カナエ
私の名前はカナエ。
人と会話をするために博士に作られ生まれたロボット。
そして今のご主人さまは中田様。
白い髭に、白い髪に、細い目、車椅子に乗っている。人間でいうおじいちゃんといえる年のお方。
私と中田様はいつも、たわいもない話をする。
今日は、天気が晴れているねだとか、ときより冗談を交えながら、面白い話をしてくれるそんな人だ。
だが、中田様は過去の話をほとんどしない。
だから、私も過去のことには当然触れないし、今日はお庭の花が咲きましたよ。とか、そんな日常にあったことを話す。
ですが、私としてはいつも中田様は穏やかで笑顔なのに、時々、悲しそうな顔をする理由がずっと気になっていたのです。
そしてに日にちはあっという間に過ぎ、とうとう中田様の最期の日がやって来ました。
今にも目を瞑ってしまいそうな…そんな雰囲気で、私は、最期の中田様との会話をしました。
中「お前もずっと気になっていたのだろう?私の過去の話だ。」
中「私には妻がいた。チエ…それが私の妻の名前だ。」
中「チエは君が来る2年前に亡くなった。ガンだった。私はチエを亡くしたことに、チエの病気にもっと早く気づいていたら…ということに毎日後悔を続けていた…」
中「そんな時だった。君が来てくれた。君と喋っている時、楽しくてとにかく、私の毎日は明るくなった。」
中「時より君がチエと重なる時があった。そんな時にお前は…カナエは、いつも心配という顔をしてくれたな。お前は本当に優しいやつだ。」
カ「中田様は、チエ様が大好きなのですね。チエ様にもう1度会いたいと願うことはありますか?」
中「あったよ…ただ願ったってもう叶いはしないことを私は知っているからね…」
カ「そうなんですね。私が願いを叶えます。」
そうして私は姿を変える。中田様が願っていた…中田様の大好きなあの人の姿に。
中田様は少し目を開いて、こう言った。
中「…!…チエ…すまない、お前を死なせてしまって本当にすまなかった…本当は私が…」
チ「何を言っているんですか、私はあなたがいたから、こんなにも素晴らしい人生が歩めたんです。」
中「お前はあの時も…そう言ってくれた…なぜ私はその事を…忘れて…」
大粒の涙を中田様は浮かべて私に最期の一言を言いました。
中「ありがとう。カナエ。私は、お前のことを娘のように思っているよ…最後にあそこにあるノートをよければ読んでくれ…」
カ「ありがとうございます。中田様、私も…」
そうして中田様は目を閉じ息を止めました。
私は中田様に言われた通りにノートを開いた。
最初のページには、
『チエは毎日、ノートに今日あったことをたくさん書いていた。私も、ノートを残して、カナエとの思い出を、あったことをたくさん書きたい。そして誰かの心に残したい。』
そう書いてあった。
そして、毎日私と中田様が何を会話していたのか、今日はどんな風に思ったのか、しっかりと書かれていた。
気づけば、私は涙を流していた。
これが、泣くということ。
これが別れ。
これが悲しい。
私は、とにかく泣いた。気持ちが収まるまで…ずっと…
最終的にお部屋のお掃除など最期の私は仕事を終え、博士の元へ帰った。
博士の汚い字で取扱説明書にはこう付け足されていたという…
「そのロボットは最期に一つの願いを叶える。」と。