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不変な民族

作者: 藤宮英二
掲載日:2019/05/02

 

 

 ある水の美しい惑星に一隻の巨大な宇宙船が近づいていた。


「船長!目的の惑星が見えてきました!」

 一人の操縦士が声を上げた。

「おぉ!遂にか、ここまで長い道のりであった。」

 船長の男は大きく息をはいた。

「いよいよか…緊張しますね。」

 操縦士の彼は顔を強張らせて言った。

「落ち着け、そこまで気に病む必要はない。星に住む住人は我々と同じ人型をしているらしいし、住人はとてもおとなしい民族で遥か昔からほとんど生活や文化を変化させていないという話だ。」

「それなら私達の目的も達成できそうですね。」

 操縦士は顔の頰を緩めた。

「うむ、今回は視察だが、最終的な目的である、惑星の住人を捕虜にして連れて帰ることも簡単だろう。」

 船長は胸を張って答えた。

「でも船長、仮に彼らが拒否したらどうします?」

「その時は我々の科学力を見せて、屈服させるまでさ。なーに、心配いらない、奴らには我々ほどの戦闘力など持っているはずもない。この船が降りるのを見れば恐怖で震えて一発で何でも言うことを聞くようになるさ。」

「そうですよね。さぁ見えてきましたよ。あれが目的の星かー。そっくりですね、私達の星に。」

「よし!総員、着陸準備だ!」


  船はゆっくりと降下していき、遂に着陸をした。

「大気の成分、重力も我々の星と同じです。宇宙服はいらないでしょう。」

「よし、降りる準備をするのだ!」

 船長を含む乗組員の大半が外に踏み出した。

「船長!星の住人が近づいてきます。」 

 一人の隊員が指差した方を見ると、ゾロゾロと住人が歩いてきた。

「驚いたな、我々とそっくりだ。」

 その星の住人は頭の先から足のつま先まで隊員達と全く同じ姿をしていた。

 そればかりか、

「ようこそ、いらっしゃいました。」

 人間の一番先頭にいる男が丁寧に笑顔で挨拶をしてきた。

「私はこの街の市長をしております。」

 彼は丁寧に一礼をした。

「見たところ、遠くよりおいでなさったようで、お疲れでしょう。ささやかながらおもてなしをさせていただきたいのですが…。」

  (なんと呑気な民族なのだ。)

 船長は彼らが驚愕の反応をすると予想していたのでこのような丁寧な対応に逆に彼自身が驚いた。

  (もしかすると、これは油断させるための奴らの作戦かもしれない、だがあの市長が言う通りに皆、疲れている。相手をよく観察するにも、この提案は受け入れよう。)

「ありがたい。では視察させてもらう。」

 彼は市長の男に愛想の良い笑顔で返した。

「ではこちらへ。この辺を案内しますよ。」

  すると市長も笑顔で返すのだった。


  それからしばらくの間、市長の案内に身を任せ、隊員達は視察とは名ばかりの観光をして回った。

 隊員達は市長と名乗る男に連れられ、街の中を見学した。いくつかの塔、綺麗に並び建った家々やアパート、畑を耕す農家、のれんを出してダシの良い匂いを漂わせる屋台の主人達、公園で遊びまわる子供達の姿、他多数の平穏な日常があった。

 隊員達は彼ら人間たちが周りから彼らを見ていることに気づいた。

 みんな物珍しそうに見てくるため、

  (やはり他の惑星との交流がほとんど無いのだろう。)

 哀れに隊員達は思ったが、ジロジロ見られるのは少々恥ずかしかった。

「どうですか?我々の文明は。なかなかのものでしょう?」

 市長が歩きながら後ろを振り返り、船長に笑顔で尋ねた。

「えぇ、どれも興味深いものばかりですよ。」

 そう船長は笑顔で返した。

  (こんなものは文明ではない、やはり私達の方が立派な文明を築いているのだ。)

 内心ではそんなことを考えていた、どうやら後ろにいる隊員達も同じことを考えているようだった。

「まぁ皆さんのような方々から見ると退屈かもしれませんがね。しかし我々も日々努力をしているのです。」

 市長はまた笑顔でそう返し、

「それに最近では科学の分野にも力を注いでいるのです。」

 そう付け加えた。

「ほう。それは見てみたいものですね。」

「是非とも後で体験していただきたいと思っております。続いては街の中心地へ参ります。」


  街の中の見学ツアーなるものはおよそ二時間くらいであっただろうか。

 その後、隊員達はあるレストランの宴会場に通され、手厚いおもてなしをそこでも受けた。

「船長、この民族とても良いですね。」

 酒を呑み、顔を赤く染めた隊員が陽気な声で話した。

「おいおい、本来の目的を忘れるなよ。」

 言いながらも船長自身も浮かれながら言った。

「わかってますよ、彼らは穏やかで人懐っこい、おまけに他の星から来た者達に対しての警戒が全く無い。だから大丈夫ですよ、征服できるでしょうね。」

 笑いながら話す隊員に船長は、

「そうだな。」

 短く相槌程度に返した。


  宴会を楽しんでいると、あの市長が一人の老人を連れて入ってきた。

「皆さん、そろそろ夜も更けてきました。近くのホテルに部屋を取ってありますので今夜はそちらでお休みください。しかしその前に是非とも味見していただきたいものがございます。」

 そう男が言うと老人が隊員達の前にグラスに入った透明の液体を配った。

「何でしょう、これは。見たところ酒のようですが。」

 船長が尋ねた。

「さよう、酒でございます。これは我々の持つ力を結集して苦労して作り上げた自慢の酒です。材料、製造工程全てにこだわっています。どうぞご賞味くださいませ。」

 老人が丁寧に説明した。

「うむ、みんな、頂こう!」

 全員がその酒を呑んだ。そして一斉に声をあげた。

「美味い!こんな酒は初めてだ!特に香りが素晴らしい。」

「どうしてこんな美味い酒が作れるのですか?」

 みんな口々に訊いた。

「お口にあったようで、こちらも嬉しいです。しかし作り方を教えるわけにはいかんのです。このレシピも我々の大切な資産ですから。」

 フッと老人は笑った。

  (どうしても教えてくれないわけか、それでも構わない彼らはもうすぐ我々に征服される、そうすれば嫌でも作り方を吐くことになる。)

 船長はそう思った。


  宴会も終わり、隊員達は取ってくれたホテルにむかおうとレストランの外に出た。

「あれ?こんな建物ありましたっけ?」

  一番最初に外に出た一人が言った。

  「おいおい、呑みすぎだろ。」

 そう言いながら船長は隊員全員を外に出るように促し、最後に出た。

「なんだ?これは。」

 確かに彼らには景色が違って見えた。

 しばし理解に時間がかかったが、それは隊員達みんなに見覚えがあった。それは彼らのふるさとの星でよく見る、ミサイル発射基地であった。それも一つではない、無数の発射基地が隠すそぶりもなく、建っていた。

「これは…まさか、そんなはずはない。この星にこのような軍事力はないはず…」

 船長は驚きでぼんやりと呟くことしかできなかった。

「船長…あれ、さっきまでただの塔だったのに…あれは核ミサイル発射基地ではないでしょうか!」

 隊員達の声、顔が先ほどまで酒で赤く染まっていたが、恐怖が青く染め直した。

  それは船長も同じで、

「こんなバカな話があるわけない…あんな巨大な核ミサイル基地など我々の星にはないぞ!」

 と、声を震わせた。

「船長!住人が!」

 隊員の声で我に帰ると、目の前に星の住人達がこちらを見てニヤニヤと笑っていた。

「無理だ…この星を侵略するなど、無謀すぎる、どうやってこんなに多くの戦闘力を隠していたのだ、ほかにどんなものを持っているか分からん!こんな危険な場所からは…撤収だ!」

 隊員達は駆けだし、乗ってきた船に乗って大急ぎで宇宙へ帰っていった。


  それをレストランの中にいた市長が隣にいた老人に、笑って言った。

「やれやれ、帰って行きましたね、博士。」

「あぁ、上手くいった。我々の作った酒、これは飲ませた相手に恐怖の幻覚を与える酒だ。」

 博士と呼ばれる老人は得意げに答えた。

「これこそ、我々の文明が総力を結集して作った、科学力の塊ですものね。」

 市長も満足げに言う。

「これがあれば無駄な争いを回避することができる。彼らと私達とでは科学の使い方が異なっているようだが、本来科学とは争いに用いられるものではない。科学力を持って争うなど、愚行だよ。争いなど、民度の低いことを起こさないようにするためのものだからな。」


  二人はレストランを出た。

「おやおや、彼らが物珍しくて、みんなここまでついてきていたようだね。」

 中心地近くに住む住人が外に出てきてしまっていたようだった、理由は訪問者を見るためである。

  みんな口それぞれに、

「いやぁ、初めて見たな。なんだか感激だ。」

 それを聞いた子供が父親の袖を引っ張り、見上げながら尋ねた。

「お父さん、あれは誰なの?」

「あれかい?ずっと遥か昔から互いの星の民族同士で争いを繰り返し、傲慢で、お互いに蔑みあい変化も発展もしていない民族さ。名前は確か、そうだ、『地球人』、といったな。」

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