔様からの話聴いてなかったの?言ってたでしょ、賞品を持ってきたのよ。もしかして首のほうが良かったりする感じ?」
「んなわけ無いだろ首狩り族じゃあるまいし」
鴉という名前を否定しないのと、覚えていないとは言え仮にも俺の恋人の首をジブリの雨傘の如く差し出してきてるあたり、ここに落ちる前に見たツンザク少女で間違いないようだ。
「あれは儀式だから別に首が好きって訳じゃないらしいわよ。浅学は身を滅ぼすってどっかの偉人が言ってそうだけど、あんたはいつ滅びるのかしら」
毒舌も顕在で内容は不穏なのになんだか安心できる。
「滅びねぇよ。んで?その賞品ってのが恋人の首じゃないんだったら何だよ?まさかお前という話し相手じゃあるまい?」
選択肢を間違えたらしく、鴉は少々怒りを二割増しくらいにしつつ、
「何が悲しくて地獄まで来てクズ人間の話し相手にならなきゃいけないのよ」
そりゃ、仕事なんだろうから悲しくとも悔しくともやらなきゃいけないだろ。上司があれなあたり労働に強制と付きそうだが。
鴉は俺の口に出さない正論をよそに二割増分の毒を吐く、
「そもそもね、ここに来る事自体嫌なのに、トラウマってくらいに嫌なのにその上関わりたいランキングダントツのワースト一位独走中なあんたのために来なきゃいけないの?私の地獄はここなのかしら」
一段落ついたらしい。まぁ、うん嫌なんだな。それは置いておいて、
「誰の地獄もここだろうよ。で、だ。俺のためにもお前のためにもさっさと終わらせるためにその賞品ってのが何なのかをさっさと教えて、なにかするんだったらそれをさっさとしちまおうぜ。まだここに居たいってんなら俺はお前を説得しなきゃ――」
「んな訳無いじゃない!言って良いことといけないことがあることぐらい解りなさいよ……」
食い気味に怒鳴った鴉はなんだかこれまでとは違うような、怒りの割合が八割で残りがきっと本人にしか解らないような感情の顔だった。
なんだこいつ。……いや、最初から意味は解らんが。
「…………ハイハイ、そりゃあ気付けなんですまなかったな」
不本意だが謝らなきゃ首を絞められても喋りそうにないもんだから謝ったが、果たして俺はどこが悪かったんだ?
鴉は憮然とした表情で、
「ッチ…………………これよ」
口が広いポッケからちんまりとした手に包んで差し出してきたのは、少し濁ったベースの中に様々な色の入っている大きめのビー玉のような球体だった。
蜻蛉玉というものをいつかテレビで見たことがあったがそれに似ている。確か蜻蛉玉ってのは高値で売れると聞いたからこれも高値で売れそうな風光明媚な見た目をしているわけだが、これを売ったところでいつもの期間が終われば意味がないのだから、十中八九何かに使えばいいんだろうが、何に使うんだ?
ここで渡されるあたり割れば元いた場所にワープできるあなぬけのヒモ的なアイテムな気がしてるが。
「……あぁもう!さっさとしなさいよ、こちとら長丁場だから一秒でも早く仕事を終えたいんですけど!」
しびれを切らしたらしい鴉が詰め寄ってくる。
俺は閻魔みたく思考は読めないんだがな。
「これって言われて渡されただけで解るほど聡くねぇよ。これをどーしろっつうんだよ」
「はぁ?こんなにそれっぽいもの渡されて使い方も解んないの?ゲームやったこと無いお坊ちゃんとか、香川県民でも知ってるわよ?……はぁああ、もういいわよ解んないのね?じゃ後学のために覚えときなさい、こういう明らかに重要そうだけど見た目からじゃ使い道のわからないちっちゃいアイテムはね……こうすんのよっ!」
と、まくし立てられ、どうするのかと気になって、鴉が近づきすぎて上を向かざるを得なかった首を鴉の方へ向けてみれば――
あら不思議。こいつと遭ったときと同じ景色が目の前に広がっていた。
まぁ広がっていたのは鴉の掌だったんだが。
それはともかく、こいつが唐突に掌底アッパーを繰り出した理由は、ただ単に蜻蛉玉の如き綺麗なあの球体を口の中にブチ込むというためだけであり、狙い通りか期待外れか、俺の口の中を過ぎ驚いた喉はその異物を通過させていた。
生体反応としての咳と、大きめの異物を通過させた違和感に少々の吐き気を催しつつ、前回と同じように、
「何しやが――――!?」
デジャブとはいかなかった。
自分の頭蓋をそっくりそのまま材質を変えずに除夜の鐘代理をしているような痛みが唐突に襲ってきてるのだからそんな場合ではない。
倒れ込みどうにかして痛みを和らげようと頭をダブルミーニングで抱えるが、もちろん脳外科でもない俺にどうにかするす術はなく、ただうめき声をあげうずくまる奇人が完成した。
「…………はぁ」
鴉さんや、あんたのせいでこなっているんだろうからそんな溜め息吐くことないでしょうが。
と思ったのも束の間、ふっと鴉がしゃがんだかと思えば俺の腕を掴み、柔道の投技を覚悟した俺は、痛みで思考も何も出来ないので覚悟だけしておいていると。
何ということでしょう。鴉が俺を部屋のベッドに置いたではありませんか。
このベッドが実はミミック的なモンスターだったりするのかもしれないという警戒をしつつ、横たわった身体で苦悶の表情を浮かべつつ鴉を見上げると、
「そんなに睨むことないでしょ?私は何をしようって訳じゃないわよ。ただ、辛いってのが解ってるからベッドに移動させただけ。別に何もおかしなことはしてないと思うけど?」
行動自体は人道的でおかしくはないんだろうが、問題はその人道的な死神とかいう不可思議な状態になった鴉である。
おかしくなきゃ苦悶の表情をお前に向けたりはしないし、ミミックに怯えたりもしない。
なんて人間の許容を大幅に超えたような激痛の中では口に出せるわけもなく。ただ、しかめっ面に見えなくもない表情を鴉に向けていた。
「あぁもう、分かったわよ。信頼できないってのも理解は出来るしね、それじゃあ、閻魔様に誓いでもすれば信じてくれるでしょう?…………はぁ、ってことでここに私、鴉は『古山和正にこの空間に於いて攻撃しない』ことを誓います。これでいいかしら?」
閻魔に誓うのならまぁ問題は無いだろう。こいつの上司だしそもそもここの神様だしな。
にしても痛い。初撃ほどの痛みは今無いが波みたいな感じか?
ゴム製のおっもいハンマーで殴られ続けるような痛みが続いているがこれでも思考出来るくらいには痛みが引いている。これなら寝ることは出来なくても目を瞑って安静にすることくらいなら出来そうだ。
あわよくば寝ようか。望みはかなり薄だが。
そんなことを脳内で独り言りつつ目を閉じた。
まずは久々の投稿を読んで頂きありがとう御座いました。
多分この話を書いている中、一番長く時間を開けての投稿で読んでくれる人がいるかも怖くなっている今日このごろなのですが、これを読んでくれているということは本編を読んだか読む気が有る訳で。そんなあなたに感謝を禁じえません。
という訳で、言い訳をするとしましょう。
前言撤回甚だしくて申し訳ないのですが、言い訳するとは言っても、「時間がなかった」というくらいの時間が有っても無くても言えそうなものしか無いのです。
光陰矢の如しと言うよりかは光陰レールガンの如しと言ってもいいほどの速さで時間が過ぎ、気付けばこんなに時間が経ってしまっておりました。
もしかしたらイタリアのどこかで背後霊みたいなやつの能力を発動させている輩がいるのかもしれません。
まぁ、ダージリンが美味しいのでなんでも良いですが。
ということで改めまして次は早めに出そうと自戒しつつも、読みに来てくださった方へ感謝の念を送らせて頂きます。
ではでは。




