第94話(マッハサイド):シュヴィリスの大勝負
黒竜のノアール相手にドゼウスの人間達とトオカッタの人間達が結託して奮闘している頃、自分達が乗る船の片付けを船の整備士達と一緒に急ピッチでし続けていたジョージアとトリップメンバー一行。
「はーっ、ようやく片付いたぜ!」
「これで何とか出発出来そうだな」
明と周二は額に浮かんだ汗を拭いつつ、安堵の息を吐いて船に乗り込む為に今度は渡し板の準備を手伝い始めた。
これでとりあえず出発してしまい、30ソアラは後でまた運んで貰うと言う約束を一緒にここまでやって来たジョージアとかわしてから、地球からトリップして来た3人とシュヴィリスは船に乗り込もうとする。
しかし、事態はこの後に急展開を迎えるのだった。
「ベラルド卿っ!!」
息を切らせながら走って来た海兵隊員に気付いたジョージアが、大方予想はつくものの一体何があったのかを聞いてみる。
「どうした?」
「あの黒い男に対して、我々ではもう限界です! べラルド興も我々に加勢をお願いしたく……げほっ、げほ!!」
ハァハァと息を切らせながら走って来たせいか、既にセリフも最後まで続かない伝達役の海兵隊員を見てジョージアの目つきが変わる。
「……ああ、分かった。と言う訳でこれから俺はビアードを手伝いに行って来るから、後は勝手に船に乗り込んで中央大陸まで行ってくれ」
あの屋敷で大説教をかまされていた時とはまるで別人の声色と顔つきに、真顔で頷く地球からのトリップメンバーの人間達。
だが、異世界のドラゴンであるシュヴィリスだけはまた違う反応を見せる。
『あの黒いの、まだ暴れてるの?』
「そうらしい。後は俺達で何とかするから早く船に……」
『原因作ったのは確かにこっちだけど、だからと言ってこの街の人達を巻き込むのは僕は感心出来ないね!』
彼なりに思う所があるのか、指をパチンと鳴らして本来のドラゴンの姿に戻ったシュヴィリスは翼をはためかせて一気に大空へと舞い上がる。
「なっ……おい、シュヴィリス!?」
「何をする気だ!」
『心配しないで。すぐに戻って来るから!』
ジェイノリーと周二が慌てるのを眼下に見下ろし、シュヴィリスは風を切って港から離れて行く。
すぐに戻れるだけの距離……シュヴィリスが向かうのは戦場だった。
【あそこだね……】
シュヴィリスの目で十分に捉えられる、さっきの黒尽くめの男とビアードとドゼウスからの追手達。
黒尽くめの男が戦っているのはその追っ手とビアード達であるのが良く見えるので、さっきの伝達兵の話を聞いてシュヴィリスは覚悟を決める。
一方で戦っているノアールとビアード達は、急に自分達の上に出来た大きな影とはためく翼の音に思わず動きを止めた。
「何だ!?」
「た、隊長……あれは!!」
「なっ、何故戻って来た!?」
驚くビアードとレドと守本の頭上に突然現れた青いドラゴンは、一気に戦闘場所に向かって急降下して来る。
そして地面に腹を掠めるか掠めないかの所でグッと身体を持ち上げ、鋭い爪を上手く使って黒尽くめのノアールをクレーンゲームの景品の如く引っ掛けて大空に舞い上がる。
『なっ、何をするっ!?』
『もう良い加減にしてよね!! だったら君も来れば良いじゃん!!』
白竜のロウの次に冷静沈着な性格のノアールも、自分がまさかドラゴンに掴まれて宙に浮くとは思いもよらず軽いパニック状態に陥る。
そして彼を掴んだシュヴィリスはそう叫び、船へと向かってUターン。
「隊長っ!」
「ああ、追うぞ!」
「俺も行く!」
今まで戦っていた3人の人間達も勿論黙って見ているだけでは無く、すぐに足を動かして青いドラゴンを追いかけ始める。
『……貴様、我をここまで連れて来るとは正気か? 今すぐに闇に呑み込ませても良いのだぞ?』
逃げ切らなければいけない対象をわざわざここまで連れて来るとは、この青いドラゴンは一体何を考えているのだろうか。
ノアールは勿論、ジェイノリーも明も周二もジョージアも頭の中が「?」マークで埋め尽くされている。
そんな一同に対して、連れて来た張本人……いや、張本ドラゴンのシュヴィリスは口を開く。
『僕等だってこれ以上揉め事は起こしたくないんだよ。確かに君の住処を壊しちゃったみたいだからそれは申し訳無い。でも僕達、ドゼウスからこれ以上逃げ続けるなんて御免だね』
『だったら尚更の事、我から逃げるべきだと思うが』
一体お前は何を言ってるんだ、と言いたげなノアールの赤い瞳がシュヴィリスを射抜く。
しかしシュヴィリスもドラゴンなので、意にも介さずに続ける。
『あのまま僕達を追う為にこの町に被害出されて、それでまたドゼウスと揉めるのなんて嫌だもん。だったら一緒に中央大陸までついて来れば良いんじゃないかと思ってね』
「おいおい、何言ってんだよ!! 変な気起こすなよぉー!!」
悲痛な明の叫び声だが、そう言われたノアールは腕を組んでしばし考え込む。
『ふむ……だったら我も中央大陸で色々と調べたい事があるから連れて行け』
「おい、本気で言っているのか?」
低い声で問う周二に、ノアールは直感的にジョージア以外のトリップメンバーを見て感じた事を口に出した。
『我は本気だ。ドゼウスの代表として貴様等を見張らねばならん。……この世界の者では無さそうな気がするからな』
「……何故そう思う?」
ジェイノリーからの問いに、ノアールは非常にシンプルに答える。
『直感だ』
「……で、この状況だと結局問題は解決したの?」
『うん。と言う訳だからソアラ持って来てこの船に積まないとね』
何時ものトーンに戻ったジョージアの疑問に、シュヴィリスはこれからの行動を口に出しながら肯定する。
「何だよもう! だったら仕舞わなきゃ良かったぜ!!」
やっちまったー! と言う感情がありありと読み取れる明のその声と表情に周二も「全くだ」とうんざりした口調で呟きつつ、船の整備の為に再度道具や材料の準備をさせられる破目になってしまったのだった。
最終的に船の整備を終え、30ソアラも船に積み込んでから一同は中央大陸を目指す。
トリップ組の4キャラ、それからこちらの世界のノアール……とドゼウス青の小隊の守本とレドと共に。
ビアードと共に港までやって来たこの2人も、ノアールが中央大陸に行くと知って着いて行く事にしたのである。
「……ドゼウスには戻らなくて良いのか?」
『最終的には戻る予定だ』
「ああ、俺達もドゼウスの代表として中央大陸に一緒に行くぜ」
「勿論、着くまでに今までザラス大陸の各地で起きた事を私達に色々と話して貰いますよ?」
にこやかな笑みだが目が全然笑っていない守本。断れない雰囲気である。
そして次の瞬間、現在はシュヴィリスと同じく人間の姿のままのノアールがポツリと呟いた。
『フリージア……我はこの選択で間違っていないのだろうか?』
「フリージア……?」
聞き慣れない名前を耳にしたジェイノリーが訝しげな視線をノアールに向けると、それに気がついたノアールが頭を横に振りながら答える。
『我等ドゼウス7竜の1匹だった竜の名前だ。正確にはロウと言う白竜の伴侶だったのだが……その竜の事を思い出していた』
「1匹だった……か」
これ以上は突っ込む事はしない方が良さそうだと思ったジェイノリー、そして他の人間達にシュヴィリスも同じく口を閉じて黙っている。
だが、その中で周二がポツリと一言だけ呟いた。
「……自分が正しいと思った選択なら、何時か正しいと思える時が来ると思う。俺達にも……地球に帰るチャンスは必ず巡って来ると思う」
そうで無ければやってられないからな……と言う周二のセリフも一緒に乗せて、船は中央大陸へとゆっくり進んで行った。




