死に体と落ちた者
いつも通りの〆切超過ですが何卒許してつかぁさい。
そしてまたもやお詫びとしてはなんですが拙い文が長くなっております。よしなに。
閉じたまぶたの外側に明かりを感じ、憂鬱になりつつも目を開け体を起こす。
さて?今回は何回目だったかね?
両手の指の数からはみ出て以降数えてなかったくせして、毎回不思議と同じような事考えてんのは何なんだろうな?
もう覚えちゃいないが。
お……そういえば後20秒位か。
―――――カタンッ
テンプレのごとく、何回もした通り窓の外を見ていた自分の顔を反対側へ向かせる。
「あ…………和正ぁ……」
いつも通り、彼方がドアから一歩部屋に入った位置で泣きそうになりながら立っている。
『おはよう、彼方』
自動的と思えるほど自然と口からいつもの言葉が出る。
やはり夕方におはようというのも変な気はするが、この言葉のお陰で絶世の美女に抱きつかれているこの状況を手に入れられてる訳だし何も言うまい。
感動の味は薄くなりつつあるが、これ以上に味の濃いガムが見つからなかったんだ仕方がないだろ?
さて、あと数週間頑張るとするかな。
何回目かはもう既に忘れたが、随分前から決めてある目標を達成しなければ。
まぁ、失敗することなんてイレギュラーが無い限りは殆ど無いだろうから、いつも通り終えるだけなんだがな。
出来るだけ幸せな数週間を過ごした後なるべく苦しまずに死ぬ。という目標を。
――――で今その数週間が終わって死んだ訳だが。今回はなかなか凄惨な死に方だったな。
割と今までの中で五本の指に入るくらいには酷かったかも知らん。
まぁただ、今までの死に方を全て覚えてる訳ではないから確かなことは言えないけど。
つーか自分の死亡シーンなんて何個も覚えてたら気が狂うだろ?人間ってのは忘れることで精神の安定を図ってんだろうな。
因みに今回の死因は、上から大型クレーンが落ちてきて圧死?あれって圧死でいいのか?そこは判らんが取り敢えず上から花瓶の如くクレーンが落ち、頭にジャストヒットって感じだな。
お陰で彼方の声が聞こえなかったのは悲しいが、一瞬で死ねたのは良かった。
今までの中で数時間ほど生き存えたくせして病院で死んだ時もあったんだ、あれよか数倍いい。
だって瀕死の状態がずっと続くんだぜ?冗談じみた痛みが永遠に続くかと思ったわ。
あれだけは二度とゴメンだね。彼方に頼まれたら少しは悩むが嫌なものは嫌だ。
そろそろ意識がはっきりしてきたな……このタイミングだけは何度やってもよく分からない。
まぁ、どのタイミングで起きても、彼方が来るまでに起きてればほとんど変わりはないのだが。
とはいえ何度もこのループをしていると、楽しみがこういった差異しかなくなるってのはどうにかならんもんかね?
さて?そろそろ起きるか。
寝てる状態で彼方が来てしまうと、その後の差し入れが無くなったパターンがあるからそれは避けたい。
今回は何をリクエストしようか?
――で今回も死ぬと。
なんだかやり尽くした乙女ゲーム感があるな。
異世界転生系で乙女ゲームの世界に行くってのはよくある話だが、現実がそのまま乙女ゲームと化すのはなかなかないのでは?
まぁこの乙女ゲーム不可避のゲームオーバーがある上、スタートからそこまでの道のりが短すぎるんだが。
いわゆるクソゲーってやつか。
人生はクソゲーって言葉があるのは知ってたが比喩じゃない状況になるとは思わなんだ。
今回は覚醒までなかなか時間がかかるな……十数回に一回こういうのがあるのは知ってるが今回はその中でも少し長めみたいだ。
振り返りでもするか。
振り返りはしてて悪いことはないからな。暇つぶしにもなる。
とは言っても思い出せるのは嫌な思い出だけだが。
前言撤回、悪いかもしれない。
一番悪い思い出はどうにかしてこのループから抜け出そうとした自分が何をトチ狂ったのか、彼方を最初に会った時に振ったやつか。
焦って開口一番に別れを切り出したお陰で、彼方は理解できなかったのか、したくなかったのか、「うん」とだけ酷くか細い声をひねり出して振り返って帰っていった。
次の日も来はしたが酷く憔悴した様子で、そんな彼方にまたもや何をトチ狂ったのか、もう引き返せないなんて自己正当化を謀って別れ話を切り出した。
思い出しただけで自分を殴りたくなるな。
今ならリスカする奴の気分が解る気がする。
まぁ解ると言うより、一回したことがあるけど。
とはいっても、インターネットに転がってるような浅く切るような人に見せつける用のリスカではなく、本来の出血多量で死ぬ用のリストカットだ。
十数回か前までは死ぬことでこのループから抜け出そうとしていた訳だからな。
リスカもその一環というわけだ。
勿論、今こうやってループしているということは、心臓に果物ナイフを刺しても、桶に入った水で溺死しても、窓から飛び降りても、首を吊っても、リスカしても、ループの最初に戻ってきたという訳なんだが。
どうやらこの世界は生きるどころか、俺に自殺すらさせてくれないらしい。
だから俺はこうやって楽しませてもらうことにした。
詰んでるのにいつまでも王将を取りに来てはくれないのだから、盤上の駒で遊んだって文句を言われる筋合いはないだろう?
そもそも一度取られた王将を戻してこの状況なんだ。こんなことして何が楽しいんだろうな?
俺は楽しみ方を見つけられたから良いが、それのお陰で神様からしたらずっと同じ短編読んでるようなものだろ?
こんなことをしている暇があるのならさっさと次のゲームを始めたほうが楽しいだろうに。
神様ってのは物好きらしい。
――おぉそろそろか?
それじゃあ今回のループも頑張るかな。
今回は疲れたな。
まさか上から通り魔が降ってくるとは思わなかった。
そいつが飛行石を持ってたら良かったんだが、無論現代社会に飛行石なんてないし、俺は炭鉱夫じゃない。
そもそも女の子ならともかく、五十路位の絶望したおじさんをお姫様抱っこできる程に俺の守備範囲も胸も広くない。
挙句の果てには切れ味の悪い百均の包丁らしき刃物で滅多刺しにされたし。
今でも脇腹が痛い気がする。
二度とあの道だけは通りたくなくなったな。
なんだか最近ここの時間が長くなってきたか?
最初の方の記憶では長くて数分程で次のループにいってた筈なんだがな。
最近は数時間なんてザラだ。
数回前だと体感時間で一日位の時もあった。
まぁ何時間だろうと、やることと言ったら決まって今までの振り返りなんだが。
ところで、そろそろ百回は超えたんじゃないか?
いや、俺は割と感覚的なところが大雑把な節があるから、もしかすると五十回位までしかいってないのかもしれないことを否定はできないが。
とはいっても数えたところで何をしようとも記念に祝おうとも思わない訳なんだが。
この回数はイコールで自分の死亡回数なわけだからな。
これで祝い始めたらもうダメかもわからんね。そしたら誰か頭でもひっぱたきに来てくれ。
ただこんだけ死んどいて狂ってないあたり、まだ大丈夫ではありそうだが。
人が狂う時ってのはどういう状況なんだろうな?
ネットとかじゃ眠れなかったり、無音だったり、真っ白な空間に閉じ込められたりすると人は狂うって言うが、実際に狂った人を見たことある訳じゃないからなんとも言えないんだよな。
狂うってのは人がどうなるのを指してるんだろうか?
どうなればその人は狂ってると言えるのだろうか?
例えば、冬場の公園にて四十歳くらいの男性が裸で踊っていたならそれはきっと狂っているのだろう。
でもそれが誰かに脅されていたなら、それは狂ってると言えるのか?
例えば、真夏の駅前にて二十歳くらいの女性が大爆笑しながらシューベルトの魔王を歌っていたならそれもきっと狂っているのだろう。
ただそれをすることで莫大なお金が手に入るなら、それを狂ってると言えるのか?
例えば、極寒の体育館にて七十歳くらいの男性が部外者なのに勝手にピアノで滅茶苦茶に民族音楽を弾き始めたらやはりそれも狂っているのだろう。
しかしそれをすることが生きることだと長い人生で分かったのなら、それは狂っていると言えるのか?
…………んん?あぁ……なるほどこれが狂ってるということなんだろうな。
俺はもう狂ってたのか。
いやさ、そりゃあ何十回と自分が死んだことを理解しておいて狂わない筈がなかったんだよ。
その点で言えば俺はまだ正常な人類だったってことだ。
狂ってはいるが。
忘れることで狂わずにいられる訳なんてなかった。
狂ってることに気付いたことを忘れてたんだから。
まぁ忘れてるから予想でしかないけどね。
これに気付けないほど馬鹿じゃないと思いたい限りだ。
いや、気付いたところで何か変わるわけじゃないけど。
気付いたところでしょうがないし、寧ろ次のループで気分が八割くらい憂鬱になる。
振り返るのやめよっかな。
でも他にやること無いしなぁ……
噂をすれば影がさすだったか?
なんとやらってやつの方を見たり聞いたりしすぎてこれで正しいのか判らなくなってきた。
ともかく次のループがもうそろそろらしい。
この時間に次までに何をするか考えておくとしよう。
――飽きた。
……いよいよまずいな。
これを考えるのは片手じゃ数えられなくなってきた。
ここでの思考も、ループの生活も、言ってしまえば走馬灯すら、飽きた。
前代未聞だぞ走馬灯に飽きたって。
しかもその走馬灯、ものの一回も走馬灯の意味を成さないし。
どうするか……っていう思考も五回以上してる訳なんだけど。
飽きた、寝る!ってできれば良いんだけど寝た状態からスタートするから意味ないし、そもそもそういう問題じゃないし。
いくら考えても思考が空転する。
頭が思考を放棄しようとするのを引き止めるので精一杯という感じだ。
暇に殺されるっていう状況をここまで知っている人もそうそうおるまい。
いたら仲良くなれそうだ。
駄目だな思考がよく分からなところに散らばってる。
思考が現実を見たがらないでそっぽを向いている。
ジムリーダーのバッチが足りなかったか?
あぁクソが!また違うことを考えやがる。
どうすればいいんだ?
どうすればいい?どうすればいい?どうすれば?どうすれば?どうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすれば?
――ッ!?今回はずいぶん早い。
対処法が見つからない以上長くても困るから良いが、本当にどうすれば良いんだ?
自殺はもうした、彼方を振ったこともある、狂人ぶったこともある、オカルト的なこともした。
何度も何度も何通りも同じことをしないように。
そこまでやったのにこれ以上何をしろって言うんだ?
何度かも知りたくないほどに見た白いように見える天井
何回目からか黄ばんでることに気付いたから白いように見えると改めることにしている訳だが、これによってなにか変わった試しがない。
で?自殺以外にすることもない訳だが、奇でも衒ってみるか?
自分殺人事件みたいな。
いや、まぁそれはただの自殺なんだけど。
人殺しをするのにここまで心持ちが穏やかなやつもおるまい。
ん?…………あぁ、うん、あったなやってないこと。
やりたくなさが限界突破してるけど。
当たり前だ、したい訳がない。
思考時間が短かったことが今は恨めしい。これが正解ってことなんだろうか?
だとしてもやりたくはない。これをしてしまえば人じゃなくなる。
いや、元々こんな事になってる時点で人ではないか?
…………もうそろそろか、うん、しょうがない、しょうがないんだ。どうせこれでも無理なんだろうしな、次のループになれば元通りなんだ。何も案ずることはない。
深呼吸をする。とても深く。
病室のドアがやけにうるさく開く。
俺は近づいてきた凪の首を絞めた。
強く、強く、首を締め折るように。
何か言っているが、うまく聞こえないし覚えていない。
抵抗が弱いような気がした。多分気の所為だろう。
これから死ぬのに抵抗しないやつは俺みたく人間じゃないやつなんだから。
殺せた。
だからといって得られたのは女性の死体だけで、それ以外には手に残る生暖かさと虚無感みたいな形のないものってところだ。
……よし、死のう。
これ以上に何も考えたくないし、何も考えられない。
……ここから飛び降りればいっか。
窓を開ける。
夕焼けが眩しい。
風が心地良い。
……何をしてんだろうな。
凪を殺してこのループを抜け出せたとしてその後の人生は何もなくなってんのに。
きっと焦ってたんだろうよ。
そういえばこうなる前はあの世にいたんだったか?
あの世から戻ってきたら生き地獄とか冗談でも笑えないな。
あぁ、何度も死んでるし生き地獄ではないか?
もうここが地獄じゃないかと思いたくなるな。
そろそろ死ぬか。
一瞬の浮遊感と背中に感じる衝撃
自殺ってのは何度やっても上手くいかない。
頭からだと即死できるらしいがどう足掻けど上手くいった試しがない。
これだと出血で気絶まで二十秒くらいってとこか。
周りが騒がしい。人の姿はよく見えないが野次馬が寄ってきたようだ。
首筋あたりまで広がってきた血の温みと、弱くなる心臓の鼓動を感じつつ俺は目を閉じた。
ただいま。
――というほど愛着がある訳ではないが。
まぁただ、この空間に戻ってきたということは、まだあの地獄が続くということだ。
いや、ここがもうあの世だという説も捨て切れはしないが……結局ここに来る前のやつは夢だったんだろうか?
夢じゃなかったならここがあの世という説も現実味を帯びてくる気がする。ここ真っ黒だからな。
あの世という時点で現実味もクソもないか。
……で?次はどうやって死――
っと今回も早いな。ループのシステム自体が一周したのか?
まぁ、時間は無限なんだ死に方を考えながら死ぬとするか。
何度も見た天じょ――
『大当たりぃー』
――どこからかジブリの映画の台詞みたいな声が聞こえたが、なんだ?ついに幻聴まで出てきたか?
……そういえばループの中でジブリの映画を見たことはなかった気がするな。
まぁいいかどうせやることになってたことを先にやっただけなんだ。罪悪感はあるが悔いはない。
で?今回はジブリの映画を見るってことでいいか。
『おぉーい、大当たりって言ってるんだからさぁ、少ーし位喜んでもいいと思うんだけどなぁ?』
幻聴に返答するのもあれだが、ここは湯屋じゃない病院だ。
『知ってるよぉ、でもさぁ、嬉しいことがあったなら喜ばないと損じゃないかなぁ?大当たりだよぉ?ふつーの当たりじゃないんだよ?ってゆーかなんで神様相手にそんなに強気でいられるのさ?』
なんだかふわふわしてる声だな、聞き取りにくいようでしっかり聞こえる不思議な声が響くように聞こえていた。
強気?お前のせいでなかったとしても、こんな状況にしたやつの同類を敬えってのか?つーかどの神様だよ。
『あぁー、分からないかぁ。閻魔だよぉ』
閻魔だった。
最近ふと今まで投稿した話の改良をしてたのですが、最初の方は3000文字やら4000文字やら随分とまぁ短く自分の書いたものに少々驚かせていただきました。
ただ、よくよく考えてみたら3000文字やら云々が短いのではなく、最近書いているものが間延びしているんじゃないかしらと段々不安になってきたりして、とはいえ改善の仕方もわからないものなので紅茶を啜り、悠々書くことしか出来はしないのですけど。
兎も角、〆切超過については申し訳ありませんでした。
次回は……なんて書くとやはりダメな気がして仕様が無いので、まぁ、なる早で書き終えます。
ではでは。




